第2話:Boy meets Girl
「――ん、ここか」
俺は2階に上り、5−Fと書かれたプレートがある部屋の前で立ち止まった。
どう入るかをしばし考える。やはり遅刻した場合は――
「少しくらいインパクトが必要だな」
問題はどうインパクトを与えるかだ。他のクラスはともかく、Fクラス――つまり馬鹿の集団となると一筋縄ではいかないだろう。
「上等じゃないか…!」
プラン1。歌を歌いながら入る――ノー。インパクトが足りない。
プラン2。ダンスしながら――ノー。扉が開けづらい。
プラン3。扉を吹き飛ばして――ノー。去年やった。弁償もさせられたし。
…むぅ、良い案があまり思いつかない。そうだ、この前見た映画であった特殊部隊の突入方法がいいな。
「屋上に行って外側の窓を蹴り破りながら入る、か」
これだ!となると、
「ロープが必要だな」
用務員室にあるだろうか?とりあえず行ってみ――
「あの〜、何してるんですか?」
後ろから女性の声がした。気付かなかったので少しびっくりだ。しかし、オーガの時といい、俺は考え事をすると周りが見えなくなるらしいな。改善しよう。
「ああ、いや、この教室にどうやって入ろうかな、と」
振り向きながら答える。話しかけてきた女性はどうやら生徒らしい。荷物を持っているのでオーガの言っていた遅刻者だろうか?
…へぇ、荷物に気を取られていたが、よく見るとこの女生徒はなかなか可愛い。柔らかそうな栗色の長い髪に空のように青い瞳。あと小柄な割りに胸が大きい。その他には身体的な特徴が特に無いので人間族だろう。
閑話休題――
「で、何か用かな?普通は独り言を呟いているヤツに話しかけないだろ?」
「あ…えーと、その〜…」
軽く目が泳いでいる。なんだろう?…はっ、まさか、「告白か……?」
もしそうだとしたら困った。恋人が欲しくない訳ではないが唐突過ぎる。
どうする、この女子は俺の好みのど真ん中を突いているが……と思いながら彼女を見ると――
「ええ!?ちちち違います!そんなのじゃありません!」
真っ赤になって否定してきた。というか――
「もしかして、口に出していたか?」
コクコク、と真っ赤なまま何度も頷く。しまった。気付かなかった。というか可愛いな、この娘。
「それは済まなかった」
少々思わせぶりな仕草だったとはいえ、俺の誤解だから非はこっちにあるだろう。よって頭を下げる。
「いえ!頭を上げてください!」
言われた通り頭を上げる。と、彼女はほっとしたように息をついた。頭を下げられる事に慣れていないのだろうか?
「んじゃ話を戻すが、何の用だ?知り合いでは無い筈だけど」
「あ、えーと、この教室なんです」
…何が?
訝しげに見ていると彼女も気付いたのか少しだけ慌てた後、言った。
「えと、私、この教室の人なんです」
この教室の生徒という事か。つまり、
「クラスメートか」
Fクラスの生徒という事だ。
「え?そうなんですか?」
「まぁ、この時間帯にこの教室に入ろうとするのはここの生徒か先生しかいないだろうな」
「あ、そ、そうですよね」
「ああ。…さて、入ろうか」
とりあえずもうそろそろ入らないといけないだろう。この問答で結構時間を食ったし。
「え?屋上には行かないんですか?」
忘れていた。だが――
「ん、いいさ。そろそろ入らないと時間無くなりそうだし」
「あ!そうでした!えっと、じゃあ、お願いします!」
そういって俺の後ろに並ぶ。俺が開けろという事なのだろうか?
ま、いいか。と口の中で呟き、扉を開ける。
ガチャッ――
「スイマセン、遅れ――」
中を見た瞬間フリーズした。
地理学などで使う地図を掛ける棒に、下着姿――つまりトランクス1枚のまま縛られながら吊るされ、体中痣だらけになっている自分の友人の姿と、それに向かって凄まじい形相をし、返り血を浴びた女生徒が容赦の無い攻撃を繰り出しているという光景を見れば誰でもフリーズするだろう。見ている間にもドスッ、ビシィ!という肉を打つ音が教室中に響いている。
他のクラスメートを見ると、前を見ないように顔を背け、耳を塞いでいる。と、何人かの生徒がこちらに気付いたのか、救いを求めるかの様な視線を送ってくる。
「………」
ヤベェ、メチャクチャ怖いぞコレ。どうしよう……
「……失礼、間違えました」
バタン
迷った挙句、間違えた事にして扉を閉める。さて、帰ろうかな?
