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シキとミサキ楽団
作:Σ7二号



04☆東京





 辺りは暗く、街の光が夜に踊る。
 遠くに見える明るい夜。
 一日中走った車は既に大阪を遠く離れ、東京に入ろうとしていた。
 滑らかだった街は、徐々に都会の息をし始め、その色を変えてゆく。
 吹く風は心なしか、更に冷たさを増し刺さる様な気さえする。
 その結果、星は隠れて行き、夜の空は黒い海となる。
 今まで見て来た星座は街が眠るのを待ち、やがて忘れた様に眠りにつくだろう。
 都会に眠りは無いのだから。
 そんな暗くも明るい夜の下を軽トラックが行く。
 運転席に座るのは菅野・大輔だ。
 時間が時間なだけに、他に走る車は殆ど見えず、東京に続く道を一台で走る。
 そのせいか、少し思う事が出来た。
 今、菅野の横の助手席では日向・美沙紀が眠っている。
 夜は冷えると言う事で菅野が引き戻したのだ。
 座席に着いてすぐに眠った所を見ると、やはり気疲れをしているのか。
 今日一日、ずっとこうして走り続けている訳だし、言えば菅野と言う見ず知らずの人の隣りで居たのだから当然だろうか。
「う、む」
 そんなふうは無かった気がする。と、少し咳き込む。
 そんなすぐ側で小さな夜景がフロントガラスの横を抜けて行く。
 それはどんな景色だろうか。
 向こうの空から落ちた様な暗さがそこにある。
 その中に、小さな明りがポツリポツリと見えた。
 時間は既に深夜と言える。
 菅野は、最近の若者は生活基準がなっていないな。などと一人ごちてから、隣りの美沙紀を横目に見た。
 眼鏡を外し忘れたまま、長方形のハードケースに抱き付く様に美沙紀は眠っている。
 冷えるのか貸し与えた毛布をしっかりと羽織い、少し落ち着いた様な、そんな顔を見せた。
 それはどんな表情だろうか。
 例えば、全てを忘れ去った今か。
 例えば、過去を思い出した微笑みか。
 なんとも言いがたい様な笑みを口元に携えている様に見えた。
「うん」
 若いな。と、ただそれだけが菅野の胸にはあった。
 さっきから菅野が考えている事。
 それは自分の過去だ。
 ……私は、どうだったか……。
 そんな自分への問いを鼻先で笑う。
 自分が彼女くらいの歳の頃は何をするのも怖かった気がする。と。
「ベース一本で上京など、簡単に出来る事では無いよ」
 ……うん。私には出来なかった。
 その後に、それだけで十分に君は素敵だ。と言おうとして、菅野は止めた。
 この言葉はまだ早いか。
 君はまだまだだ。
 これからが君なのだ。と。
 ……私もそう、ありたかった。
 と、菅野はハンドルから片手を離し、カーラジオのスイッチをオンにする。
 同時に美沙紀を起こさぬ様ボリュームを絞り、落ち着いた。
 その後にもう一度、横で眠る少女の顔を盗み見た。
 ……全く似合わないね。
 きっと考え無しなんだろう? と、視線で問い。
 再び思う。
 今度は口に出して、正直に。
「私もそう、ありたかったね……」
 いつの間にか大きな道に出ていて、東京まで後少し。
 さっきまでの景色はもう無い。
 明け方には到着するな。と菅野は思う。
「夜明けには起してあげようか」
 そんな事を呟いた後、フロントガラスを飛び越えて行く夜に目をやる。
 東京の空は狭いのだ。
 そんな感慨に応える様に、カーステレオから小さく歌が聴こえてきた。
 小さ過ぎて誰の曲だか、何を言っているのかわからないが、しかしそれでもハンドルを握る菅野の指は確かにリズムを刻んでいた。
 小さく、確かなリズムを。



