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第229話 魔王の影

中途半端に見えるかもしれませんが、今回はここまでです。

最終章は、6月……かなあ。

気長にお待ちください。

 白い部屋を出て、もとの場所に戻ってすぐ。

 カヤは残るスケルトンのもとへ駆けつけ、これを素早く仕留めてみせる。

 これで、このあたりにいるモンスターは掃討した……かな。


 人々が上空十メートルほどのところに浮いているぼくたちを見上げて、なにやら指さしている。

 怯えている者も多い。

 モンスターにしか見えない使い魔を連れているから、無理もない。


 護衛として使い魔は絶対に必要なんだけど……そうだな、姿を擬態することは可能か。

 ぼくはナハンに命じて、ペヌーザとシュトラスを普通の人間のように見せるような幻覚魔法をかけさせる。

 ペヌーザからは翼が消え、シュトラスは鎧を脱いだ精悍な騎士になった。


 そのあと、ナハンを小型化させてぼくが抱えられる程度にする。

 これならポケモンとかの同類と思って……もらえない、かなあ。

 そもそもポケモンが現実世界にいるわけないのに、ぼくはなにをやっているんだろう。


「おーい、カズさーん!」

「やっとおいつけました!」

「お待たせしました」


 アリス、たまき、ルシアの三人がこちらに向かって空を駆けてきた。

 彼女たちにはフライがかかっておらず、ウィンド・ウォークだけである。

 そのため移動にも少し時間を要したのだろう。


 で、たまきの横では、黒い豹のようなモンスターがいっしょになって駆けている。

 クァールだ。

 おまえ……なんで当然のような顔してついてきてるんだよ……まあ、いいけど。


「きみも無事だったか」

『う、うむ。おそらく、わが主も無事であろうが……ここはなんとも、眩暈を覚える世界だな』

「あれ、きみってアルガーラフとリンクしていたんじゃないのか」


 クァールは少しためらうように目を伏せた。

 いやバレバレでしたって。


「リンクが切れた? まあ、いいたくないならいいよ」

『気遣いに感謝する』

「共同戦線は継続、でいいのかな」

『是非もなし。あれを見てしまった以上、主もそうおっしゃるはずだ』


 あれ?

 なんだ、とぼくはクァールの視線の先を見る。

 でもそこには巨大なビルが立ちふさがっていて、行く手が見通せなかった。


 ま、このあたりはでかいビルだらけだからなあ。

 東の方なんだけども。

 仕方がない、と敵に見つかる危険を冒して高度をあげる。


 なにもいわずとも、志木さんたちがついてきた。

 そしてビル群が視界を妨げることのなくなった高度にて。

 ぼくたちは、東京湾の上空に浮かぶそれを見る。


 全長数キロはあるだろう巨大な黒い球体だった。

 太陽を浴びて、時折銀色に輝いている。

 そのあきらかな人工物は、海上数百メートルの地点にぷっかりと浮かんでいた。


 明らかに人類のテクノロジーを超越した、異様な物体。

 それどころか、この地球上の物質ですらないと思える、圧倒的な違和感。


「なんだ、あれ……」


 思わず、ぼくは喘ぐように呟く。


「まおう!」


 カヤが、元気よく告げた。

 皆が「え?」と彼女の方を見る。

 ぼくの娘は、嬉しそうな顔をして胸を張る。


「あれが、まおう、です!」

『あそこにおわすのが、魔王さまである。この人間の言葉は真実だ』


 クァールがダメ押しとばかりに補足を入れた。



        ※



 それから。

 ぼくたちは渋谷の町で暴れていた残り十一体のスケルトンを掃討した。

 その過程でぼく、アリス、たまき、志木さんがレベルアップした。


 ぼくは強化召喚を6に上げ、使い魔強化を6、使い魔維持魔力減少を3に上昇させた。

 アリスは聖槍術が2になり、強化槍技と槍楯技がともに2となった。

 たまきも同様、重剣術が2となり、強化剣技と破竜斬を2とした。


 志木さんのスキルポイントは、偵察スキルを上げるために温存である。

 もう彼女にはなんの戦闘力も期待していないので、問題はない。


 和久:レベル60 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント5→0

          強化召喚5→6(使い魔強化5→6、使い魔同調3、使い魔維持魔力減少2→3)


アリス:レベル50 槍術9/治療魔法9 スキルポイント5→0

          聖槍術1→2(強化槍技1→2、槍楯技1→2)


たまき:レベル50 剣術9/肉体9 スキルポイント5→0

          重剣術1→2(強化剣技1→2、破竜斬1→2)


