Chapter 2 episode: Confusion/ Consideration
結界が解かれた。
その現実に、複雑な思いが胸中で渦を巻く。
脅威を感じると同時に、こころのどこかでうれしく思う気持ちまである。
こころの整理がつかないままに、響子は文学部の部室へ急いだ。
資料室にある結界は、強力なもののはずだった。それが、いとも簡単に破られるとは。
――最近、変なことばっかり。
不確定要素が確実に増えた。なんでこう短期に一気に、と悪態をつきたくなるが、これも必然なのかもしれない。
そんなことより、
――早く伝えなければ。
あそこは、あの人にとって大切な場所。かならず守り通さなければならないはずだった。
しかし、あれがあの人のこころを縛ってもいる。
職員室で、愛おしげにブレスレットを見ていた姿を思い出す。
――あんなもの、なくなってしまえば。
その気持ちは思いやりなのか、嫉妬なのか。
「!?」
余計なことを考えている間に、もうひとつの結界まで破られたのを感じる。
――これで、もう。
その事実に安堵する自分が嫌だった。
「あ、響子ちゃん」
突然かけられた声に、はっとして顔を上げると、そこには見知った顔がいた。
「弥生……」
今会いたくない人物と顔を合わせてしまい、響子はさっと目を背けた。
「最近、どうしたの? メールもしてくれないし、一昨日も……」
「…………」
話しかけても反応は鈍かった。
それでも、弥生はめげずに声をかけた。
「何か私にやれることない? もしよければ――」
「あなたには関係ない」
「響子ちゃん……」
声は冷たく、明確な拒絶の響きがあった。
弥生の横を音もなくすり抜け、二三歩進んだところで、響子は振り返らずにふとつぶやいた。
「――あのときの〝裏切り〟、私はずっと忘れない」
「あ、あれは……!」
あわてて発せられた弁明の声は届かなかった。
響子の細い背中が遠くなる。
そこに、親友の影は見えなかった。