絢爛舞踏 速水×舞
「幻獣、撤退します」
指揮車の中に瀬戸口の声が響く。しかし、いつものような歓喜の声は無かった。
「司令。速水機、撃墜数41。総撃墜数313」
善行は、そのことについて、何も言わなかった。
「全機、帰投して下さい」
瀬戸口は速水機に回線を繋ぐ。
「速水、一度しか言わないよく聞け。愛を忘れるなよ。愛さえ忘れなければ、どんな状況でもどうにかなるさ」
厚志がいつもの様に登校すると、道を歩いていた人々が左右に寄った。人が割れ厚志の前に道が出来た。そして、その顔には恐怖と嫌悪の色が浮かんでいる。
厚志はため息をつく。昨日テレビに出てから万事この調子だ。
「フフフ、俗人のやっかみや恐れなど気にする必要はありません」
「い、岩田君」
いつのまにか、厚志の隣でいつものように腰をまわしている。
「人は、本能的に異能者を恐れるのです。それが、たとえあなたでもね」
「岩田君、言いたいことは分かったけど…… 説得力ないよ」
「イイではありませんか。そんなことは、さあ行きましょう我らの学び舎へ」
厚志は少しだけ笑った。
昼休み、厚志は公園の桜の木の下で昼寝をしていた。ひらひらと舞い降りるピンクの花びらが幻想的な美しさを描き出している。
5121小隊の面々の反応も外とあまり変わりない。少し一人になりたかった。
すぐ横には、舞の手作り弁当と来須が投げてよこしてくれた弁当があるが、まだ手をつけていない。
舞はいつものことだとしても、来須は彼なりに気を使ってくれたのだろう。
投げた後に「幻獣が死ぬたびに助かる命もある。他人の言うことなど気にせんことだ」と言ってくれた。
不意に厚志の顔に笑みが浮かぶ。
僕は何をやっているんだ。覚悟ならできていたはずじゃないか。人でないものになる。そして、自分の大切な人々を守る。別に感謝されるためじゃない。そう、感謝されるためでは……
あの日に、悠木 映が戦死した日に決めたではないか。弱き人の盾となり剣となる。
タトエ、バケモノニナッテデモ……
厚志は起き上がると、舞の手作り弁当に手を伸ばす。うん、おいしい。初めの頃は焦げていたり、味が濃すぎたりしたものだが、短期間の進歩はたいしたものだ。
厚志は、幸せそうな顔をして弁当を咀嚼する。
「厚志!」
舞の声が響く。厚志はいつもの、ぽややんとした顔で振り返る。
そこには、肩で息をした舞が立っていた。
「舞、どうしたの?」
「いや、昨日から様子がおかしかったからな。探していた」
息を切らしながら答える舞。
「ごめんね舞。もう大丈夫だから」
「気にするな。死を呼んで舞う美しき化物よ。人を守るために人でないものになったのだろう」
「舞!」
「まだ気にしているではないか」
厚志の様子をみて、舞が言った。その顔には不安げな表情が浮かぶ。
「……厚志、私が居るだけでは、ダメか。そなたのそばに居るのが、私だけではダメか。私は……」
顔を真っ赤にして必死に訴える舞に、厚志は優しく微笑む。
「わかっているよ、舞。君さえそばにいてくれたら、僕は世界でも敵にまわせる」
『201V1、201V1全兵員は現時点を持って作業を放棄。可能な限り速やかに教室に集合せよ。繰り返す……』
突然、多目的結晶から召集がかかる。
厚志の顔を見た舞が笑う。
「フッ、厚志、やはりお前は化物だ。今、どんな顔をしているかわかるか? 血に飢えた狼のようだぞ。安心した。世界広しといえどお前の傍に居られるのは、私だけだ。死が二人を分かつまで、共にあろうぞ」
舞が、手を差し出す。
「うん、死が二人を分かつまで」
舞の手を握り厚志が走り出す。新しい未来を掴むために。
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