チューリップの、あの赤
布団を鼻先まで引き上げ、両足を抱いて。
眠れずに外を眺めていると、空が白んで、夜が明けていった。
星の瞬きから夜明けの朝焼けまで、大体、通して見た。
ひざ小僧の上に乗せた顎がいい加減、ひりひりした。
気がつけば、強い日差しが地面を焼いていた。
近くで小鳥が囀っている。
彼方からの心地良い風が、前髪を揺らしていた。
微かに鼻を掠める香りに、私は重い腰を上げ、半ば無意識にサンダルを足につっかけた。
直射する日光に手を翳し、目を細める。
大きなアクビを一つする。
青い空に、真っ白な雲が幾つか漂っている。
向こうの山に、雲の陰がありありと映し出されている。
しかし太陽は早朝から照り付けているものだ。
影が濃い。
人型にできる光と影のコントラストが鮮明で綺麗だ。
大きく手を振ったり、両手を頭に乗せ目玉を作る。
そんな、影絵遊びをしながらのんびりと農道を歩く。
側にある小川からは、耳を澄ませばせせらぎが聞こえてくる。
青々しい草いきれが風に運ばれてくる。
道端に、シロツメクサやナズナが茂っている。
ナズナをペンペンさせて遊ぶ。
タンポポがあって、足を止めた。
元気な黄色い花や、フンワリとした綿毛となって風を待つものがある。
隣でオオイヌノフグリがコバルトブルーの小さな花びらを精一杯ひらいている。
民家の生垣の名も知らない木からも、可愛らしい白い花が無数に咲いていた。
風がそよいで、木々が、花々が、歌っているようだった。
それぞれみんなが太陽に向かって大きな手を広げ、大合唱しているようだった。
生垣を抜けると、チューリップが一輪だけ咲いていた。
一際大きく、他を圧倒するような、鮮やかな色を付けていた。
何をどうすればそれほどまでに生々しい色が自然に出せるのだろうか。
思わず大きな花びらの中を覗き込む。
すると、どうだろう。
太陽に温められた濃厚な香りが立ち上り、鼻孔から咽喉の奥までがその存在に満たされていった。
しゃがみ込んだ私は、暫くその痺れから立ち上がれなかった。
どこからか、涙が溢れ出していた。
私はその花びらに手を沿え、そっと撫ぜた。
撫ぜれば当然のように、チューリップは揺れる。
きっと、もう少し強い力を加えれば、花びらは捥げてしまうだろう。
いや、何もせずとも散るだろう。
でも、チューリップは咲いた。
魅入られるほど鮮やかな赤い色を付けたのだ。
暫く、涙が収まるまで、私はそこにいた。
背中がポカポカして温かかった。
暖かな春の、生き生きとした、朝だった。
元気出していきましょー!