第4話:In the classroom-I
自己紹介が散々な結果になってしまった…
着席した後、声を押し殺してさめざめと泣ていると、
「えっと…」
……ああ、そういえば挨拶の途中だったな。
「…すまん」
「あ、いえ…」
どこか反応に困っているような雰囲気だ。俺の悪名はそれほど酷いのだろうか?
コホン、と咳払いをして気を取り直し、話しかける。
「あー、さっきも言ったが倉橋だ。よろしく頼む」
「あ、はい。よろしくお願いしますね、えと、ゆーくん?」
「…ふおぉぉぉぉ!?」
凄まじい衝撃に思わず大声を出してしまう。ヤバイ、覚醒しそうだ!
大声を出したので教室中から注目されているようだが全く気にならない。頭の中には今さっきの言葉がエンドレスで響いている。
『ゆーくん』『ゆーくん♪』『ゆーくん(はぁと)』...
なんか脳内で少しずつ変換されていってるがノープロブレム!
「え、えっと…」
いきなり叫んだりしたから高嶺さんは驚いているようだ。その顔をみて少しだけ我に帰れた。
…クッ!凄まじい威力だったが、ここで我を失っちゃいけない!ここで暴走すれば彼女はドン引き。俺は避けられてしまうだろう。それだけは回避しなくては!
深呼吸を繰り返す。……よし、これでもう大丈夫だ。
「$○£☆↑◇∀」
「え?はぃ…?」
しまった。体のほうが回復しきってなかったらしい。
「…ゴホン、すまなかった。こちらこそよろしく頼む」
なんとか立ち直り、返礼する。そうだ。名残惜しくはあるが――
「俺の事は出来ればゆーくん以外で呼んでくれ」
アレはヤバイ。悶死する。
「え、あ、駄目でしたか?」
いえむしろどんどん呼んで下さい、と言いたくなるが我慢だ。
「苗字か名前を呼び捨てでいいよ」
「そうですか…可愛いと思ったんですけど……分かりました。私、倉橋君って呼びますね。それと私の事は好きなように呼んで下さい」
にっこり笑ってそう言ってくれた。マイハニーって呼んでもいいのだろうか?いや、呼ばないが。まあ、苗字が妥当なところか。
「ん。じゃあ、姫野って呼ぼう。あ、それと敬語もいらないぞ。同じクラスだしな」
「あ、敬語は癖みたいなものでして…すいません」
敬語が癖ってホントにいいとこ育ちなのかもな。
「いや、謝らなくていいさ。そのままでいいよ」
「はい」
挨拶を終えて周りを見ると自己紹介はもう最後の人の番だった。
「―――よろしく」
「よし。これで全員だな。…ふむ、もうすぐ――」
これで終わりか。次は、って、
「あの、先生、それがまだですよ」
逆さ吊りにされているヤツの事を忘れていた。
「ん?…ああ、すっかり忘れていたな」
先生にまで忘れられていたか。哀れな…
「ほれ、起きろギルバート」
腹を殴られている。口からグェッというなんとも形容しがたい音が漏れた。
「ぐ、うぅ……お、俺は…?」
起きたらしい。すごいな、俺なら逆に永眠しそうなくらいのパンチだったというのに。
「起きたか?なら自己紹介しろ。他のやつらはもう済んでるぞ」
「いや、それよりもこの縄解いて…」
息も絶え絶えだ。これ以上やると冗談抜きで逝きかねない。オーガもそう感じたのか素直に縄を解く。ギルは縄が解けた瞬間頭から落ちた。
「く…」
よろよろと立ち上がる。ホント、何があったんだ?
「きゃ…」
隣から小さな悲鳴が聞こえた。姫野に何かあったのか?
姫野を見ると顔を真っ赤にして手で顔を覆っている。…そうか、そういえば
「おい、ギル。服着ろ、服」
トランクス姿だったな。今までは逆さ吊りのインパクトがありすぎてあまり気にしてなかったけど、よく考えれば結構問題がある。訴えられても文句言えないくらいだ。
ギルは言われてのろのろと頷くと、辺りを見回し始めた。着替えがないが、どうしたんだ?
