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その彼の名を誰も知らない 作者:龍華ぷろじぇくと

第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった

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AE(アナザー・エピソード)その成果を出したことを彼は知らなかった

 荒い息を吐きながら前を向くと、ローアさんが討ち漏らした二匹目が私に向って来るところだった。
 生物を殺した感触はなかった。アルセソードというこの武器に感謝だろう。
 それでも吐き気がせり上がる。

 吐くことだって後からでいい。後悔は今は必要ない。
 せり上がる吐き気を飲み込む。足元が水分で重いがそれでも足を踏みしめる。
 ただ、私の背中で怯える大切な者の元に、恐怖を届けない。それだけを、今はっ。

「う、あああああああああああああっ」

 迫り来るフォレストウルフに一歩を踏み出し切りつける。
 さらに一匹、追加でやって来た敵を断つ。
 行かせない。絶対に行かせるものか。私の先は抜かせない。

 またローアさんの脇を一匹抜けた。
 私を狙い襲って来る。ここを突破して娘を喰らう、そう目が言っていた。
 絶対に通す訳にはいかない。
 斬り伏せる。斬り伏せる。斬り伏せる。

 何度振るっただろう? 剣が重い。腕が重い。身体が重い。辛い、休みたい。このまま前に倒れられたらどんなに楽だろう?
 でも、背中に感じる気配が、私を楽にさせてくれない。
 彼女を守る。守り切る。そう思うだけで、まだ動く。

「嘘っ、ワーグウルフっ!?」

 チグサさんが討ち漏らした敵が私に向って来た。
 狼の顔を持つ二足歩行の人みたいな存在だ。
 やはり恐怖は変わらない。逃げ出したくてたまらない。
 血液が通ってないのか腕の感覚は既にない。
 歯ぐきが噛みあわず不気味な音を立て続けている。

「グオォッ」

 それでも。背後に家族がいるのならっ。
 私は絶対に、敵を抜かせるわけにはいかんのだ。

「私の家族にぃぃ手をだすなぁァァァァッ!」

 迫り来た爪を腕ごと切り裂く。
 剣に振り回されながらも地面をしっかと踏みしめ、身体を止める。
 返す刀で袈裟掛けに切り裂いた。
 ワーグウルフの絶叫が轟く。
 さらに一太刀。断末魔の悲鳴と共にワーグウルフは二つに分かれた。
 敵は!? 他の敵は?
 不意に、肩に手が置かれた。

「敵はもう、見当たりません。大切な人は守りきれました。貴方の、勝利です」

 ……え?
 はっとした。思わず後ろを見れば、リエラさんがいる。
 背中の服を引っ張られる。下を見れば、笑顔の少女。
 お父さん、ありがとう。そう言われた気がした。
 だが、気付けばそこに居るのは娘ではなくアルセちゃん。
 ああ、そうだった。私が守ろうとしたのは幻想の娘。思わず本当に娘が後ろに居ると思ってしまった。

 私は、上手くやれたのだろうか? 漏らしてしまったし、きっと凄く恰好悪い戦いだったと思う。
 それでも、それでも生き残って、アルセちゃんの笑顔を守り通せた。自分でも、少しは戦えたのかも……

「なんだよおっさん! すげーじゃんっ!」

「え?」

 コータくんの声が掛けられ、私は再び前を向く。
 その瞬間、私の目の前には、無数の死体が現れた。
 ワーグウルフ一体、フォレストウルフ12体。
 ……え? こんなに?

「いやー、大切な人を守るためなら行けるんじゃないかって思ったんだけど、これは凄いわね。わざわざエロバグに横付いて貰う必要なかったわ」

 アカネさんの言葉で確かにこれを自分がやったのだと理解する。
 あ、ダメだ。
 気付いた瞬間、震えが襲って来た。
 全身を恐怖が包み込み、立っていられなくなって無様に尻から倒れる。
 後ろに居たアルセちゃんは即座に退避していた。空飛んでる気がするのは気のせいだろうか?

 次いでせり上がる吐き気。リエラさんがもう吐いても大丈夫です。と言って来たので、横に身体を傾け本当に吐き散らす。
 ああ、我ながら酷い姿だ。折角着替えとして貰った衣装や防具まで台無しにしてしまっている。

「ちょ、おっさん!?」

「ひゃー、すっごい状態……さっきまでカッコ良かったのに」

「あらあら」

 驚くコータくんにテッテちゃん。もう一人はアマンダさんだろうか? 女性に見せられる姿ではないのでできれば見ないで頂きたいモノだ。
 うぅ、全身が重い……
 口の中も気持ち悪いし、こんな姿を晒してまで、私は……え?

 ふと顔を上げれば、リエラさんが銃を構えていた。
 銃口は私に向けられている。
 どうして? 疑問を感じる私の目の前で、無言で引き金を引くリエラさん。
 待ってくれ。私は、確かにこんなに無様な姿を晒しているが、まだ家族を守れて居ないんだ。リエラさん、お願いだ、私にチャンスを……

 しかし、私の願いは叶えられなかった。
 無慈悲にリエラさんが銃弾を打ち放つ。
 それは至近距離にあった私の眉間を打ち抜き、私は……私は……全身の痛みが無くなっていた。

「え? あれ? 今のは? 私は打ち殺されたのでは?」

「何言ってるんですか? 回復魔弾で死ぬ訳ないじゃないですか?」

「いや、リエラ。異世界には銃って言って魔弾じゃなく鉄の塊打ち込む武器があるのよ。死ぬわよ普通に」

 あ、回復……魔弾? はは。なんだ。リエラさんは私を殺そうとしたんじゃなく私を回復してくれただけか。はは。なんだ。そうか。
 あー。心臓が止まるかと思った。はは、ははははははっ。
 ……ちょっと、大きい方を漏らしたのは秘密だ。
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