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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:【魔術】のエンライト、オルフェ・エンライトは紡ぐ
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第九話:スライムは温泉をたっぷり楽しむ

 二コラが温泉村一番の宿をとってくれた。

 料理がおいしく、地酒を用意してくれており温泉がついている。

 そして部屋も広いという最高の宿だ。


 その分、値段は高いが旅行でけちってはだめだ。

 滅多にこれないからこそ、お金に糸目をつけずに楽しみつくすべき。

 それが俺のモットーであり、その考えは娘であるオルフェに受け継がれてる。

 案内された部屋に荷物を下ろし、浴衣というこの村独特の衣装に着替える。

 うなじや胸元が見えて、お父さんは少し心配になってしまう。

 かわいいオルフェやニコラがこんな格好をすれば不埒な男が野獣になる。


「うわああ、スラちゃん、窓の外から滝が見えるよ。綺麗だね」

「ぴゅい!」


 この温泉村は大きな川の近くにある。

 そして、この部屋からはそれが見えるのだ。

 ほのかに湯気が出ている。あの川には温泉が漏れ出ているのだろう。


「オルフェねえ、先に温泉にする? それともごはん?」

「まずは温泉にしよう。あったまってからのほうがごはんも美味しいよ」

「ん。じゃあ、女将さんにそう伝えておく」


 高い部屋なので、食堂に降りて食べるのではなく、部屋に料理を運んでもらえる。

 それもコース料理で品数が多い。今から楽しみだ。


「二コラ、頼むのは」

「わかってる三人分、スラも食べるから」

「ぴゅーい♪」


 もちろん、俺も食べるし酒を飲む。

 スライムになっても味覚が残っていてよかった。食は人生の最大の楽しみだ。


「じゃあ、スラちゃん、ニコラ、温泉に行こ」

「ん」

「ぴゅっ!」


 そうして、二人と一匹、部屋を出る。

 部屋を出ると、ばったりと見知った顔と会った。

 相手のほうが俺たち……いや、オルフェのほうを見て目を見開いた。


「オルフェ様! お久しぶりですわ。こんなところで出会うなんて運命を感じます」


 まるで人懐っこい子犬のように桜色の髪をした少女が、オルフェのところまで駆け寄ってくる。

 豪奢な服に身を包んだ十代前半の少女だ。大変可愛らしく愛くるしい。


「これは、巫女姫様。お久しぶりです」


 オルフェは表情を引きつらせながら会釈する。


「そんな、巫女姫様なんて他人行儀です。昔のようにエレシアでいいですわ」


 この子は、この国の第三王女。

 王家は特別な血を引き継いでおり、浄化の力を持っている。

 とくにエレシアはもっとも濃く血を引いており巫女姫としてあがめられていた。


 ただ、あまりにも才能が有りすぎた。

 強すぎる力を持て余し、自らの力で傷ついていた。

 だからこそ、俺の屋敷に預けられることになり、その間、徹底的に力の使い方を教えた。そのときに世話係を任せたオルフェにべったりとなついてしまったのだ。


「そういうわけにはいきません。他の方の目もありますから」


 エレシアの背後には護衛の騎士たちが、六人ほどいた。

 巫女姫の護衛だけあって、一騎当千の猛者ばかりだ。


「そんな寂しいこと言わないでくださいませ。昔みたいに呼んでほしいのです」

「そうですね。人の目がないところなら。今日、私たちの部屋に遊びに来てください。エレシアの大好きだった卵たっぷりのケーキを焼いて待ってますから」

「約束ですわよ! オルフェ様のケーキ、ふわふわで甘くて、ずっとずっと食べたかったの!」

「ええ。腕によりをかけて作りますね」

 

 オルフェが微笑む。

 オルフェにとっては、彼女は手のかかる妹のようなものだ。

 エレシアは視線をオルフェからニコラのほうに移す。


「ニコラ。あなたも久しぶり。相変わらず化粧っけがないわね」

「余計なお世話」

「せっかく、可愛いのにもったいない。ちょっとぐらいオシャレしなさい」


 そう言って、ニコラに自らの髪を結っていたリボンを手渡す。

 ニコラは拒否しようとしたが強引に押し付けられる。

 さすがは王女の品だけあって、ものがいい。さらに、長年、巫女が身に着けていたことで聖気を吸い込んで礼装となっている。これ、出すところに出せばとんでもない金額になるだろう


