私の事を知らないあなたへ―国分元春視点
グループ企画、砂漠の薔薇、見つめる先に、などで検索すると、他の作者様の作品を読めます。
屋上は風が心地よく吹いていて快適だった。俺は手すりにもたれてグラウンドを走り回る人間を観察していた。
「あーあ」
俺の溜め息が青空に吸い込まれていく……。
俺の名前は国分元春。顔も性格もそこそこのごく普通のどこにでもいる男子高校生だ。人は俺を、
「女たらし」
とか
「軟派男」
とか、
「ジェシーの玉の輿狙い」
なんて呼ぶ。
ジェシーってのは、俺の親友でこの学校のモテ男だ。普通の男子なら、誰もが彼のことを羨むことだろう。
さて、何でこの悩み事なんて皆無みたいな性格してる俺が溜息ついてたかというと……。ついさっき俺はもう一人の親友、早川祐太にこの学校のサイトの掲示板に載っていた、
『私の事を知らないあなたへ』
という書き込みを見せられた。俺はその内容を読んですぐにピンときた。
これを書いたのは、津田志保ちゃんだと。
……津田志保。ジェシーのことが好きなおとなしい女子。そして、俺が今惚れている女子。
……なんだけども!!
あの書き込みには心底びっくりした。おとなしそうな印象のあの子が、あんな大胆な書き込みをするなんて。いつも一緒に行動しているあの子……、田中優奈さんの性格がちょっと移ったのかな? なーんて考えてしまったりもした。
でも、正直ジェシーがかなり羨ましかった。それだけ志保ちゃんにおもわれてるってことだもんな。俺的には、あのクールガイのどこがいいのかまったく理解できないんだけど。……しっかしやっちゃったな。ついつい俺、祐太が書き込みをした犯人探しをしようって言い出したときに
「あの子じゃないかな」
って志保ちゃんを指差しちゃったんだよね。……ま、ジェシーも祐太も本気にしてなかったけど。あーくそ、イライラする。年頃の男っていろいろと大変だからなー。俺はとりあえず、最近気に入ってる美術室へと向かった。
「おー、いつもながら仏頂面だな、アグリッパ君」
美術室に入ると真っ先に目に飛び込んでくるアグリッパ像。いっつも見る度に顔つきが変わって何かを語りかけてくれてる気がする。……ま、そんなことを思ってるのは俺だけかもしれないけどな。さて、今日のアグリッパはなんて言うかな。
「打ちひしがれてんなー、お前。好きな子にでも振られたか? ……まぁ、それもいいんんじゃないか、青春の一ページってことで」
アグリッパが勝ち誇ったような顔で言った気がした。なんとなく、いや、だいぶむかつく。
「そういうお前も今日は気が立ってるんじゃないのか? 今日はあんまり顔色がすぐれねーみたいだけど」
俺が言い返すと、アグリッパは今度は気落ちしたような顔をして
「そう、そうなんだよ。一年坊がな、俺の顔が不細工だとか言ってきてな、今かなり気が立ってる」
と言った(気がする)。俺は言ってやった。
「アグリッパに嫉妬してるんじゃね? お前があまりにもかっこいいから」
冗談のつもりで言ったんだけど、アグリッパは嬉しそう(に見える)。と、その時……
「お〜い、軟派男の国分元春君、一体誰と話してるんだー?」
後ろから祐太の声がした。俺は慌てて祐太の方を振り返って
「いや、何でもないって! ちょっと落ち込んでただけだって!!」
と言った。それを聞いて祐太は笑った。
「何?津田さんがジェシー狙いだったから落ち込んでんの。青春だねぇ……」
げっ。お前、さっきの話信じてたわけ?
「ちっ違うって! 昨日の数学の小テストが0点だったのがショックで……!」
俺があわてて言ったその声があまりにも大きすぎたため廊下の方まで聞こえたらしく、通り過ぎる同学年の奴らが
「おー元春は数学の点数、0点だってよー! 同情するよなー!!」
なんて叫びながら教室へと戻っていった。祐太はそいつらが教室へ消えるのを待ってから
「嘘つかなくてもいいって。俺、お前が昨日のテスト48点だったこと知ってるんだから」
なんて言う。……うっ。こいつ、いつの間に俺のテストの点見やがったんだ。
「べ、別に気にしてねーよ、志保ちゃんのことは。……」
俺が言うと、祐太がアグリッパを眺めながら
「ま、すぐかわいい子ぐらい見つかるだろうよ。なんたってお前は
「軟派男」
の、国分元春なんだからさ」
と言った。その軟派男って言うのはやめて欲しいけどな……。
「ま、そうだな。また新しくかわいい子見つけることにするよ」
俺は言って、アグリッパを見た。ほんのちょっと彼は微笑んで
「頑張れ」
って言った気がした。
その時ドアからジェシーが現れ、
「ほら、二人とも授業始まるよ。遅刻はよくない」
とぶっきらぼうに言った。いつもながらドライだな、ジェシー。
「ほいほい、今行く」
俺たちは慌てて美術室を出て教室へと向かった。
また長い1日が始まる……。
追記:三人が遅刻して先生に大目玉をくらったことは、言わなくても分かる……わけないか。