BOULEVARD
「厚志、あと15分だ」
「……うん……」
厚志の頭を、白魚のような綺麗な手がなでる。
しかし、厚志は別のことを考えていた。
4月1日。
例年より、気温が低く、桜前線の北上も、遅れていた熊本も、やっと桜が満開となった。
そんな昼休み、舞と厚志は桜並木のある、大通りに面した小さな公園にきていた。
舞、手作りの弁当を食べた後、芝生に寝転びながら、厚志は昨日、森に言われたこと考えていた。
「ひとつ、聞いてもいいですか」
士魂号のコックピットから降りた厚志は、3号機整備士の森に、呼び止められた。
「何、僕でいいの」
厚志は、首をひねりながら言う。
今日の戦闘では、士魂号に傷ひとつ付けていないはずだし、5回目のシルバーソードも取れた。よく「簡単に、壊さないで下さい」と小言を言われることもあるが、今日はそういうことでは無いはずだ。
「どうすれば、あんなふうに動かせるのですか?」
「えっ」
あまりに予想外の言葉に、厚志は絶句した。
「あなたの動きは、士魂号のスペックを、遥かに超えているんです。あんな機動をすれば関節や人口筋肉をやられます。しかし、士魂号に異常はありませんでした。どうすれば、あんな動きが出来るのですか?」
しかし、厚志は森の話を聞いていなかった。ただ森の目を見ていた。ラボにいた頃、研究員たちが自分に向けた目。化け物を見るような目。
厚志は、振り返ると走って逃げた。自分に向けられた視線から逃げた。
「厚志っ!」
大声と同時に、戦術教本で頭をはたかれた。
「たわけ!午後の授業に遅れる。二人して極楽とんぼでも取るつもりか」
「ごめん。あんまり気持ちよかったから」
厚志は、舞の膝枕に別れを惜しみつつ起き上がった。
大通りから吹いてくる、桜の花びらを含んだ風が頬を撫でる。
「舞、僕達の撃墜数、知ってる?」
「226だ。あと、10日もあれば絢爛舞踏に手が届くな」
厚志は、何も答えない。
「昨日、森が言った事を気にしているのか」
「聞いていたの」
「厚志。背筋を伸ばし胸を張れ、そなたの持っている力は恥じるべきものではない。弱き人々の未来を切り開くための力だ。その力ゆえ人々が離れても、私だけは、そなたと共にあろう。自分自身と私を信じよ、私はそなたを裏切らぬ」
舞の黒髪が風に流れる。その姿は自信に満ち溢れ、凛とした美しさがある。厚志はその美しさに、目を奪われた。
「舞……」
厚志は、舞を抱き寄せ、唇を重ねた。そして、力いっぱい抱きしめた。
「ごめん。もう少し、このままで……」
二人を祝福するかのように、桜の花びらが舞っていた。
END
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