第3話:Introduce myself
オーガが担任だと言う衝撃の事実に唖然としていると、
「ほれ、倉橋、さっさと空いている席に座れ。姫野もな」
言われて空いている席を探すと横6列×縦7列ある42席のうち、1番前の列、教壇の前の2席と、その後ろに1つ席が空いていたが、後ろの席には荷物が置いてあるので前で吊るされているヤツの席なのだろう。実質空いているのは前の2席だけ。悪い意味での特等席だ。
しょうがないので奥の方、教壇から見て右の席に腰を下ろす。アークライトは陣取っていた席に戻り、姫野さんも隣の空いている席に座った。
…しかし、なんだか後ろが騒がしいな。姫野さんの名前が聞こえて来るけどなんだろう?姫野さんも少し居心地が悪そうだ。
「…ゴホン」
オーガが咳払いをするとざわめきが収まった。さすがはオーガだ。
「さて、これで揃ったな。私がこのクラスの担任となるエギル・グラッドストンだ。1年間よろしく頼む」
全員が席に着いた(逆さ吊りは放置)のを見て、まずオーガが自己紹介をする。こうしていると教師みたいに見えるから不思議だ(※教師です)。
「さて、これから諸君には自己紹介をしてもらう。氏名、趣味、特技、それと得意な武器や魔術の系統でも言ってくれ。そうだな、廊下側の先頭から順に言ってもらおう」
そういって名簿とペンを取り出す。
自己紹介するのなら名簿順にさせればいいのに、とは思うが、まあいいだろう。
その後始まった自己紹介を適当に聞き流していると、聞き覚えのある声が聞こえた。2列目の2席目。姫野さんの斜め後ろだ。
「……カイ・ルーベンス」
相変わらず無口だな。カイは黒髪黒瞳の小人族だ。黒髪と黒い瞳、というのは俺と同じだが、カイの髪と目はどこか緑がかった黒だから、俺と並ぶと微妙に違う。あととても小柄で、オーガと並ぶと頭がオーガの腰にあるくらいだ。ホビットの特徴である。
「……趣味は写真撮影。特技は潜入。…武器はナイフや暗器が得意。魔術は幻影系統が得意。………よろしく」
これだけ聞くとアサシンやスパイっぽく聞こえるが、あいつの趣味に少しだけ嘘が混じっているからそう聞こえるだけだ。カイの趣味は盗撮。それも女子の着替えなどがメインだ。撮った写真は頼めば焼き増しして売ってくれるので一部の男子生徒に神扱いされている。他にも依頼料さえ払えば色々と(物探しや浮気など)調査してくれるので、過激なモノでも撮らない限りはあまり咎められる事が無い美味しいヤツでもある。
…かくいう俺も何度か世話になった事がある。両方で。
「――イトです。趣味は馬鹿達を思いっきり殴る事です」
ぼけっとしていてら、なんか危険人物が居た。
びっくりしながら見ると、カイの5つ後ろの席、つまり最後尾にいるアークライト――エレナ・アークライトの番だった。赤い長い髪を後頭部で纏めたポニーテイルにしている。こげ茶色の瞳で、猫の様につり上がっている。実際に猫の耳も付いている。猫人族――猫の特徴をもった亜人だ。
しかしあいつが馬鹿達という事は、現在絶賛逆さ吊り中の友人をはじめ、クリスとカイ、それに俺も入っている事だろう。なんてピンポイントかつ恐ろしい趣味を持ってるんだ……
「運動全般が得意で、武器はガントレットです。魔術は変化系統が得意です。1年間よろしく」
そういって着席する。次は3列目の1席目、つまり俺の隣に座っている姫野さんの番だ。
彼女は立ち上がり、やや緊張した面持ちで口を開いた。
「え…と、陽菜・姫野・オズワルトです」
どうやら大陸の人と倭国の人のハーフらしい。
「趣味は料理で、特技は…特に無いです。武器は杖を使っていて、得意な魔術は…結界、かな?えっと、1年間よろしくお願いします」
ふーん、家庭的なんだな。
彼女が自己紹介を終え、着席しようとした時、
「あの、すいません」
既に自己紹介を終えていた男子が口をはさんだ。
「え?あ、はい」
目を白黒させている。まあ、他の生徒の時にこんな事は無かったから当然か。
しかし、彼女には何かあるのか?他の皆も興味津々といった感じで見ている。
「あの、なんでこのクラスに居るんですか?」
……?試験で駄目だったからじゃないのか?
「あ……えっと、その、期末試験の時に高熱を出してしまって…」
……なるほど、つまり彼女は本来はもっと上のクラスなのか。それが試験の時に高熱を出して出席出来なかった、と。
クラス分けは1年間の試験の総合評定によって決まるのだが、試験は1度でも休むとその教科の得点は0になる。体調管理も実力の内、と言う事らしい。まして期末試験ともなると下手をすれば進級に関わる場合もあるくらいだ。姫野さんの場合は進級できただけでも良い方と言えるだろう。
見ると他の皆も納得だという感じで頷いている。
そんな姫野さんの事情を聞いて、何人かの言い訳が聞こえてくる。
『いや〜俺も熱出しちゃってさ』
『俺は利き腕怪我しちまったんだよな』
『お前かすり傷だったろーが』
……馬鹿ばっかりだ。
「え、え〜と、1年間よろしくお願いします!」
居たたまれなくなったのか強引に閉めて座る。
「はぁ……緊張しました」
席に着くと疲れ果てたかの様に突っ伏す。俺はそれを見て思わず苦笑しながら話しかけた。
「災難だったな」
「え?あ、いえ、そんなことは…」
あるだろう。最終的――6年生になる時に上のクラスになれば良いとはいえ、実力とあっていないクラスで1年間を過ごすのだから。
「あ、まだ挨拶してませんでしたね。姫野です。よろしくお願いします」
そう言って姫野さんは深々と頭を下げた。礼儀正しく、育ちも良さそうだな。
「俺は――っと、次は俺の番か。すまん」
こちらも挨拶しようとした所で順番がまわってきた。挨拶は後にまわす事にして、立ち上がる。すると教室のあちこちからひそひそ声が聞こえてくる。
さて、やはり第一印象は重要だろう。なんか最近誤解が出回っているみたいだし、ここは明るく気さくで、人畜無害な好青年である事を証明しないと。というわけで俺に出来る最高の笑顔を作る。
「俺の名前は倉橋 悠夜。親しみを込めて『ゆーくん♪』とでも呼んで下さい」
教室中が緊張した雰囲気に包まれる。何故だ。
『魔王だ…』
『目を合わせるなよ…』
『あの笑いヤベェよ…絶対エモノを見る目だって…』
どっかの誰かが話している。つか、魔王て。
「…趣味は料理、特技は魔術の応用、かな?」
……なんかさっきよりも緊張が高まってきているな。
『気に入らないヤツはじっくり料理するのか…』
『あいつ、人相手に魔術実験とかやってるそうよ…』
『今年もやらかす気満々かよ…』
すげぇ酷い事を言われまくってんな俺。泣きそうだ。だが笑顔は崩さない。
「……刀が得意で、魔術はあまり…強いて言えば自己干渉系でしょうか」
『あいつ去年3年のやつら血祭りに上げたらしいぜ…』
『俺もそれ聞いた事あるな…』
それは事実ではあるが、俺だけじゃなくて他のヤツも一枚かんでいる。というか俺は巻き込まれただけだ。さも俺だけがやったかのように言わないでくれ。
「……それでは、これから1年間よろしくお願いします」
何とかそれだけを言って着席する。もう俺は今年は駄目かもしれん…
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