第1話:Go to school
―――大戦から時は流れ、大陸暦982年。
「…ねみぃ」
窓から朝日が差込む中、布団がモゾモゾと動く。と、数秒間動きが止まった。
「…今日って始業式だったよーな」
ムクリ、と起き上がったのは黒髪黒瞳の16、7歳程の少年。
時計を見ながらガシガシと頭を掻き、ポツリと呟いた。
「目覚まし忘れてたか…遅刻だな」
時計の針は9時をさしている。始業式の始まりは10時だが、8時半には教室に居ないといけない。つまり、遅刻確定だ。
だが少年は一切慌てる様子を見せず、むしろのんびりとした口調で呟く。
「休むと――後が面倒だな。行くか」
起き上がり、着替え始める。その後は歯磨き、洗顔をし、動きが少し止まる。
「飯、は……学校昼までだし、いっか」
朝食の事を考えていたらしい。遅刻が確定しているというのに余裕だ。
反りのある片刃の剣――刀を剣帯に差し、カバンを持って玄関に行き、
「じゃ、行ってきますかね」
ドアを開け、歩き出した。
俺達がこのコーラル国立魔術学院に入学してから一年が経った。ここでは見かけないが故郷――倭国では桜が満開だろう。
校舎へと続く道を行きながら、俺は故郷を思い出していた。風景、友人、兄弟、両親――そこまで考えて思考を止め、頭を振る。不愉快な事まで思い出してしまった。
「倉橋、遅刻だぞ」
玄関に居た生活指導のオッサンに呼び止められる。考え事をしている内に玄関に着いたらしい。声のした方を見ると、日焼けした浅黒い肌をした短髪の、がっしりとした体つきの男がいた。身長が2メートル近くあるので亜人の様にも見えるが人間族だ。
「あ、エギル先生。おはようございます」
頭を下げて挨拶する。挨拶は大事、というのもあるが、このエギル・グラッドストン教諭――通称オーガは戦闘科目の担当でもあり、怒らせたら容赦なく殴ってくるのであまり怒らせたくないというのもある。
「ああ、おはよう――じゃない、挨拶する前に何か言う事はないのか?」
前々から思っていたがこの先生は頭が弱いんじゃないだろうか?
「言う事、ですか?…お久しぶり?」
4年生の修了式以来あっていなかったのでこれでもいいはずだ。
ちなみにこの学園は全6年制で、前期3年、後期3年があり、俺は後期課程から入学した――って、誰に説明してんだ?俺。
「違うっ!遅刻の謝罪だ!」
「あ、そっちでしたか。すいません」
「全く、貴様というヤツは…」
ため息をついている。去年の事を思い出しているのだろう。友人と色々とやらかしたからな。しかし、その言い方ではいつも遅刻している様に聞こえるな。訂正しておこう。
「俺、遅刻はあまりしませんよ?遅刻の常習犯はあのバカです」
「確かにギルバートの方が遅刻は多いがな…今日はあいつの方が早いぞ」
おお、先生がバカを否定しなかった。まぁ、否定できないんだろうが。
しかし、ギルの方が早く来た、というのは意外だ。修了式でも遅刻したのに。
…ま、いいか。
「先生、もう行っていいですか?クラス分け見たいんですけど」
「…お前は見なくても分かるだろう。早く教室に行け」
まぁ、見るまでもなくFクラスだろう。ほとんどの試験で寝ていたのだから。
この学院、1年間の試験の総合評定が良ければ上のクラス、悪ければ下のクラスという様に評定によって次の学年でのクラスが分けられる。
魔術学院である以上、試験は魔術に関するものばかりだ。試験の内容は筆記が総合、理論、歴史の3科目と、実技が実践、応用の2科目、計5科目からなる。その成績が良い方から順にA〜Fクラスに分けられる。
卒業した者はその時点のクラスでギルドからランクを与えられる。AクラスならAランク、BクラスならBランクといったように。
だからこの学校では皆少しでも上のクラスに入ろうと頑張るのだが――俺を含め何人かは興味を持っていなかった。
「まぁ、わかりますが。とりあえずクラスのメンバーは見たいです。」
「すぐに会うだろうが」
「知らないで会うのと知って会うのは結構違いますよ。俺の対応とか」
「はぁ…ならさっさと見に行け」
何故そこで呆れた顔をするのだろうか?
「じゃ、行ってきますね」
「ああ、ただでさえ遅刻だからな。早くしろよ」
声を背中に受けながらクラス分けが貼ってある掲示板を見る。
他のクラスには目をくれず、Fクラスをみて『倉橋 悠夜』という自分の名前を探す。と、発見した。他にもざっと目を通し、何人かの知り合いの名前を見つける。先程の話に出ていたバカの名前もあった。
目的を果たしたので玄関に戻り、靴を履き替える。
「見たか?」
「ええ、じゃ、行きますね。…まだ始業式は始まってないですよね?」
「ああ、そのまま教室に行って来い」
「はーい」
相槌をうち、教室の方に行こうとして、ふと疑問を感じ、振り返る。
「あれ?そういえば先生は始業式の準備とか無いんですか?もしかしてサボり?」
「そんな訳無いだろうが!遅刻者を待ってるんだ!」
「え?俺以外に居るんですか?」
あのバカが来ているなら俺が最後だと思ったのだが。
「ああ、ってさっさと行け!」
「あ、わかりましたー」
まぁ、いいか。オーガが切れそうだし、とりあえず行こう。確か5年の教室は2階にあった筈だ。
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