「一応ありがと」

「相変わらず、ニコラは可愛くないですわ」


 エレシアは姉のようにオルフェを慕う一方、ニコラを妹のように可愛がっていた。

 ニコラのほうが、一つ年上なのだが見た目がちんまいので、妹扱いしているのだ。


「巫女姫様、一つお願いがあります。私とニコラがここに来ているのは秘密にしてください。できれば、護衛の方にもそう言ってもらえると助かります」

「わかりましたわ! 秘密にします。それでは私は行きますわね。これから大仕事がありますの!」


 そう言われてみれば、騎士たちは重武装。

 エレシア自身も、神具を身にまとっている。巫女姫としてことを為すための装いだ。

 彼女は背を向けて歩き出し、途中で足を止めた。


「……マリン叔父様のこと、残念でしたわね。今度、黙祷を捧げに行かせてください」


 オルフェは言葉に詰まり、悲しそうな表情をする。

 屋敷はもう、娘たちのものではない。

 そうか、エレシアは成金デブの暴挙を知らないのか。


「ええ、お父さんもきっと喜びます」


 そうして、エレシアと別れる。

 ただ、少し気になった。

 国の至宝たる巫女姫を引っ張りだしてまでの仕事。

 たしかに、この村は封印の地ではある。だが、一年に一度封印を補強すればそれで済むし、補強は先月に終わっているはず。

 ……何か怪しいものがここで動いているかもしれない。


 ◇


 温泉にたどり着いた。

 ここの温泉は露天風呂と屋根付きの二種類がある。


 オルフェの希望で露天風呂のほうに向かった。

 運よく貸し切り状態だ。ちょっと得した気分。


 石で作られた趣のある湯船、それに温泉特有の匂い。

 オルフェとニコラは、お湯で体を清めてから湯船に入る。


 もちろん、俺はオルフェに抱きしめられてる。

 そして、俺は【気配感知】を発動していた。万が一、二人の柔肌を覗こうなんてふらちな輩が現れたら、酸ビームを目にお見舞いするつもりだ。

 父親として娘を守る義務がある。


「はうううう、いいお湯。さすがは、温泉で有名な街だね」

「ん。疲れが抜けてく、溶けそう」

「美容にもいいらしいよ。お肌がつるつるになるんだって」

「素敵。たっぷりつからないと」

「ぴゅーいー」


 二人がまったりとした表情で全身の力を抜いている。

 俺の場合は気持ちよすぎて、比喩抜きで溶けそうになるのをこらえている。

 スライムでもこの温泉は楽しめる。ぷるぷるのスライムボディがつるつるになりそうな気がする。


「スラちゃんも気持ちいい?」

「ぴゅい♪」

「よかったね」


 オルフェが抱きしめる腕に力を入れる。

 温泉も気持ちいいけど、オルフェも気持ちいい。やっぱり生は違う。


 温泉に来てよかったと本気で思う。

 ふと、二コラのほうを見る。

 ……小さいな。

 幼児体形というわけではない、身長は小さいながらすらっとした体で妖精のようだ。

 ただ、胸が小さい。ぎゅっとされてもあまり気持ちよさそうじゃない。肋骨があたりそう。


「スラ、私を見て変なことを考えた?」

「ぴゅい、ぴゅい」


 首を振っておく。

 昔から、胸はあの子のコンプレックスだ触らぬ神にたたりなし。

 一時期、本気で豊胸ポーションを作ろうとしたのを止めたことがある。

 優しい時間が過ぎていく。

 そんな中、名案を思い付く。


「ぴゅいぴゅい(ごくごく)」


 温泉を飲む。

 そして成分も分析。なるほど、健康によく、疲労回復効果があり、さらに美肌効果があるというのは本当のようだ。

 それに聖気を感じる。そうか、封印の地は上流にある。再封印の度に大量の聖気を注ぎ込むからそれが溶けだしているのか。聖気を出せるかは生まれ持っての資質によるので俺ですら出せない。

