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牙 - kiva -  作者: takasho
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Chapter 2 episode: Watchdog of Underworld 1

 麗々先生の緊張感がありすぎる授業がようやく終了し、教室内にほっとした空気が流れる。

 相変わらず集中攻撃を受けた蓮はぐったりと倒れ伏し、もはや声を発する気力さえなかった。

 ――俺はきっと、ここで過労死するに違いない。

 そんな確信めいた予感を覚えながら、これから先のことを思う。

 得体の知れない学校、そこに集う得体の知れない者たち。

 自分だって人のことは言えないのだが、ここはあまりにも尋常ならざる存在が多すぎる。

 ここ数日だけでも、いったいどれだけのことが起きたか。このクラスだけを見ても、不審人物は複数いる。

 自分こそが最大の不審人物だという自覚のないまま蓮が上体を起こそうとしたとき、首筋にすさまじい悪寒が走った。

「華院れぇぇぇん」

「ぎゃーっ」

 強烈な冷気を感じて振り返ると、前髪の長い男がよく冷えたペットボトルを右手に握っていた。

「『ぎゃーっ』っていい悲鳴……ぷっ」

 こちらのことなどお構いなしに、くつくつと笑っている。

「貴様……」

「あー、〈ひかる〉にはかかわんなって」

 と言ったのは、横にいる圭だった。

「いつもこんな調子だから」

「そこは圭の席のはずだろう」

「どうしても変わってくれって。これがやりたかったらしい」

「この野郎……」

「蓮ボーイはチキンボーイ……くすっ」

「な・ん・だ・と……!?」

「レンレーン眼鏡っ子……眼鏡に……目がねえ……ぷっ」

「…………」

 確かにかかわらないほうがいいらしい。

 舌打ちしつつ立ち上がると、圭が口を開いた。

「そういやあ、お前、次の授業の当番だろ」

「ふんっ、そんなものは他にやらせればいい」

「また麗々先生に怒られるぞ」

「…………」

 もう一度『ちっ』と舌打ちして、それでも蓮は資料室へ向かおうとした。

「気をつけろ、チキンボーイ。犬がそこに……いぬ。にやり」

「俺はチキンじゃない」

 もはや相手にせず、蓮は廊下に出た。

「…………」

 一歩進むと一歩近づいてくる。

 二歩進むと二歩近づいてくる。

 一歩下がると――問答無用で接近してきた。

「なんなんだ、いったい」

 苛立って振り返ると、そこには天敵の黒髪妖怪クロリンがいた。

「なんだって別にいいじゃない」

「よくない。迷惑だ」

 少し傷ついた様子になった美柚だったが、蓮は相手にせず再び進みはじめた。

「資料の準備でしょ。手伝ってあげる」

「結構だ」

「プリントとか意外と重いから」

「俺には重くない」

「道がわからないでしょ」

「余計なお世話だ!」

 一喝すると、さすがに憮然とした表情になって立ち止まった。

「私を避けなくたっていいじゃない!」

「避けて何が悪い」

 本音をさらりと言ってのけ、構わずそのまま歩きつづける。

 気配が遠ざかっていくのを不審に思い、振り返ると――

「あ」

 また泣いていた。

 ざわっ。

 周囲の空気が一変する。廊下にいた生徒たちがいっせいに非難の視線を向け、学園の姫を貶めた輩を糾弾する。

「またこいつ……」

「女をなんだと……」

「ひどいことして責任取らず……」

「妊娠させて……」

「認知せず……」

 時間を追うごとにエスカレートしていくその内容に、もはや歯止めをかけるすべはなかった。

 しかも、それがすさまじい勢いで拡散していく。

「…………」

 追いつめられた蓮は、ひとつの決断をした。

 また逃げた。

 思うように動かない体を叱咤し、廊下の奥へ向かって必死に走った。

 周りの視線が痛いが、今を耐えればきっと道は開けてくる。そう信じて、ひたすらに足を前へと動かした。

 どれくらい走ったろう。いい加減ばかばかしくなってきた頃、荒く息をつきながら足を止めると、さすがに周囲に人影は見られなくなっていた。

 汗をぬぐいながら顔を上げた目の前には、『社会科資料室』の表示が見えた。

 ――ほら見ろ、俺は方向音痴なんかじゃない。

 ただの偶然を自分の実力に格上げして、蓮は意気揚々と扉を開けた。

 視界を覆う黒い影。

 そこには、ザ・リアル四谷怪談~現代版~がいた。

「どういうことだっ!?」

「先回りすれば……会えると……思って……」

 しゃくり上げながら語る美柚の表情は見えない。

 怪しいものには慣れているはずの蓮もさすがに心底驚いて、相手を罵ることも謝ることも忘れていた。

「そ、そんなに手伝いたいというならやらせてやってもいい」

「何、その言い方。自分が悪いって自覚あるの?」

「うるさい。お前が勝手についてきただけだ」

 ようやく泣きやんだ美柚を押しのけて中に入った。

「ほこりっぽいな」

「資料室なんてどこもこんなもんでしょ」

 それはそうだと思いながら、必要な物を探る。

「――うん?」

 ふと、気になるものが部屋の奥にあった。

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