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ガンパレード・マーチ短編集
作:金城 ユウ



青の伝説 熊本撤退戦



 1999年5月、5121小隊は壮絶な撤退戦の最中にいた。
 3月からの戦いにおいて、芝村舞(しばむらまい)東原ひがしはらののみ、狩谷夏樹かりやなつきの3名が戦死。
 来須銀河くるすぎんが、行方不明。
 善行忠孝ぜんぎょうただたか加藤祭かとうまつりが、部隊を離れた。
 現在、司令に若宮康光わかみややすみつが付き、田代香織たしろかおり茜大介あかねだいすけ東原希ひがしはらのぞみ(ののみタイプ)が補充され3号機に、壬生屋未央みぶやみお瀬戸口隆之(せとぐちたかのりの両名。
 そして、1号機に青く塗装された士翼号を駆る、速水はやみ、いや、今は芝村しばむらを名のる厚志あつしの姿があった。

「こちら尚敬高校しょうけいこうこう戦車小隊。敵と交戦中。来援お願いします」
「きゃ」
 悲鳴とともに、車内に衝撃がはしる。
「車輪を、やられました。動けません」
 目の前に、スキュラが見える。
「こんなの、YESじゃない」
 その言葉とともに、スキュラが光に包まれ、四散した。
 思わず「へっ」と声が漏れた。
「5121小隊所属の厚志百翼長だ。芝村をやっている。そちらの指揮官は誰だ」
目の前に現れた、青い士翼号からの通信だ。
「はい。悠木映ゆうきあきら十翼長です。5133小隊、3号車の戦車長です」
「では十翼長。北に500mの地点で、我が隊が、退路を確保している。合流してもらおう」
「了解しました」
 映は士翼号に向かい、敬礼をし、生き残りを連れて、北へと走り出した。

 視界の隅から、久遠の小さな影が消えていく。
 レーダーには、100を超える幻獣が映し出されている。
 まだ、射程距離外だが、士翼号なら一瞬で白兵戦距離まで詰めることが出来る。
「いくよ」
 厚志の言葉を聞いた、イトリが歌いだす。
 その歌を聴きながら、厚志は士翼号を跳躍させた。

「……以上の物資を、お願いできませんか。斜樹ななめぎ準竜師。」
「貴様……」
「そんな顔しないで下さい。ひとつのネタで、何度もたかるつもりは、ありません。取引としては高くはないでしょう?」
「……」
「それとも、その権力、失ってみますか?」
 厚志の口元は笑っているが、目は笑っていない。
「斜樹準竜師。断るのは自由ですよ。僕は、断るとは思っていませんがね。では、いい返事お待ちしています」
 形だけの敬礼をして、通信を切る。
「さて、立ち聞きなんて、いい趣味とは言えないね」
 厚志が言うと、入り口から一人の少女が入ってきた。
「たしか、悠木映十翼長だったね。今聞いた話、他言しないでくれないか」
 厚志は冷たく笑う。
「こんな危ないこと、YESじゃないよ。やめたほうがいいよ」
「言っていなかった。僕は芝村なんだ。目的の為には、手段は選ばない」
 映は動けなかった。
 厚志はただ立っているだけだが、まるで首筋にナイフを当てられているようだ。
「よお、アッキー」
 固まっている映に、瀬戸口が抱きつく。
「映、俺からもたのむよ。それから速水。右手の物騒なもの使うなよ」
 厚志は映に笑いかけた。
 先ほどとは違い、やさしい笑顔だ。
「僕も、自分の甘さを再確認していたところさ」
 瀬戸口に拳銃を渡し、厚志は、士翼号に向かった。

「速水君は中?」
 原が森にたずねた。
「ええ、あの日から毎日です」
「私ね、あの娘に、芝村さんに、男なんて一番好きな女の子が奪ってもいいことになっているって言ったのよ」
 原が悲しげに笑う。
「本当に奪って、いっちゃった」

 厚志は、士翼号の中にいた。
「いったい、僕は何をやっている」
 いらだちから、言い放つ。
「一番大事なものを失ったんだ。世界ぐらい手に入れないでどうする。非情になれなくてどうする」
 それは、約束。もう果たされることのない彼女との約束……
 厚志は、腕に巻かれた紅い布に触れた。
「舞、君のいない世界は、冷たいよ」
 そう呟くと、厚志はひざを抱えた。

 1週間後。
 5121小隊は、北九州まで撤退していた。
「くそ!完全に囲まれた」
 若宮がはき捨てるように言う。
 モニターには、幻獣に囲まれた自分たちが映し出されている。
「若宮、周囲の部隊をまとめて、北側を貫け。しんがりは僕がやる」
 厚志が、当たり前のように言う。
「しかし、上級万翼長。下手をすると、包囲殲滅されます」
「僕がやると言ったんだ。それはない。まだ、北側が薄い内にやらないと、チャンスがなくなるぞ」
「わかりました。早速かかります」
 厚志は、うなずいた。
「うわー、こちら滝川たきがわ、ス、スキュラに囲まれた」
「滝川、5秒持たせろ」
 言い終わる前に、士翼号を跳躍させた。
 5体のスキュラから、逃げ回る滝川機が見えた。
 士翼号の手に、炎の剣が現れる。
 一振りで、5体のスキュラがチリと化した。
「滝川、先に行け!僕が、時間を稼ぐ」
「で、でもよう」
「滝川、山口で会おう」
 士翼号の親指を立てて見せる。
「おう、山口で」
 滝川機が北に向かって走り出す。
「イトリ、絶技を、リン・オーマの防壁を頼む」
 イトリが頷くと、厚志は、士翼号を幻獣の群れの中に突っ込ませる。炎の剣により次々と厳重が消滅していく。
 幻獣の群れの中を駆け抜ける姿は、まるで青いイマズマのようであった。
 激しい戦いの中、厚志が呟く。
「舞、君に世界をあげる。だから、僕は死なない。そう、幻獣と、僕らを利用した者たちを滅ぼすまで」



1999年5月。
人類は九州より完全撤退。
しかし、戦争は続く。
青の物語はまだ、始まったばかりである。


いかがでしたでしょうか。
今回の話は『夢散幻想』がベースになってます。
来須君は、生死不明だったので、行方不明にして、祭ちゃんも部隊から離れたことにしました。
抜けた人の分を、埋めるつもりで、田代、茜、ののみタイプを出したんですが、出番なし。(笑)
出番あったんだけど、悠木映ちゃんに取られちゃいました。
さて今回の話だけ、2話構成です。次回の『青の伝説 反抗作戦開始』でお会いしましょう。











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