 志木:レベル16 偵察6/投擲3 スキルポイント5


 白い部屋にいったときに、相談をした。

 あの魔王は、どうしてあそこにいるのか。

 なにをしているのか。


 カヤは「わかんない!」と無邪気に告げた。

 まあ、そうだよな。


「やっぱり、わたしたちが消えたあとの地球側の状況を調べる必要があるわ」


 志木さんの言葉に、誰もがうなずく。

 そうなると……早急に、志木さんの実家に行くべきだろう。


「ねえねえ、ところでさ、カズさん。警察にいくってのはダメなの」

「状況が状況だけに拘束は免れないだろうし、そうなると数日から数十日は取り調べられるぞ。これまでのことを考えても、そんなに時間を取られるわけにはいかないだろう」

「あ、そっか……面倒だね、警察って」


 いや、どっちかっていうとおかしいのはぼくたちなんだけどね。

 行方不明になって、モンスターとおぼしきものを連れて現れて、魔法を使って、スケルトンたちを蹴散らして。

 いやはやまったく、どうしてこんなことになったんだか……。



        ※



 しばしののち。

 ぼくたちは、志木さんの家の前までやってきていた。

 姿を消して飛行してきたから、突如として現れて渋谷で暴れたぼくたちがいまここにいることは誰も知らないはずだ。


 志木さんの家は、古い家が立ち並ぶ界隈の一角にあった。

 井の頭線の駒場東大前駅を降りて、徒歩五分ほどの好立地である。

 塀で囲まれた敷地のなかには、そこそこ広い庭があった。


「ほんとにセレブだな……」

「な、なによ、いまさら。そんなこといったら、ルシアさんなんて王女さまでしょう」


 志木さんは顔が赤い。

 どうやらお金持ちといわれることにあまりよろしい感情を抱いていないご様子。

 是非とも、ここぞとばかりにこの路線で攻め込みたいところだが……。


「ダメですよ、カズさん」


 アリスからダメだしが出た。

 左手を腰につけ、めっ、と顔の前で右手の人差し指を立てている。

 素直にいって、ちょうかわいい。


「そ、そうだよ、カズさん! カズさんがいじめていいのは、わたしたちだけ……だよ?」

「おまえはなにをいってるんだ、たまき」


 よくわからないことをいいだしたたまきの頭を、とりあえず撫でておく。

 ああ、アホの子ちょうかわいい。

 そんなことはどうでもいいんだ。


「パパ!」

「ああ、カヤもかわいいぞ」

「うん!」


 カヤの頭も撫でてやる。

 よしよしよし、本当にいい子だ。


「ときに志木さん、緊張している?」

「そりゃ、もちろんよ」


 全員のインヴィジを解除したあと、ぼくたちは門前に並んでいる。

 面倒がないようにすべての使い魔はいちど送還してしまった。


 で、いま。

 志木さんは、門のインターホンの前で硬直している。

 気持ちはわからないでもない。


「志木さんでも緊張するんだね」

「するにきまってるでしょう。ああっ、もうっ」


 志木さんは髪をぐしゃぐしゃとかき乱し……。

 いらだちの勢いをかって、インターホンを鳴らした。

 家のなかからバタバタという音がして、インターホンから女性の声が聞こえてくる。


「わたしよ。縁子。帰ってきたわ」

「……え? ちょっと、まあっ、本当!」


 バタバタという音はどたどたになって、しばしののち。

 門が開き、少し小じわの目立つ中年の女性が飛び出てきた……と思ったら志木さんにがばりと抱きついた。

 花柄のエプロンをした、少し恰幅のいい、四十代後半くらいのおばちゃんである。


「よかったわ。学校で事故があったって聞いて、ずっと不安で……。でもあなたが無事で、本当によかった」

「母さん……」


 志木さんは、抱きしめられてしばし慌てた。

 助けを求めるようにぼくたちを見るが、ぼくたち全員、微笑ましい表情で見守るばかり。

 仕方無くため息をつき、彼女もまた母親の背中に腕をまわす。


「ただいま」


 ちいさく、そう呟いた。

 そうしたら実感がわいたのか。

 志木さんの腕にがぜん、ちからがこもる。


「そっか、わたし……帰ってこられたんだ」


 われらがリーダーとしていつも毅然としていた少女の双眸から、大粒の涙がこぼれおちた。

 頬を伝い、お母さんの肩を濡らす。


「帰って……きたんだあ……」


 胸のうちにこもっていた思いは、よほどであったのか。

 一度涙が流れると、止まらなかった。

 少女の嗚咽が漏れる。



        ※



 ほどなくして、ぼくたちは家のなかに案内された。

 玄関で靴を脱ぐときルシアがいささか怪訝な表情をしていたものの、木板の床を踏み素足で歩くうち、なるほどこういう文化かと納得してくれた。

 ぼくたちは居間の和室に案内され、そこにいた志木さんの祖母と祖父を驚かせることになる。


 仕事に出ているという父に連絡を入れるべく、ハゲ頭の祖父が旧式の携帯電話を手にアワアワしていた。

 ダイヤルのしかたがよくわからないらしい。

 祖母とお母さんは、お茶を淹れにいってしまった。


「ええと……落ち着かないでしょうけど、座ってちょうだい」


 二十畳ほどはあろうかという、広い部屋だった。

 畳の上に高級そうな黒テーブルがあって、そこにお菓子が並べられている。

 テレビがついていて、ニュースの映像を映していた。


 あ、ぼくの使い魔が映ってる。

 っていうか、モンスターを倒すカヤの姿がはっきりと映っちゃってる。

 ついでにカメラがバンして……うわあ、いまぼくと志木さんがちらりと映ったぞ。


「テレビだ!」

「ああ、カヤは文明の利器とか……いや、どうなんだ?」

「だいたい知ってる!」


 知ってるのか。

 本当にカヤの育った環境はよくわからない……。

 あとで詳しく聞いてみたいところではあるんだけども。


 いまはそれどころじゃない。

 テレビのテロップの日付を見て、いまはぼくたちが異世界に転移してから六日目であることを確認できた。

 つまり向こう側の世界とこちら側の世界で時差のようなものは存在しないということだ。


「それじゃ、とりあえず……」


 志木さんの祖母とお母さんがお茶を持ってきてくれたのを機会に、志木さんが口をひらく。


「ごめんなさい、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん。時間がないの。わたしたちがいなくなってからのこと、まずは簡単に説明してもらえる?」


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[気になる点] 魔王さまは向こうと同じ姿なんだろうか? デッカい球体がちまちまと魔法陣を書いて専従契約したとは思えない。まあ、そもそも契約のプロセスが同じとは限らないけど。 このデッカい球体の目撃証言…
[一言] カズに縋ってしまえば楽になれるのに、今まで頑として孤高を貫いてきたからねえ……本当は誰よりも傷つきやすいのに
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