第十一話 魚を取りに行こう
神宮寺先生達に別れを告げ、俺達は一度昼食を取りに寮へと戻ることにした。
たまの休みだし外食したいところではあるが、予算がないので仕方がない。
「一度靴に履き替えないと寮へ行けないってのはめんどくさいよな」
「そうね」
「ちょっちめんどいやんなー」
そんなことをシス達と愚痴りながら靴に履き替え、昇降口を後にする。
それにしても気をつけてと言われても何に気をつければ良いのだか。
死なないようにとか?
そんなバカな。
早々即死するような自体に遭遇するなんてありえないだろう。
そもそも幸運があるのだから。
ひゅんっ! バリン!
「……」
「すみませーん、大丈夫でしたかー?」
「あ、はい……」
「悟、大丈夫? 危ないわね」
「ますたーは大丈夫やで。うちが居るもん」
野球のボールが飛んできて俺のすぐ脇を抜けたかと思うと後ろのガラスに直撃。
窓ガラスは大破していた。
え、もしかして今のって即死する内容だったりする?
ガシャンッ!
「あぶねっ!?」
「大丈夫ですかー?」
「えっと、大丈夫……?」
「ますたー……」
今度は植木鉢が降ってきた。
幸運、仕事しろよぉ……。
いや、していたからこれで済んだのか?
それとも不幸の改変?
それとも即死回避?
くそ、わからないぞ!?
とりあえずこの能力を当てにするのはやめておいたほうが良いだろう。
気が付かない所で残機を使ってる可能性あるし。
「リコ! ほんとに能力は幸運なんでしょうね!?」
「ほんとやし! うち嘘ついとらんもん!!」
幸運の前に一文字余計なものが付いてるんじゃないよな?
少し不安になってしまう。
「ますたー! 信じてや!?」
「おぅ、信じる信じる。とりあえず飯食ったら魚取りに行くからそこで実力見せてくれ」
「おおきに! 大船に乗ったつもりで期待しといてや!」
「泥舟じゃなければいいんだけどね」
ちょっとシス、言い過ぎじゃないか?
気持ちはわからないでもないけどさ。
「シスの意地悪……。ぐすっ……」
「あー、ごめんごめん、言い過ぎたわ」
「わかればええんや!」
「騙したの!?」
「何のことやろなー?」
「むきいいいいい!!」
とりあえず、腹減ったし早く飯食いたいな。
昼食後、自転車に乗って俺達は海に来ていた。
リコが籠に乗り、シスが後ろの荷台に腰掛けての三人乗り。
普通なら怒られるところだが前後の二人は人じゃなくて精霊だからセーフセーフ。
「うっみー!!」
「海やー!」
「海だなぁ」
四月の海はまだ風が少し冷たい。
幸い空には雲一つない青空が広がり、暖かな太陽の日差しがあるおかげでそれほどでもないが。
砂浜に反射する光が少し眩しい。
風もそこまで強くなく、沖にある島の神社の鳥居までよく見えるほどに天候には恵まれていた。
「それで、リコ、どうやって魚を捕まえるつもりなんだ?」
リコがそんなもの必要ないと言うので釣具は一切持ってきてない。
唯一持ってきたのは魚持ち帰り用の折りたためる保冷バッグくらいだ。
これで『魚を取りに来ました』だなんて言ったら魚屋を紹介されるだろう。
「ふふん、うちにおまかせやでー!」
彼女はそう言うと俺達の一歩前へと進む。
「幸運発動! お魚さんいっぱいきてや!!」
えーっと……?
もしかして、幸運だけで魚取ろうとしてます?
いや、それはいくらなんでも。
「来たで!」
「え? マジ?」
「ますたー、保冷バッグ開いて!」
「お、おぅ!!」
ビチビチビチッ!!
「うわっ!?」
砂浜で立つ俺の持つ保冷バッグ目掛けて魚が飛び込んでくる。
「どやっ!」
真面目にすごいです。
魚を買うのが馬鹿らしくなるな。
「ぐぬぬぬ……」
「これでうちが役立たずじゃないって証明できたやんな?」
「元から役立たずなんて思ってはいないけど、助かるよ。ありがとう、リコ」
「へっへー」
胸を張るリコの頭をなでてやる。
今日は魚パーティーだな!
「ん? あの黒い影は?」
「なんか結構大きい?」
「ああ、この魚はあれに追われて海から飛び出してきたのか」
「そうみたいね。それにこっちに向かってきてる?」
「あれが取れれば食いでがありそうでいいよな」
「流石に食べきれんやろ」
「それもそうか」
そう言いながら笑いあっていたのだが。
その黒い影は砂浜、もっと言うと砂浜に立っている俺達の方にまっすぐ突っ込んできて……。
「こいつモンスターじゃないか!?!?!?」
「ええ!? なんでダンジョンの外にモンスターが居るのよ!?」
「スタンピードか!? しかし近くにダンジョンなんて無いぞ!?」
「と、とにかく倒さんと!!」
「くっ、システムウィンドウ!!」
俺は慌ててシステムウィンドウを展開し、突っ込んで来たサメ型モンスターの攻撃を防ぐ。
「他にもいっぱい来る!!」
「なっ!」
システムウィンドウを多重展開しモンスターの波状攻撃を防ぐも防戦一方だ。
「敵が、速すぎて、補足できない!!」
「く、ランクアップしたばかりでウィンドウの動きが遅い……っ!!」
ランクアップ前、覚醒度SSSの状態であれば高速で動き回るモンスターにウィンドウをぶつけられたかもしれないが、覚醒度Dの現在ではかなり難しかった。
「リコ! 俺のポッケの中に携帯入ってるからそれで神宮寺先輩に連絡してくれ! 緊急通話ボタンで直通になってる!」
「わ、分かった!」
リコが神宮寺先輩に連絡し援軍の要請を行っている中、俺は必死にモンスターの襲撃を捌き続けた。
「ますたー! 後三十分くらいで援軍が来るって!」
「三十分!?」
くそ、日曜日だったのが祟ったか。
スタンピードを迎撃するための戦力を集めるのに時間がかかるのだろう。
どうすれば、どうすればいい?
このままだとジリ貧だぞ。
「悟! 更に追加が来てる!!」
ジリ貧どころかドカ貧じゃねーか!?
焦る俺の視界の隅に河口が映る。
もしかしたら、いや、でも……。
くそ、やれるかわからないが、やるしかないか。
「シス! リコ! 河口へ移動するぞ!!」
俺は二人に指示を出すとモンスターをひきつけながらゆっくりと河口へ向かって移動し始めた。
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