ボクの蘭(おんな)に手を出すな
作:ともゆき



第3話


 翌日になっても行方不明になった女子生徒の行方はわからずじまいだった。
 誘拐の可能性が高い、ということで警察は報道協定に基づき、事件が解決するまではっ報道を差し控える、ということもあってか目暮警部も捜査状況についてはさすがに小五郎たちにも教えることがなかった。
 ただ、目暮警部は「怪盗紳士」と言う名前が出てきた、ということで、中森警部と協力して事件の解決に当たるということだけは小五郎たちに教え、さらには蘭にも今回の事件に関してはもし何かわかったことがあったら教えて欲しい、と協力を要請するとともに蘭にも十分に注意するように伝えた。

「…なんで私も気を付けなければいけないんですか?」
 蘭が目暮警部に聞く。
「いや、まだ断定は出来かねるが、今回の行方不明事件がその『スポーツシリーズ』に関係があるとしたら君も被害者になる可能性がある、ということだ」
「私が、ですか?」
「ああ、君もあの絵のモデルになっておるだろう? もし今回の事件が、その、怪盗紳士がモデルの女の子を誘拐した、としたら、第2、第3の犯行を行うことは十分に考えられる。ということは蘭くんが被害者になる可能性はゼロではない、と言うことだ」
 それを聞いた蘭は黙ってしまった。
「…心配するな。勿論我々も事件を早く解決するつもりだ。だから君は余計な心配をせずともいい」
「わかりました。気をつけます」
「それならいい。いいか、何か事件に関して思い当たることがあったらいつでも連絡してくれよ」
「はい」
    *
「それにしても、一体怪盗紳士、って何者なんだろう…」
 蘭がつぶやくとコナンが、
「…怪盗紳士については阿笠博士が知ってたみたいだよ」
「阿笠博士が?」
「うん。実は昨日、阿笠博士の家に行ったんだけど、そのときに博士が怪盗紳士について教えてくれたんだ。前に新一兄ちゃんが怪盗紳士について教えてくれたんだって」
「新一が?」
「うん」
 本当は自分が昨日調べたことだったのだが、さすがに蘭の前で本当のことを話すわけにもいかないからか、コナンはそう言ってごまかした。
「…で、何なの、コナン君? その怪盗紳士、って」
「うん。何でも警察がかなり前からマークしていた怪盗なんだけれど、盗むものがちょっと変わっているんだって」
「変わっている?」
「うん。宝石とかそういったものは盗まなくて盗んでいるものは殆どが絵なんだけれど、その絵と一緒に絵のモチーフになったものも盗むんだって」
「モチーフ、ってどういうこと?」
「うん。例えばここに大木を描いた絵があるとするよね。そしたら怪盗紳士はその絵ばかりではなく、描いた大木も一緒に盗むんだって」
「大木を?」
「うん。勿論大木をそのまま盗む、なんてことは出来ないから、その大木の葉を全部刈り取ってその葉を持っていく、といった犯行をするんだって」
「ふーん…」
「それに怪盗紳士も変装の名人だから、なかなか尻尾を掴ませないんだって」
「…じゃあ、今回の事件ももしかしたらその、怪盗紳士がその子を誘拐した、ってことになるわね」
 そう言うと蘭は考え込んでしまった。

(…確かに今回の事件、怪盗紳士は絵と一緒にその女生徒を誘拐した、と考えるのが妥当かもしれない。しかし…)
 コナンは何か引っかかるものを感じていた。
(…一体何なんだ、この引っかかる感じは? なんか肝心な所を忘れている感じがするんだよなあ…。大体怪盗紳士の仕業と考えてもヤツが何でそんなことをしたのかもわからないし、それに、オレ自身、怪盗紳士についてよくわからない部分が多いんだよな…)
 そう、いくら昨日優作が残したファイルを調べたとはいえ、それ以上の情報は何も持っていないのである。
(…とにかく、今回の事件についてはまだ何もわからないも一緒なんだ。とにかく一旦事件を怪盗紳士と切り離して考えてみるか)
 そう、何か行方不明になるほかの理由はないか、何か最近変わったことがないか、そういった部分も調べないと事件がわからないのではないだろうか?
    *
 その日の午後のことだった。
 探偵事務所兼自宅に戻ってきた蘭はさすがに例の事件に関して気になったことがあったのだろうか、英栄二の個展が開かれているギャラリーに行ってみる、と言い出した。
 とはいえ、ああいった事件があった後ということもあってか、小五郎はさすがに心配になったのであろう、「蘭を一人で行かせるわけには行かない」とコナンとともに3人で行くことにした。