「ど、どうしたんですか?」
「ん?なんでもないよ。さ、帰ろうか」
満面の笑顔で帰宅を促す。
「ええ!?ダ、ダメですよ!」
「や、そんな事言わずにさ?」
絶対にあの教室にいるよりはこの娘――そういえばまだ名前を聞いていない――とデートでもした方が賢明だ。
「あの、中に何かあったんですか?」
教室の中が気になるらしい。当然か。
「…まぁ、なんだ。見ないほうがいいよ?」
俺の口からそのまま伝えるのはキツ過ぎる。というか窓から突入しなくて良かった。この娘に感謝感謝。
そんな俺の恩人は顔を引きつらせている。教室に入るかどうか迷っているのだろう。
ふと、足音が聞こえてきたのでそちらを見る、と――
「何をやっとるんだ倉橋」
オーガがあらわれた!
「オ――エギル先生。どうかしましたか?」
「それはこっちの台詞だ。というか今オーガと言おうとしなかったか?」
「気のせいです。で、俺、今日のところは早退していいですか?」
無断で帰るつもりだったが、オーガが来たなら無断では無理だ。そんな訳で断りを入れる。だがまあ、
「駄目に決まってるだろうが…それよりもお前、女にまで手を出すようになったのか?」
「違いますよ……」
やはり駄目か。というかオーガめ、なんという事を言うのか。女にまでって、今までは男に手を出していた様な言い方じゃないか。俺にそんな特殊な性癖はない。
「…ん?そっちのは姫野か?」
「あ、はい!」
どうやらこの女生徒は姫野さんと言うらしい。そういえば結局自己紹介はしていないな。
「悪い事は言わん。こいつは止めておけ」
この鬼教師め、なんて酷い忠告をするのだ!俺の青春を潰す気か!?
「あの…そういうのじゃないんですけど…」
クッ!結構キクなこの台詞…いいもんね!どうせ俺に春は来ないのサ(泣)
「それはそうと早く教室に入れ」
……ハッ!鬱に入ってて今の状況がヤバイの忘れてた…
「それが……」
なんかこそこそと二人で話している。そうだ!今のうちに逃げれば…!
「待て」
捕まっちまった…
「ふぅ…とりあえず入るぞ」
オーガは俺の襟首を掴んだまま扉を開ける。やめろ!
「すまん、遅れた――」
言葉がとまった。オーガもやられたか…
「何をやっとるんだお前らは?」
しかし、その声には恐れというよりも呆れの色の方が強かった。なんでだ?
恐る恐る中を見ると、さっき俺が見た光景とは違っていた。
縛られながら殴られていた俺の友人は、今度は逆さ吊りにされているだけだ。生徒達はアレを無視する事に決めたのか、思い思いに喋っている。
逆さ吊りの男と床に飛び散った血が尚も不気味ではあるが、先程のような怖さはあまり無い。
「え…と、何コレ?」
思わず尋ねずには居られない光景だ。
「「さあ…」」
オーガも姫野さんも答えに詰まっている。当然か。
「あ、来たわね」
先程の女生徒が俺達に気付く。俺はそこでその血塗れの女生徒が知り合いだという事に気付いた。
「ん?アークライトか」
去年の同級生だったが、今年も一緒か――というか親しくしていたヤツは殆どこのクラスに居るらしい。類は友を呼ぶ、か。…って、それだと俺もバカと言う事に…?い、いや、考えないようにしよう。うん。それがいい。
「で、これなんだ?」
逆さ吊りの男を指差して尋ねる。今さっきの考えを振り払う為と、実際気になっていたからだ。
「ああ、これはね――」
「待て、話は後だ。全員揃ったな?」
オーガに話を遮られる。しかし、オーガが確認を取るとは、担任はどうした?
「あれ?担任の先生はどうしたんですか?」
聞いてみる。と、
「む?聞いていないのか?ここFクラスの担任は―――俺だ」
……何ぃ!
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