 東の空から夜明けがくる。
 まだ霞んだままの光が段々と広がり、やがてそれは真昼の中になるだろう。
 小さな軽トラックを運転する菅野の頬には、クッキリと赤く手形がついていた。
「うむ。ミサニャン、これは痛い」
 その隣り、助手席には既に目が覚めた美沙紀が座っていた。
 なにか、困った様に眉を寄せて夜明けを見ている。
 その理由は菅野にある。
 菅野の言い分によると、ミサニャンを起こそうしただけなのだ。らしい。
 確かに美沙紀は夜明け前に起こされた。
 ミサニャ〜ン朝だじょ〜。と、耳元で。
「うちは悪ない……?」
 確かめる様に零した言葉は小さく、菅野には届かない。
 その後に頷き。
「うん。悪くない」
 これで話を切る。
 菅野の言う事に一々ツッコンでたらキリが無い。
 それは昨日一日で理解した。
 ……うちはツッコみたいのか?
 大阪の血……。
 いやいや。と、適当に思いついた言葉を返す。
「菅野さんは眠ないん?」
 昨日からずっとこの調子で車を転がしている訳だから、眠くない筈無いだろうと美沙紀は思う。
 自分は乗せてもらっているのだから、相手を気遣うのは当然だ。
 しかし、対する菅野はと言うと。
 人差し指を立て、左右に揺らし。
「さんなど必要ないよ」
 と余裕ぶって見せた。
 美沙紀は、んーー。と目を細める。
 その得意気な表情が美沙紀の癇に触ったらしい。
 まぁ、どうでもいいか。
 と、話を戻す。
 菅野はまだ質問に応えていない。
「じゃあ菅野は眠ないん?」 そんな問いに対し、何故か菅野はブンブンと頷き。
「おす!おーっす!!」
 と、急にハンドルを叩き出し、大声をあげた。
 その勢いでクラクションが小刻みに響く。
「!」
 それを慌てて制止し、美沙紀は窓の外からの視線に気付いた。
 いくら早朝とは言え、既に都会だ。
 歩く人も居れば走る車もある。
 これは危ない。
 菅野の両手をハンドルに戻し、確信する。
 確実にオール後のハイテンション高確モードに突入しているな。と。
 どうしよう。
 いや、どうしようも無いか。
 美沙紀は原付の免許は持っているが、車はまだ運転出来ない。
 だから変わってやる事は出来ないし、どうしようも無い。
 渋々、横目で菅野を見る。
 今は落ち着いたらしく、なんとか安心した。
 と、視線に気付いたのか、菅野が口を開いた。
「うん。悪ふざけが過ぎたようだ!フッフフン!」
 冗談だと言ってくれるのは良いが、心なしか声が大きい気がする。
 ……気のせいや、気のせい。
 美沙紀は菅野を放置する事に決め、再び窓の外に視線をやった。 
 既に東京の景色へと変わり始めた町並みは固く、早朝だと言うのに賑やかな気がする。
 しかし全てがそうと言う訳でも無く、大通りを離れれば過ごし馴れた様な町並みも見て取れた。
 だから美沙紀は空を見上げた。
 違いなど何一つわからないが、これが東京の空なのだろうか、と。
 よく分からないな。と、思いながら、遥か遠くを見ようとして、止まる。
 空に行き止まりを見つけたのだ。
 それで何となくわかった気がした。
 ビルに閉ざされた青を見て、これが確かに東京の空である事を知る。
 その青に何か変化がある訳でも無く、雲も同じく変わらない。
 ただ、狭いな。
 と、美沙紀は零した。
 間も無く東京に入るだろう。
 昼になればさらに賑やかな街の喧騒が聞こえるだろう。
 そうなればもう考える事は無いかもしれない。
 それが東京と言う街なのだから。



 朝、美沙紀と菅野は東京に入った。




大変遅くなりました。
読んでくださってる読者様、すいませんでした。
いくら不定期更新だと言っても待たせる事はよくないので……

次話の更新、今月中に出来るよう頑張ります!











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