 画廊の前に行くと扉が閉まっていて「臨時休業」の貼り紙がしてあった。
「…臨時休業か…」
 蘭がつぶやく。
「まあ、あんな事件があった直後だからな。臨時休業も当然と言えば当然なのかもしれないが…」
「…そう言えば、画伯はどうしたんだろう? あれから全然連絡よこさないし…」
「まあ、ああいった事件があった直後だからな。本人もまだ落ち着かないんだろ」
 と、そのときだった。
「ホント、残念よね。折角来たのにお休みなんて…」
 いつの間にかコナンたちの隣に一人の女性が立っていた。
「あ、確か醍醐さん…、でしたよね?」
 蘭が言う。
 そう、その女性は例の「スポーツシリーズ』の展示の初日にコナンたちの隣に立っていた醍醐真紀、と名乗った女性だった。
「あら、確かあなたは…」
「毛利蘭です」
「そう、確か蘭さん、だったわね」
「ええ」
「…どうしたの?」
「いえ、その…」
 そういうと蘭は黙り込んでしまった。
「…まあ、とにかくここではなんだから…」
 そう言うと醍醐真紀は3人を近くに喫茶店に連れて行った。
    *
「それにしてもどうしたのかしらね? こんな日にお休みだなんて…」
「いえ、その…」
 蘭は一瞬言葉に躊躇してしまった。
「…どうしたの?」
 果たして「あのこと」を言っていいのかどうかわからなかったのだ。
「…大丈夫、誰にも話さないから。約束するわ」
「…本当ですか?」
「私は昔から約束は破ったことがないのよ」
「それじゃ、誰にも話さないでくださいね」

「…そう、そんなことがあったの」
 蘭から話を聞いた醍醐真紀が言う。
「ええ。警察でも関連があるかどうか調べているらしいんですけど…」
「…確かにそんな事件があったとなると、親御さんも心配よね。…それにしても、その怪盗紳士は一体何を考えているのかしらね」
「何を考えてる、って…?」
「あ、いや、なんでもないわ。とにかく早く見つかるといいわね」

「それじゃ」
「すみませんなあ、お勘定まで払ってもらって」
「いいんですよ。私も話し相手が欲しかったところだから」
「あの、醍醐さん。例の件ですけど…」
「わかってるわよ。誰にも話さないわ」
 そう言うと喫茶店の前で醍醐真紀と小五郎たちは別れた。

「…それにしても、本当にどうしたんだろうな…」
「そうね。おそらく英画伯も相当ショック受けているはずよ」
「あの醍醐真紀、って女も気にしていたみたいだな」
「そうね。やっぱり美術評論家、って言うのも自分のお気に入りの画家に何かあったら気になるのかしら…」

 そんな会話を交わしている小五郎と蘭の隣で、コナンがさっきからずっとなにやら考え込んでいた。
「…コナン君、コナン君?」
 蘭がコナンに話しかける。
「ん? 何? 蘭ねーちゃん」
「どうしたの? さっきからずっと考えこんじゃって。そういえば喫茶店を出たときからそんな顔してたわね」
「ん? な、なんでもないよ」
あわてて取り繕うコナン。