 これは大量に保存しておかねば。成分もいいし、何より聖気を宿す水。これは貴重品だ。

 ごくごく、温泉美味しい。


 いつか、この温泉成分が役立つ時が来るだろう。この身がスライムでなければ有効成分だけを組み合わせて化粧品として売り出すぐらいはやったかもしれない。


 ……そして、少し違和感があった。


『聖気だけじゃない。瘴気も混ざってる』


 わずか、ほんのわずかだが瘴気が混ざりこんでいる。瘴気は通常の手段ではけっして地上に現れない。

 この量なら、まだ害はないだろうが、あくまで今の時点の話だ。濃度が増せば害になる。

 誰かが何かをやっている。

 特別な儀式をして向こう側から瘴気を引っ張って来る必要がある。

 あるいは、封印が解かれつつある? あれが蘇れば国家の一大事だ。

 巫女姫が来たのはこれが原因か。

 

「どうしたの、スラちゃん」

「ぴゅい」


 なんでもないと答えた。

 この段階なら巫女姫一同だけで対応できるだろう。

 娘たちが巻き込まれない限り、静観しよう決め、ごくごくと温泉を飲んでいく。

 温泉、美味しい。


 ◇


 温泉からあがった俺たちは部屋に戻る。

【気配感知】をしておいてよかったと思い返す。


 露店風呂を被う木の柵を乗り越えようとした馬鹿が二人がいた。

 エレシアと別れたあとで、すれちがった旅館の客だ。おそらく、とんでもない美少女のオルフェとニコラを見て魔が差したのだろう。


 木の柵を上り切る前に、酸ビーム(超薄)を放射線を描いて射出。たっぷりと顔に浴びさせた。

 二、三時間、地獄の苦しみを味わうだろうが失明はしまい。

 万が一、二人の柔肌を見てしまっていれば原液をかけていたので、あいつらは運が良かった。何も知らないオルフェは俺の水鉄砲遊びが可愛いと微笑んでいた。

 お父さん、お前たちが隙だらけで心配になってしまう。


 そして、部屋に戻った俺たちは待望の夕食タイム。


「うわああ、川の幸と山の幸がたくさん」

「こんな大きなエビ見たことない。それに、このキノコすごくいい香り」

「面白い貝もあります。どんな味だろう」


 川と山に囲まれたこの宿では、その幸を惜しみなく提供してくれる。

 どれもこれも新鮮で美味で、俺たちは夢中になって食べる。


 これほど、うまい料理を提供してくれる宿は、なかなかない。

 やっぱり、産地の獲れたては最高だ。

 夢中になって食べていると、いつの間に食後のデザートが運ばれてきた。


 ユズと呼ばれる果実を使ったシャーベット、清涼な甘みと独特の苦み。

 これもまた美味しい。食べ終わるとすこしお腹がすっきりした気がする。美味しいだけじゃなくて、体にもいいデザートのようだ。


「あまりに美味しくて食べすぎちゃった」

「ん。ちょっと高い宿だと思ったけど、これだけの料理を出してくれるならむしろ安い」


 二人も大満足のようだ。


「オルフェねえ、そろそろ約束の時間。はやくケーキを焼かないと」

「そうだね、ちょっと馬車に戻って作ってくる」


 ゴーレム馬車には簡易キッチンがあるのだ。

 オルフェが俺を抱きしめて、部屋を出た。味見をするのが楽しみだ。


 ◇


 ケーキが焼き終わってからしばらく経った。


「エレシア、来ない」

「約束してた時間をずっとすぎちゃった。エレシアちゃんが約束をすっぽかすことはないはずだよ。ちょっと心配」


 瘴気のことを温泉で感じ取ったこともあり、俺も不安になってきた。

 短い間だが、娘と同じように育て鍛えた。あの子のことはそれなりに気に入っている。


「お客様、少しよろしいでしょうか?」


 女将が食後のお茶と一枚の紙をもってやってきた。


「はい、構いませんよ。お料理、美味しかったです」


 女将にオルフェが対応する。基本的に、オルフェが対外要員となっている。


