Chapter 2 episode: Dark Night Walkers
薄い闇に包まれた室内に、人の気配は少ない。奥のほうでカチャリ、カチャリと金属質の音がわずかに響くだけで、影は見えなかった。
しばらくして、ひとつため息。料理か何かを失敗したようだった。
居間に出てきた女は、遠方から届いた足音に扉のほうへ目を向けた。
すぐに、それは開かれた。
「〈省〉、か」
入ってきたのは、弟の省だった。歩幅からして初めから予想できたが。
「〈麗奈〉は?」
「例の学校へ向かった。忍び込んで調べるつもりらしい」
「あの目立つあいつが隠密行動ができるとは思えん」
「だが、あそこに正面から入れるのは麗奈だけだ」
「それはそうだが」
省は勝手に棚からワインボトルを出し、グラスに注いだ。
「ロミオは?」
「あいつも同じだ」
「みんな、あの学校がお気に入りか」
「本来、あそこが狙いではないんだが」
「だが、鍵を握っている」
「――ああ、そうかもしれない」
女が黒いエプロンを外しながら、大振りのソファに腰かけた。
「姉さんが料理なんて珍しいじゃないか」
「ミカと呼べと言っている」
「ここには二人しかいないよ」
焦げた匂いがすることには、あえて触れなかった。
「それにしても」
と、ミカ。
「不確定要素が増えすぎた」
「本当に不確定だったのか」
「逆にこちらが狙われていると?」
「わからないが、あの男がこの町に現れたタイミングがよすぎる」
「……確かに」
もし、すべてが一本の糸でつながっているのだとしたら、厄介なことになる。
「姉さんは、これからどうするつもりなんだ?」
「どうもしない。これまでどおりだ。そもそも、我々に決定権などない」
「だが、意見を言うことはできる」
「意味がない」
ミカが立ち上がった。話を打ち切ろうとするときによくする所作だった。
「我々は自分たちの役割を果たすだけだ。余計なことは考えなくていい」
「だったら、俺も少し動くよ」
省がグラスを置いた。
「麗奈のことを言えないじゃないか」
「いや、俺のやり方は違う。〔こちらから動かしてみる〕」
ズボンのポケットに片手を突っ込み、省は扉へ向かっていった。
ミカはその後ろ姿を、目を細めて見送った。