(…なんか気になるんだよなあ…)
 そう、コナンはさっきからあの醍醐真紀、と言う女が気になっていたのだ。
(…あの醍醐真紀とか言う女、この間遭った時も今日も、自分のことを美術評論家だと言ってたけど、何だかあの目つき、美術評論家とは思えないんだよなあ。何だか獲物を狙っている動物かなんかのような気がするんだよなあ…)
 勿論、なぜそんな気がしたのかはわからない。しかし、コナンにはとても彼女が美術評論家だとは思えなかったのだった。
    *
 そして、探偵事務所の前に来たときだった。
「お、毛利君、待っておったぞ」
 そう、そこに目暮警部が立っていたのだ。
「目暮警部、一体どうしたんですか?」
「君に話したいことがあって来たのだが…。どこに行ってたのかね?」
「いえ、ちょっと野暮用で…。ここではなんですから、事務所のほうへ」
「わかった」
 そして目暮警部を含めた4人は事務所へと上がっていった。

「…それで、例の事件に関しては何か進展があったんですか?」
「いや、これと言って大きな進展はなかったんだが…。そうそう、そういえば今日、英栄二にも話を聞こうと思って警察に呼んで事情聴取を行ったんじゃよ」
「…なんですって? 英画伯を、ですか?」
 小五郎は意外な顔をした。
「ああ。今回の事件に関しては一応彼も関係者の一人だからな」
「それで、何か言っていましたか?」
「いや、これといった手がかりになる話は聞けなかったよ。ただ…」
「ただ?」
「もうしばらく彼の周りを調べてみよう、と言う結論になっての」
「周りを調べる、って…」
「…英栄二は大学時代にパリに留学に行っていたそうだが…」
「その話なら聞いたことがありますよ。なんでも留学に行っていた2年間の足取りがよくわからないそうではありませんか」
「うん。英栄二についてはいろいろと悪い噂が絶えないことも知っておるよ。捜査員の中には彼が何らかの形で今回の事件にかかわっているのではないか、という者もおってな。そこでしばらく彼の様子も見てみよう、ということになったのだが」
「それにしても…」
「…わかっておる。しかしありとあらゆる可能性を考えなければならんことは、毛利くんも刑事だった頃にわかっておっただろう」
「まあ、それはそうですが…」

(…どうやら目暮警部たちは怪盗紳士ばかりではなく、英栄二のことも疑っているようだな…)
 そんな会話を聞きながらコナンは考えていた。
(…確かに英栄二の周辺についても判らないことが多いからな。そう考えると目暮警部の考えも妥当なのかもしれないが…。とにかく、今回の事件はまだわからないことが多いからな。ありとあらゆる可能性を考えなければいけないだろうな…)
    *
 そしてその翌日のことだった。
 毛利探偵事務所の電話の呼び出し音が鳴る。
「はい、毛利探偵…。あ、目暮警部ですか。今日はどのような御用ですか?」
 どうやら相手は目暮警部のようだった。
「…なんですと?」
 不意に小五郎の顔色が変わった。
 何事か、と蘭とコナンも小五郎のほうを見る。
「…はい、はい。わかりました。詳しいことはそちらで伺います」
 そういうと小五郎は電話を切る。
「…どうしたの? お父さん」
 蘭が小五郎に聞く。
「今、目暮警部から連絡があった。昨夜、警視庁に怪盗紳士からの予告状が届いたそうだ。それが…」
「それがどうしたの?」
「詳しいことは警視庁で聞く。とにかく、一緒に来い!」

 警視庁。
「…それで、警部殿。怪盗紳士からの予告状というのは?」
「…ああ、どうやらこれのことらしいんだが」
 そういうと目暮警部は一枚の封筒を差し出した。
「これが昨日、二課のほうに届けられたらしい。とにかく中を見てみたまえ」
 そして小五郎が封筒の中から一枚の紙を取り出した。
「…これは…!」
「どうしたの?」
 小五郎の脇から紙をのぞきこんだ蘭とコナンも絶句する。
 それには、

「英栄二画伯が描かれた『スポーツシリーズ』より『空手』の絵とモデルとなった少女を戴きに参ります 怪盗紳士」

と書かれてあったのだった。

(第4話に続く)






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