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  神の子 作者:香取幸助
第2章5話:教祖1
目を覚ました。壁の時計を見ると、夕方の6時を過ぎている。外はまだ明るく、西日が窓から差し込んできていて眩しい。


事務所のソファの上に横になっていてそのままうとうと眠ってしまった。こんな蒸し風呂みたいな部屋の中でよく眠れたものだ。我ながら感心する。


机の上に置いた携帯電話のランプが点滅している。着信があったようだ。

のそのそと上半身だけ起こし、思いっきり手を伸ばして携帯を手に取る。着信履歴を見るとメタボなパンチ野郎、大石大吾からだった。留守番電話が入っている。


「あ、先輩っすか、大石っす。頼まれたzeroの件、メールしときましたんで見といてください。それでは又何かありましたら、声掛けてください。失礼しまっす。」




どう考えても40男の残す留守電ではない。

あれから2週間。そろそろ来る頃だと思っていた。


ソファから起き上がると扇風機のスイッチを入れた。体中汗まみれだ。尻ポケットからハンカチを取り出して汗をぬぐいながらパソコンを起動させる。


メールソフトを起動させると何通かの迷惑メールと依頼のメール・・・・・、おっと残念、依頼メールの方は今日は来ていないようだ・・・・。


(これだ・・)


大石からのメールだ。今日の16時15分に送信されている。


(クリック、と)



皇さま


先日はお疲れ様でした。

ご依頼の件、調べてみました。

詳細は添付ファイルを確認下さい。


            大石






添付ファイルには書類以外に画像も添付されている。パンチの奴、張り切ったな。



宗教zeroに関して



zero設立経緯(時系列)


・昭和35年:宗教法人献霊会設立。代表者:佐分利さぶりはつ。本部所在地:岐阜県恵那郡○×町・・・・・



・昭和63年:代表者死去に伴い変更。新代表者:佐分利さぶり那美。

*この新代表者は、佐分利はつの娘であるとの事


・平成3年:代表者・本部所在地変更。新代表者:村上一はじめ。新本部所在地:東京都港区芝浦・・・

*この変更で宗教法人献霊会は所有者が佐分利家から離れる。新代表の村上一は当時医療法人徳療会 倉藤記念病院の事務局長も兼任。







・平成12年:法人名を宗教法人零式ぜろしきと変更。又代表者・本部所在地も変更。新代表者:倉藤恭一くらとうきょういち(現任)。新本部住所:愛知県海部郡T村・・・・

*現代表倉藤恭一に関して

昭和30年東京都出身。京都大学医学部卒業。大学卒業後国立遺伝子学研究所に勤務。平成12年に同研究所退職後、現職。ちなみに前代表村上一が事務局長を勤める倉藤記念病院の病院長倉藤兵衛くらとうひょうえは現代表の父親である。なお、倉藤恭一氏の顔写真を添付。“画像ファイル1”参照の事。



(こりゃ・・予想外だ・・)


ここまで読んで驚いた。パンチの奴、予想外に頑張ってる。



報告書と一緒に画像ファイルが2枚添付されている。倉藤恭一の方の1を開ける。


まるで免許証の証明写真のように真正面から撮影された顔写真が現れた。これが倉藤恭一か・・。


やや俯きぎみで上目使いにカメラの方を見ている。昭和30年生まれと言うから今は50を越えているはずだが、写真の顔からは30代くらいにしか見えない。まあ、かなり前に撮影されたものかもしれない。



乾燥した質感の皮膚。細面で色白の顔。髪は整髪料でオールバックに撫で付け光っている。試合後のボクサーの様な腫れぼったい細い目。蛞蝓なめくじの様な色の悪い薄い唇。





爬虫類のような顔だ。








顔の作りもそうだが、この男が纏っている雰囲気が一層“そう”思わせる。


zeroの宗教法人としての歴史は思ったより古い。ただ、初代・2代目の代表である佐分利家と現代表の間には全く繋がりはないだろう。

これは俺の勘だが、平成3年の変更は医療法人徳療会の税金対策だろう。宗教法人の税金面での優遇振りに目をつける輩は後を絶たない。宗教法人専門のブローカーが存在するほどだ。そんなブローカーあたりから徳療会が献霊会を購入し、そこの代表に金庫番の村上が納まった、ってのが図式だろう。


という事はその後の愛知県への移転やあの巨大な教会は何の為に・・・?。


国立の研究所勤務だった倉藤恭一が、なぜ宗教法人の代表など全くの畑違いにおさまったのか・・?






平成3年に倉藤記念病院の税金対策の道具となっていた(であろう)宗教法人献霊会は平成12年に名前・本部・代表を変え対外的には全くの別物となっている。



ここで“何かが起きた”のだろう・・。


zeroの教義に関して


・佐分利はつ設立当初の教義は不明。現代表倉藤恭一氏代表就任後は「不老不死」を目的ないしは奥義としていた模様。詳細は不明。





zeroの教祖


・代表倉藤恭一氏とは別人。平成12年より頻繁に信者の前に姿を見せている。男性。平成12年当事で20歳前後と思われるが氏名含めた詳細は不明。空間から物質を出現させたり、近い将来の出来事を予言したりと数々の奇跡を見せた模様。愛知県T村における信者数の爆発的な増加は、この教祖の見せた「奇跡」による所が大きい。平成14年以降公の場には姿を現していない。理由は不明。


*平成13年撮影の教祖の写真を添付。“画像ファイル2”参照の事。






添付されている2つ目の画像ファイルにカーソルを合わせてマウスをクリックする。


かなり重い画像なのか、まるで紙芝居の絵を下からゆっくりと引き抜くように、上部から少しずつ画像が現れる。


頭髪が見え始める。これも代表の倉藤の様に正面から撮影されたものの様だ。



やがて額が見え、目が見え鼻・口・・・と顔全体が現れる・・・・。










ドクンッ!












大きく心臓が音を立てる。






(これは・・・・!!!)






額から脂汗が吹き出る。背中に流れる汗がシャツに張り付く。





画像はついに被写体の上半身を写した全体像を見せた。






右下に見える画像の日付けを見る





2001年3月13日






今から7年前、平成13年に撮影されたものの様だ。





思わず皮膚が泡立つ。









「・・・・・・!!」




携帯のアドレス帳から大石の番号を表示して発信ボタンを押す。



呼び出し音が何度か鳴る




(出ろ!!大石・・!!早く・・・・!!)




「もしもし・・・」




呼び出し音が10回を超えた所で大石が出た。




「大石か、皇だ。今、送ってもらったzeroの教祖の写真を見てる。この写真の日付は正しいのか・・?」





俺は息継ぎ無しで一気にしゃべっている・・。




「ああ・・、先輩・・・」




俺の早口とは正反対ののんびりした口調・・・。





しばらく間が空いた。





「ああ・・。思い出しました。そうなんです、それなんですけどね。結論から言わせてもらいますと間違いないっす。いえ、どうしてかと言いますと・・・・」




長くなりそうなので途中で電話を切った。すぐに携帯が鳴った。大石からだ。




昔の電話機の様な携帯の着信音が鳴る事務所の中、俺はパソコンの中の画像から目を離せない・・・・。



そこには7年前の2001年には存在するはずのないものが写っている。




(ばかな・・・・)




zeroの教祖として無表情にカメラを見つめている男の顔・・・・・。









PCの中から俺を見つめている男・・・・。







俺が見間違えるはずがない・・・・。










今でも夢の中で毎日見ている顔・・・・・。

















それは間違いなく鳥栖一弥であった・・。

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