Chapter 1 episode: Onlookers
暗闇は、人を救うのか、堕落させるのか。
電灯がないのに物を認識できるほどには明るさがある不自然な空間で、四人の男女がそれぞれ思い思いの姿勢で戦況を見つめていた。
空間の中央に表示される映像、それが真っ赤に染まり、やがてブラックアウトした。
「あーあ、やられちゃったじゃない」
左右で髪をまとめた女子高生らしき女が、頭の後ろで手を組み、椅子に背を預けながら言った。
その口調には、わずかに失笑の色があった。
「仕方ないよ。どうせ眷属だし」
大きな箱の上に腰かけた黒衣の少年は、肩をすくめた。
「ロミオ、あんた、あいつと接触したんでしょ? なんで本当の力を見抜けなかったの?」
「〝あんた〟って呼ばないで、〈麗奈〉。あのときは――なぜか邪魔が入って」
邪魔というより最初からそこにいたのだが、土壇場になって急に力を発揮した。未知の存在は、あの眼鏡をかけていた男だけではない。
「どうも――奴が本物らしい」
そう言ったのは、鉄骨がむき出しの柱に背を預けて立っていたスーツ姿の女だった。暗がりの中でも、その短い髪が赤いのがわかる。
「あの程度の霊力で?」
「麗奈、最後の部分を見ただろう。あれは、まぎれもなく〝王者の資質〟だ」
「何かの間違いじゃないの?」
「それだったら楽でいいが」
それまで隅のほうで黙っていた男が、空間の中央へゆっくりと近づいていく。
片手を軽く横へ振ると、先ほどの映像が再び映された。
駒――眷属の女が勝ったかと思われた瞬間、男の刀を中心に爆発的に霊気が放出されていく。
それからは、もはや戦いになっていなかった。力、速さ、霊力、すべての面で相手が上回り、奴は遊んでいるようにさえ見えた。
そして、刀を振り下ろした瞬間、すべてが消えた。
『――――』
一同、しばらく声もなかった。これが現実だと受け止めるしかなかったからだ。
「でも、私たちでさえ見えない速さなんて……」
「麗奈を基準にしないでよ。僕たちは見えてる」
「ほとんど認識できないが」
皮肉を言おうとしたロミオであったが、中央の男、省に事実を言われ、ばつの悪い表情をした。
「姉さんはどう思う?」
「ここではミカと呼べと言っている。あれは、今後も注視するしかない」
今の段階では結論は出せない。その見解は皆に共通していた。
「じゃあ、なんで最初は苦戦してたのよ。演技には見えなかったけど」
「僕が戦ったときもたいしことなかった」
「さあな。それも謎だ」
今、憶測したところで意味はないと、ミカはきびすを返して奥の暗闇の中へと消えていった。
それにつづいて、なぜか失望した様子で省も姿を消した。
「そういえば」
と、麗奈。
「〔あいつ〕はどうしたのよ?」
「さあね。また旅行にでも行ってるんじゃないの?」
「はあ、勝手な奴ばっかり」
「麗奈が言わないで」
「はいはい」
二人の気配もすっと消えていく。
そして、光源の知れない薄青い輝きも同時に消失した。
あとには、黒い闇しか残らない。