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  神の子 作者:香取幸助
第2章6話:教祖2
携帯の着信音が鳴る



その音で現実に戻る。



しばらく放心していたようだ。



PCの中の写真は相変わらず俺を見ている(ように見える)。



携帯を手に取ると大石からだ。さっきからずっと鳴らしているのだろうか。



「もしもし・・・。」



「ああ、先輩。大丈夫っすか。ずいぶん・・」



「悪い大石。ちょっと今、手が放せない。またこちらから掛ける。」



そういって電話を切った。(悪いな・・・大石。)





腕時計を見る。7時か・・。



しばらく携帯を手に持ったままどうするものか迷ったが結局PCのメールソフトを再び立ち上げる。



鳥栖弘氏への連絡はよほど緊急の場合を除いてはメールで、という事になっていた。今回の俺への依頼は奥さんには秘密にしている、との事だった。そりゃそうだ。俺の声を聞いたら、又あの時の思いが蘇ってしまう。



鳥栖弘様



お尋ねしたいことがあります。このメールをご覧になりましたら、何時でも結構です。私の携帯の方に連絡をいただきたいのですが。


よろしくお願いいたします。




                   皇







そう打ち終わってすぐに携帯が鳴った。俺はびくっとして携帯を取り発信元を見る。鳥栖弘氏からだ・・。早い。



「皇です、申し訳ありません。わざわざお電話いただきまして。」




「いえ、丁度今日は妻が友人と出かけてまして。今、私一人なんですよ。それで・・・、何かありましたか。」



俺は思ったより落ち着いた感じの声だな、と感じながら答える。



「ええ、まだはっきりした事はお伝えできないのですが一つお願いがありまして・・」




「はあ・・・、お願いですか。」




「はい。実は力也君が13歳の頃の写真を見せていただきたいのですが・・。」




「13歳・・・・ですか。こういう言い方はあれですが、こう・・ずいぶん具体的と言うか・・。どうしました・・?何かあったのですか・・?」



「ええ、どうしても確かめなければならない事があります。その為にはどうしても必要なのです。」



「・・・・・そうですか。わかりました。PCの中に保存してある写真の中から写りのいいやつをお送りしましょう。それで大丈夫ですか?」




「もちろん。ありがとうございます。」



「皇さん・・・・」




「はい・・・?」




「必ず・・。いえ・・・宜しくお願いします。」




「・・・・わかりました。必ずご報告します。それでは・・」




俺は出来るだけ静かに携帯を切った。



やはり俺からの連絡を心待ちにしている所があったのか。最後に何かを言おうとしていたが・・・。






鳥栖弘氏の穏やかな声を聞いている内に、ずいぶん気持ちも落ち着いてきたようだ。天蓋孤独の俺にとって父性溢れる声は心地良いし、心が落ち着く。


と、同時に冷静な判断力が戻ってきた。





鳥栖一弥の容貌は、弟の鳥栖力也と非常によく似ていた。俺が鳥栖弘氏から見せてもらった今の力也の写真は少なくとも一弥と瓜二つ、と言ってもいいほどであった。



(成長するにつれてどんどん一弥に似てきました。 ・・・・瓜二つと言ってもいい・・)




ルノアールでの鳥栖氏の言葉を思い出す。




初めて写真を見たとき俺は気が動転してしまった。



これは間違いなく一弥だ、俺が見間違うはずがない、と考えたが、よくよく冷静になれば一弥は司法解剖まで受けている。何よりも死体は俺自身が確認している。



鳥栖一弥は間違いなく1998年に死亡している。2001年に撮影されるはずがないのだ。




zeroの教祖という青年の写真は、鳥栖一弥の弟、鳥栖力也の2001年当時つまり、13歳の頃を写したものだろう。



なぜ力也が13歳の時にzeroの教祖として姿を見せていたのかはわからない・・。鳥栖弘氏曰く、彼がzeroに関わり出したのはこの数ヶ月との事だった。


何かの事情があったのだろう。



これは今後調べていくしかないが、何にせよ・・






(あせって損した。肝冷やした・・・・)







俺は額を(ぺんっ)と音を立てて叩いた。(ちょっとオヤジっぽいしぐさだが・・、まあオヤジだからしょうがない・・。)




壁の時計に目をやる。8時過ぎか・・。



窓の外はようやく闇に包まれ始めた。



[件名:写真送ります]




鳥栖弘氏からメールが届いた。画像ファイルが一枚添付されている。早速送ってくれたのだろう。



(どれどれ・・)




メール本文を確かめずにまずは画像ファイルを開けてみる。





・・・・ピースサインをしてよく日焼けした坊主頭の少年の画像があらわれた。




(あれ・・・・?)



鳥栖氏からのメールを読む




皇さま


ご依頼の写真をお送りします。この前お見せした力也の写真とはあまりにイメージが違う事に驚かれるのではないかと思います。

13歳の頃の力也は、私の勧めもあり毎日夜遅くまで部活動の練習づけの野球少年でした。


先日お見せしたような容姿になったのは本当にこの2〜3年の話です。中学を卒業するまではずっとこんな感じの子供でした。


何かの参考になりますでしょうか。


ご報告をお待ちしております。


              鳥栖





「・・・・・・・・」





体中の血液の流れが勢いを増している。





全身の皮膚に鳥肌が立っているのがわかる。





「まさか・・・・、まさか・・・・。ありえない・・・・。」




気付くとうわ言の様にそんな事を言っている。ドラマでこんなシーンを見た事がある。あまりに芝居がかっていて(そんな・・)と思っていた。



でも今の俺は確かにそう言っている。PCから後ずさりまでしている・・・・。


俺は薄々分かっていたはずだ・・。認めるのが怖くて自分に(違う。)と思い込ませようとしていただけだ・・・・。








鳥栖弘氏が送ってきた鳥栖力也の写真・・。13歳の頃の鳥栖力也の写真は、2001年のzeroの教祖とは似ても似つかぬものであった。







俺は知っている。






もう、自分を誤魔化せない・・・・。








1998年に死んだ鳥栖一弥は、2001年には愛知県の田舎町で新興宗教の教祖として存在していた。








ありえない事が起こっている・・・・。







死者の再生。










再度zeroの教祖という男の写真を立ち上げる。









PCの中から俺をまっすぐ見ている・・・。










かつて「神の子」と呼ばれた青年・・・
















(キリストは再誕する)












「君は・・。」







背筋を何かが這い上がっていくのがわかる。








「本物の・・・神・・なのか・・?」
















熱帯夜



















窓の外は湿気を含んだどろりとした闇に包まれていた。











その闇は俺の言葉を吸い込んでいく・・・。

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