「それはようござんした。ごほんっ、この村からの通達で、旅の方に話をするようにと指示があり参らせていただきました……、実はギルドでついさきほど、緊急のクエストが発令されました。護衛と共に巫女姫がとある任務についていたのですが……さらわれてしまったのです。一人だけ逃げ延びた護衛の方が、ギルドに駆け込んで、事情を話してくださり姫巫女様奪還の緊急クエストが発令されました。生き残りの護衛のかたも傷が深く、最後の力で情報を提供し終わると亡くなってしまいました」


 渡された手紙をオルフェが読む。

 彼女の腕の中にいる俺もチラリと覗き込んだ。

 依頼内容は巫女姫の奪還及び、巫女姫を襲った一団の討伐。

 報奨金は破格と言ってもいいぐらいだ。


「もちろん、王国のほうには救援依頼を送ってますし、付近の村や街からも増援がくる予定です。ですが、救援が来るまでの間、巫女姫がどんな目にあわされるか……一秒でも早く救助したいのです。もし、お客様が腕に覚えがあれば、なにとぞクエストを受けてください。見てのとおり報奨金は破格です」

「わかりました。考えさせていただきます」

「お時間を取らせて申し訳ございませんでした」


 女将は頭を下げてでていく。

 おそらく、彼女はオルフェたちに期待はしていない。なにせ可愛い女の子二人組だ。

 それでも声をかけたのは、村からの指示で旅人には一通り案内するように言われていたからだろう。


 ここは温泉で有名な村、湯治のために一流の冒険者も来る可能性がある。その可能性にかけるためにこういった旅館の客すべてに周知しているとみるのが自然だ。


「オルフェねえ、どうする?」

「行こう。エレシアを見捨てられないよ」

「ん。なら、受けよう。ほんとうを言うと、この村にこれ以上の滞在はまずい。早朝には出発したかった。時間をかけるほど、国境を抜けにくくなる。でも、お金を稼げる機会は逃したくない。早く屋敷を買いなおしたいし、オルフェねえがどうしても助けたいっていうなら、仕方ないからクエストを受ける」


 冷たいことを言っているが、オルフェから顔を逸らしてニコラは話している。あれは嘘をつくときの仕草だ。


「ニコラちゃんは素直じゃないなー。エレシアちゃんが心配だって言えばいいのに。……夜が明けたらすぐにでもエレシアを助けに行こう。私たちは夜目が利かない。シマヅ姉さんでもいれば話は別だけど、夜の森に行くのは自殺行為だよ」

「ん。わかった。準備しとく」


 俺は二人の会話を聞きながら、頭を回転させる。

 十中八九、温泉に混ざりこんでいた瘴気と、エレシアの誘拐は関連している。

 姫巫女の護衛は超一流の騎士たち、それらが全滅させられたことを考えると相当の手練れが敵にいる。


 オルフェとニコラは、それぞれ【魔術】と【錬金】の超一流の使い手だ。だが、戦士ではないのだ。強力な魔術や錬金術を使えることは強さとイコールではなく心配してしまう。


 ……しょうがない。俺が守ろう。

 何があっても、この子たちを守ると決めて、俺は体内にある魔物素材と、吸収した薬効成分などの確認を始めていた。

 弱いこの身で強者と戦うのなら、手段など選んでいる余裕は一切ないのだから。


「ぴゅい!!」

「スラちゃんもやる気だね」


 加えて、俺もエレシアが心配だ。

 俺のために線香をあげようと言ってくれた少女を見捨てるのは、スライムの矜持が許さない。

 なんとしてでも助けだそう。


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種族:フォビドゥン・スライム

レベル:6

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅰ 角突撃 言語Ⅰ

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 フォレスト・ラット素材 ピジオット素材 ホーン・バンビー素材 デンクル・ラット素材 聖水

ステータス:

筋力F 耐久F 敏捷E 魔力F+ 幸運F+ 特殊EX

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