Chapter 2 episode: Visitor
関係者用と書かれた校舎の入り口は暗く、どこか陰気な気分にさせる。
なぜかわずかな後ろめたさを感じながら、白鳳高校の正面玄関から中へと入った。
ここへは、学校間の交流という名目でたびたび訪れていた。もはや緊張感はないのだが、他の学校の制服で訪れる行為にまだまだ違和感があった。自分のスカートの短さが気になってしまう。
「ちょっと待ってよ、麗々」
前を淡々と進む女教師に、不満げに声をかけた。
「麗奈、ここでは先生と呼べ」
「だいたい、なんで私がこんなことを。先生の妹にやらせればいいじゃない」
「あいつは忙しい。暇なお前がやるべきだ」
「失礼な」
荷物を持ち直しながら、片手で器用に頭の両側でまとめた長い髪を整える。
「〈希乃〉たちとはちゃんとやってるのか」
「今は活動休止中」
「なぜだ」
「私、忙しいし」
「高校生が何を言っている」
「高校生だから忙しいの」
どうでもいいといえばどうでもいいことを言い合いながら、それでも廊下を進んでいくと、突如、床が震えた。
「!」
明確すぎる霊気の波動。肌がちりちりするほどの圧力を感じる。
つづいて獣のような咆吼。明らかに常軌を逸していた。
「――何、今の?」
「さあな。この学校はいろいろある」
「そういう問題?」
「いちいち相手にしていたら身が持たん」
そう言う麗々の顔は、本当に気にしていない様子だった。
だが、麗奈にとっては気が気でない。
――なんなの、この学校。
自分たちが狙いをつけておいて言うのもなんだが、不確定要素が多すぎる。
華院という男の登場、それを守るようにしている女。
@少年も、ここで想定外の事態に陥ったと語っていた。
――みんな、ここの実態をわかってるの?
どうにも、ターゲットを間違えたように思えてならない。そもそも自分にとっては、麗々がいる時点でかなり厄介だった。
「〈痛〉っ」
霊気の波動が伝わってくる方向を見ながら歩いていると、突然の衝撃に尻もちをついてしまった。
あわててスカートを押さえつける。近くに男子生徒がいなくてよかったと思う。
一言文句を言ってやろうと視線を上げると、そこには冷たい目をした女子生徒がいた。
「ちょ――」
「前をよく見て歩いて」
先手を打ったのは仁科 響子だった。
「仁科、来客に向かってなんだ、その態度は」
「先生の知り合いなら客じゃないです」
「ふむ、それもそうか」
なぜか納得してしまった麗々を相手にせず、響子は結局謝りもせずに行ってしまった。
その背中を睨みつけながら、麗奈は女性らしからぬ悪態をつきつつ起き上がった。
――まったく、この学校は。
床の振動と獣の叫びは、未だつづいていた。