囁かれるたびに、空気になる。ふっと身構えて、それから肩透かしを喰らったように右から左へ、聴こえない声が抜けていく。さらさらと、直接肌に触れてくる滑らかなシルクのシーツのように、彼は痛すぎるほどきれいで、浅い。
「トーコ」
「やだ、眠い」
カーテンの隙間から覗く空はまだ白んでない。携帯電話で時間を確認すると、まだ早朝の四時。甘えるような声を出しながら擦り寄ってくる哲が煩わしくて、思わず彼に背を向けて空寝をした。それでも懲りない哲は、わたしの背中を覆うようにぴっとりと抱きついて、体を弄るように手を這わせてくる。何発やれば気が済むの、と罵ってやろうかと思ったが、それより先に手が勝手に動いた。ぐっと、彼の手の甲の皮をつまんで力いっぱいに捻る。すると、後ろから観念したように「いたい、いたい」という声が返ってきて、わたしはにんまりとしたり顔を浮かべた。
男の人の厚い胸板は、どうしてこうも安心するのか。お互いの呼吸に呼応するように、同じタイミングで息を吸い、そしてゆっくりと吐く。髪にかかる彼の息がくすぐったくて、心地よい。先ほどの彼の行為のせいか、眠さは吹き飛んで、目はしっかりと冴えてしまった。お陰でいつもよりも、感覚という感覚が敏感で、肌に触れるもの全てにいちいち反応してしまう。
目の奥がぐっと押されたように痛むほど、白すぎるこの室内は、情事を繰り返すたびに不釣合いな場所だなと思う。きれい好きの哲は、ごく当たり前のように白いものばかりを好んで買う。そのせいで、知らない間に色んなものが白色で揃えられてしまっていた。物足りなさを超えて、寂しさが部屋の中を覆っているような気がして、時折無性に心細くなることがあった。
「ねえ、哲」
「何?」
「哲って潔癖症?」
「まさか。いくらきれい好きだからって、俺そこまで重症じゃないよ」
くすくすと笑う彼の振動が、背中から全身へ伝わってくる。そっか、そうよね、と適当に返事をしてから、わたしは寝返りをうって彼の方を向いた。すぐに彼の手が伸びてきて、頭皮をやわらかく刺激するように、髪に触れてくる。それが気持ちよくて、わたしは浅く目を閉じてから、滑らかなシーツの感触を楽しむように、脚を小刻みに動かして笑う。わたしの脚に、今度は彼の脚が絡まってきて、あたたかな体温が直接伝わった。
「白、好き?」
わたしも、彼の体温を貪るように、密着するように脚を自ら絡ませる。
「好き。だってきれいじゃん。なんか無になるって感じ」
「あ、今ちょっとかっこつけたでしょ」
「ばれた?」
「ばればれ。哲には似合わないもの、そんな気取った台詞」
ひでえ、と声を上げながら、哲はわたしの首筋に顔を埋めた。すぐさまちくりとした、小さな痛みが襲ってきて、ああ、痕つけられたな、と苦笑する。彼の髪に指を差し込んで、わしゃわしゃと撫で回すと、やめろって、と笑いながら哲が首筋に唇を寄せたまま抗議した。その息が、湿っぽくて、熱くて、ぞくぞくと体全体が性感帯にでもなったように、鳥肌が立った。
「んじゃ俺、紳士気取るのやめていい?」
「別に」
「それじゃあ」
急に哲は起き上がると、覆いかぶさるように、わたしの顔の横に両手をついて、にやりと笑った。彼の後ろに見える真っ白な天井と、それに同化してしまいそうなくらい白い彼の肌に、体内から熱が湧き出てくる。
張った乳房に彼の手が触れたときにはもう、理性を掻き戻すには、手遅れだった。
---了 |