「大統領、お電話です」
「第51代大統領、マイケル・デイビス、か」
誰もいない部屋で、一人つぶやいてみると、笑いがこみ上げてきた。
「思えば、いろいろと苦労したものだ」
幼いころ親に連れて行ってもらった演説会の
演説台の上の大統領に憧れてもう50年になる。
小学生のころ、ジョージ・ワシントンの真似をしたくて桜の木を切ったら、
飛んできた親に生涯で一番強くひっぱたかれた。
中学生のころ、「将来の夢は大統領だ」と豪語したら、
その日以来クラスのみんなが僕と距離を置くようになった気がする。
高校生のころ、進路をたずねられ、「大統領」と言ったら
先生に真顔で諭された。
「いいかマイケル。確かに夢を持つのはいいことだ。
未来を夢想するのも若人の特権だ。だがな、17歳にもなって
夢を見続けるのか?現実を見ろマイケル」
「いえ、夢でも結構です。僕は70歳になっても大統領を目指します」
それきり先生は何も言わなかった。横顔が薄く笑っていた気がする。
ふと、誰かがいる気配がした。首だけ動かして振り向き、
・・・その状態で硬直した。
宇宙人だ。
「やあ、どうも」
まるで最初からいたかのように、何の前振りもなしに、さも当然かのように、一目見ただけでそれを宇宙人だと認識してしまう。納得してしまう存在が、ホワイトハウスの一室にいた。
それは50cmくらいの大きさで、銀色に光る体に黄色い目。立っているのが不思議なくらい細い手足を持った、
いわゆる、一般的なエイリアンだ。
多分、首の痛さで正気に戻るまで、その体勢だったのだろう。
何を血迷ったか、私の第一声。
「どこから入ってきたんだ!」
エイリアン相手に愚問だった。
「エイリアン相手にそれは愚問でしょう。話しても理解は不可能だと思いますし。
とりあえず、座りましょう。」
それから私がきちんと対話ができるようになるまで約30分、
エイリアンの存在が私の幻覚でないのを確認するのにさらに約30分、
エイリアンが私のところにきた理由の説明に約1時間、計約2時間を費やした。
「つまり簡単に言うと世界はもうエイリアンに侵略されていると」
「そうです」
「そしてそれがばれると世界中大混乱になるのでその事実はごく一部お偉いさんにしか知らされてないと」
「その通り」
「そして、私含むお偉いさん方はあんたらの指示に従わなければならないと」
「理解が早くて助かります」
「断る」
「そういうと思ってました」
そういうとエイリアンは口の中から小さなカプセルを取り出した。
「このカプセルを噛み砕くだけで、地球上の人間のみが死滅します。
次世代の知的生命体が誕生するまで、1億年もかからないでしょう。
私たちは気が長いので、その生物とコンタクトをとることにしましょう。」
全人類を人質に取られたら、答えは決まっていた。
「言いなりになろう」
「冷静な判断、ありがとうございます」
それだけ言うとエイリアンは、連絡方法は後日お伝えします、と言って文字通り、消えた。
・・・・・・・・・とりあえず腰が抜け、私は朝になるまで備え付けの時計を凝視していた。
連絡方法は電話だった。
毎朝、8時にかかってくる妻からのラブコール、という設定。
私は昨日まで独身だったが、20年連れ添った妻がいるのは、周知の事実らしい。
だがまあ、あのエイリアンは女の趣味はよかった。
まさに理想の女性、その点だけは感謝している。
「大統領、お電話です」
今日も1秒のぶれもなくきっかり8時に電話がかかってくる。
そしてあのエイリアンの声で簡潔に指示が入る。
今日は中東の国の元首と会合らしい。
大統領になってつくづく思う、
かなえても味気ない夢もあるし、
見なかった方がいい現実もある。
夢をかなえても、かなえられなくても、結局人生に後悔はつきものだ。
「それでは、また明日8時にご連絡いたします」
「ああ、また明日」
どうも、Mr.あいうです。
初投稿なのでうまく書けたかわかりませんが、
楽しんでくれたら、幸いです。
評価していただいたら、感無量です。