おじいちゃんによろしく
この小説はセリフのみで構成されています。
「ほら、おばあちゃん。キレイにお化粧できたよ。」
「まぁまぁ、本当にキレイにしてもらって…。ありがとうね。
眠る前なのに我侭を言ってごめんなさい。」
「このくらい何てことないわよ。他にして欲しい事ない?」
「いいえ、大丈夫よ。もうこれで充分……。
久しぶりにあの人に会えるから、少しでも身ぎれいにしておきたかっただけなの。」
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「ごめんくださいな。こちら村長さんのお宅でお変わりなかったかしら。」
「はいはい。こんな辺境の村にお客人とは珍しい。
私が当代村長です。どうしました、おばあさん?」
「ええと。もう何十年も昔の話になるのだけど……。
北の森の中にある小屋のお世話を当時の村長さんに頼んでいたの。
お分かりになるかしら。」
「あぁーっ、アレの!
えぇ、えぇ。父から聞いて、ちゃあんと引き継いでいますよ。」
「それは良かった。ちょっと様子を見て来ても構わないかしら?」
「おばあさん一人でですか?…心配だな。
ちょっと待っていて下さい。私も一緒に行きましょう。」
「まぁ。ご迷惑おかけして申し訳ないわ。」
「なんのなんの。どうせ今日は暇でしたからね。」
「おばあさん、良ければ私の背に負いましょうか?
森は険しい。ご老体には堪えるのでは?」
「いいえ、大丈夫よ。今はとても身体が軽いの。」
「はぁ、それなら良いが…。疲れたらいつでも言って下さいね。」
「ご親切に、どうもありがとう。」
「さぁ、ここですよ。」
「あらあらまぁまぁ。懐かしいわぁ。
表に植えたリゴーの木、もうこんなに大きくなったのねぇ。」
「それがね、不思議なんです。月に一度ばかり様子見と掃除に来ちゃあいるんですがね…。
この小屋、いつまで経っても痛まないんですよ。」
「まぁ、そうなの。中に入ってみても?」
「もちろん、どうぞ。」
「ありがとう。村長さんはここで待っていて下さいな。」
「は……えっ。わ、若っ…………えっ!?」
「ここは何もかも昔のままね。…当時の思い出が甦るわ。」
「 」
「あらっ。お久しぶりです、あなた。随分と待たせてしまったかしら?」
「 」
「あぁ、そうねぇ。あの頃は私が待たされてばかりだったわねぇ。」
「 」
「まぁ、いいのよ。
だって、これからはずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
「 」
「ふふ。えぇ、私も。愛してるわ、あなた……。」
「だっ!な、こ、小屋が消えっ!?
おぉお、おばあさん!おばあさん!?どうなってんだぁ、一体!?」
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「くすくす。おばあちゃんたら乙女。でも、その気持ち分かるなぁ。」
「ふふ………………。」
「…………?」
「………………。」
「……おばあちゃん?」
「………………。」
「…眠っちゃった…のかな。」
「……多分。」
「幸せそうな寝顔だね。」
「うん。」
「お父さん、来られなくて可哀相。」
「ちゃんと報告してあげないとね…。」
「……おやすみなさい、おばあちゃん。」
「おやすみ、おばあちゃん。」
「天国のおじいちゃんによろしくね……。」
2011.11.23備考を活動報告へ移動しました