「あ〜…破けちゃったのよねぇ」
あははー、と笑いながらアークライトが言った。だからか。
「ふぅ…着替えを持ってくる。お前ら、大人しくしておけよ」
オーガがため息をつきながら出て行った。まあ、このままのギルが着替えを取りに行ったら変態扱いされるだろうしな。
ギルはふらふらしながら1つだけ空いている、俺の1つ後ろの席に座った。
「大丈夫か?」
苦笑しながら問いかける。と、
「……大丈夫なように見えるか?」
意外にもしっかりした声で返事が返ってきた。相変わらず凄まじい回復力だな。
「頭がやばそうに見える」
みんな制服姿の中に一人だけ半裸の男が居れば、もう変態にしか見えない。
「この野郎」
「まあ、それはともかく、何があったんだ?」
恨みの視線をスルーして問う。すると一度ため息をつく。どうやら話す気になったようだ。
「ああ、それは――」
「あのね、こいつってば煩いのよ」
いきなりアークライトが話に加わってくる。会話を潰されたギルは不満そうで、いい気味だ。まぁ俺としてはどっちが話してくれても良いので口を挟まない。というかアークライト相手に文句とか言ったら殴られそうだ。
「煩い?いつもの事だろ?」
「ま、そうなんだけどね。今日は姫野さんが来るって言って大喜びしてたのよ」
「え?私ですか?」
自分の名前が出た為か、姫野も話に加わってきた。するとギルのヤツがいきなり騒ぎ始めた。
「ひ、姫野さん!?いや〜奇遇ですねぇ。はっはっは。あ、俺ギルバート・ハウンゼンっていいます。よろしく!」
「え?は、はぁ…よろしくお願いします」
姫野は呆気にとられている。それにしてもギルよ。その格好で好青年ぶっても気持ち悪いだけだぞ?というかなんでこんなに騒いでるんだ?
「なぁ、姫野って有名人なのか?」
「え?さぁ…?」
疑問に思ったので聞いたのだが、本人もよく分からないらしい。首を傾げながら周りを見ると、信じられない、という顔で俺の事を見ているヤツがたくさん居た。な、なんだ?
「……あんた、もしかして姫野さんの事知らないの?」
アークライトが聞いてくる。なんだ?やっぱり有名人なのか?
「…お前、俺が何回も教えてやっただろうが」
ギルがそんな事を言ってくる。…確かに聞きもしないのに勝手になんか言ってくる事は何回かあったが、ウザかったから全部聞き流していたんだよな。
内容を思い出そうと昔の事を思い出していると、
「……陽菜・姫野・オズワルト…大陸暦965年3月7日生まれの現在16歳。身長156センチ、体重「きゃーー!!」キロ」
後ろの方から個人情報が聞こえてくる。体重の辺りで姫野がいきなり叫んだので耳が痛い…姫野って声デカイんだな…
顔を顰めつつ振り向くとカイが手ぶらで立っていた。凄いな、あんな情報をメモとかに取らずに憶えているのか。流石だ。
「よう」
「……」
カイは声を出さずに頷いた。いつもの事なので気にしない。
「な、なんで知ってるんですか!?体重とか!?」
「………常識」
嫌な常識があったもんだ。
「じ、常識?そんな……」
姫野はかなり落ち込んでいる。どうやら自分の個人情報が常識なのにショックを受けたようだ。…なんか可哀想だな。
項垂れている姫野の肩をポン、と叩く。ゆっくりと顔を上げた彼女に笑顔で告げる。
「まあ、あまり気にすんな。ほら、俺は姫野の事あまり知らないしな」
「はい…ありがとうございます」
なんとか立ち直った様だ。よかった。
「で、なんで姫野は有名なんだ?」
今さっき聞いた内容にはそんな要素は無かったが。
「ホントに知らないのね…あのね、姫野さんってかなり頭良いのよ。万年学年3位」
1位は毎回二人いて、毎回全教科で満点を取っているから、姫野は実質2位という事か。…あ、姫野、万年3位という辺りで落ち込んだな。毎回3位というのもかなり凄いのに。
「それにほら、見た目も性格もかなり良いでしょう?だからかなり人気で、この学校で知らないのは1年生ぐらいしか居ない筈だったんだけど…」
ああ、なるほど。胸もデカイしな。アークライトと比べると余計に大きく見える……ハッ!殺気!?
「なんか失礼な事考えなかった?」
「いや何も?」
表面上は平静なフリをして誤魔化しているが背中は冷や汗でじっとりと湿っている。…アークライトめ、相変わらず胸の事になると鋭いな。
「ねえ、すっごい失礼な事考えてない?」
「だから考えてねぇって」
笑い顔を作って誤魔化す。もうこの事について考えるのはよそう。
「ははは。アレだぜ。悠夜は胸のこゴフアァァァ!」
ナイスだギル!今回はお前のバカさに感謝するぜ!
…ん?なんか忘れている様な…ああ、そうか。
「なぁ、ギルが吊るされてたのって…」
「…これと同じ」
カイが答えてくれた。なるほど。胸の話題を出したのか。道理でいつもより酷いと思った。
―――で、着替えは?
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