監獄縦書き表示RDF


推理にするかホラーにするかコメディにするか、最後まで迷いました。
そういう感じの短編です。
監獄
作:ハシルケンシロウ


目の前に女。

刃物を持っている。

それは、俺の首めがけて振り下ろされる。

痛み。

自分の血しぶきというものを初めて見た。

体から秒刻みで力が抜けていくのが解る。

霞みゆく視界が最期に捉えたものは……、

俺の血で紅く染まったデスクトップのPC一式だった……。






……、……、……、筈なんだが……?


なんだか、まだ意識は有るらしい。
個人的には頸動脈切断による出血性ショックで即死したと思ってたんだが????

状況はよく解らないが、とにかく狭い。
そして、暗い。

何処かに拉致されているのだろうか。
鬱蒼と木木が生い茂る樹海の中、或いは、この木なんの木気になる木〜の下の木洩れ日の様な、申し訳程度の明かりは洩れている。

《狭ぇよ!
暗ぇよ!
こっから出てぇよ!
っていうか、閉じ込めた奴、出しに来いよ!》

監禁場所の様子を探ろうにも、目視可能な範囲が狭く、目による認識は難しそうだ。
やむなく直感と耳により認識することに決める。

耳を澄ますと、まずは人々の喧騒。

なんだ?
こんなに大勢人が居るのに誰も俺に気が付かないのか?

《馬鹿な……》

不吉な思考が脳裏をよぎる。

俺は死んだ。
霊体となった俺は、余りのショックに視力を失ったままあの世へ……

《んなあほな……》

その読みはたちどころに完全否定される。
空間自体が狭いことは確かだし、俺はしっかりと認識しているのだ。
この空間にも《明かりが射している》ことをこの《目》で。

生死は別としても、俺の視力は正常だ。
それにもしここが【あの世の入口】とやらなら、こんな人だかりができているのは、明らかに閻魔大王の職務怠慢である。
更に言うなら、天国か地獄かの運命の分かれ道であろうこの場所が、これほど和気あいあいとしている訳がない。
言ってみれば、自己の存亡をかけた修羅場なのだから。

俺が今すぐにすべきこと、それは、ここがどこなのかを特定し、ここから出る方法を見つけること。
このふたつに尽きる。
少しでもヒントを得ようと、聞耳を立てる。

「わぁー、なにこれ、マジ安くない!?」


《なんだ、なんだ、なんだぁ〜〜!?!?》

突然の闖入者に、心の底から驚いた。
だが、その言葉は間違い無く、俺に向けて発せられていた。

《失礼なネエチャンだな……。
俺に値札は付いてね……》

言い終わる刹那だった。
震度100、マグニチュード10000レベルの(そんな数値は無いが)縦揺れと横揺れが一緒くたになって襲って来たのは!

《えべべべべべべしぃ!?!?!?》

一体なんなんだ。
まるで北斗神拳を喰らったモヒカン野郎みたいなこと言っちまったぞ?
……、大震災が収まる。
そして先刻の若い女性の声。

「すいませーん!
これ下さーい!」


《だから俺に値札はねえって……》

「19800円になります」


《!!!!!!!!!
いちまんきゅうせんはっぴゃくえん!?
なに、俺ってそんなに安っぽいの……!?》

決してそれは俺に付けられた値段ではないと信じたかったが……、ショックだった。






《それにしたってイチキュッパばばばばばびぴびばばばば!?!?》

今、この空間は、予震の真っ最中だ。
或いはこれが本震なのかもしれない。
そこには、相変わらず
《びばばぶばぶばぱばばばぴびび!!!》
と、経絡秘孔を突かれ、破裂寸前になっているかのような俺が居る。
それと同時に、この狭い空間の中でこれほど激しく揺れているにも関わらず、全く痛みを感じていない俺も居た。


《ぼぼばぴびびぃぼぼ?
ばぱぶべべぺぼぺぱばびぱぶぷべへぶば?》

まだ地震は収まらない。
当然俺も破裂寸前なままだ。
ケンシロウのうろたえる顔が目に見える。
どうやら聖帝サウザー並に俺には北斗神拳がきかないらしい。
……、戯れ言はさておき、結論は一つしかなさそうだ。
俺は……、死んだ。
そして、どうやら《19800円》のなんがしかに取り憑いてしまっているようだ。監禁(?)場所が若い女性の家に引き取られていく。
ほぼ視界の利かない世界で若い女性と同じ屋根の下……。
盗聴し放題。
それはそれで良いような気がした……。






「さぁて、レポート上げますかぁ」

女性は帰るなり宿題を始める。

カタカタカタ……、
カタカタカタ……。

近くにキーを叩く音が聞こえる。
かなり近くだ。
ほぼ間違い無く俺の監獄は周辺機器のようだ。
本体ではない。
狭すぎる。
そして、暗すぎる。

キーではない。
遠すぎる。

そして、マウスも却下だ。
明るすぎる。

残るは……。

《ドライブかプリンターだな》

「さぁて、上げるかぁ!」

ギシギシと椅子を軋ませながら女性が言う。

さっきから上げてなかったか?

突然明かりの一部が消え失せた。
それと同時に監獄内に侵入者が!

それは、厚さコンマ5ミリ程のツルツルした軟らかい物の束。
《紙だ!
プリンターだったんだ!》

ようやく監獄の種類は特定できた。
あとは脱獄を果たすのみだ。

……、と、突然紙が激流となって襲い掛ってきた。
空間も慌ただしく動き始める。

《うわあー!!
洪水だぁ!!
助けてくれぇ!!!》

おそらくはただ単に、レポートをプリントアウトしているだけなのだろうが、俺にとっては天地が引っくり返る程の天変地異だ。
いま、必死になって何かの部品にしがみついてるぞ?

だが、ちょっと考えてみた。
入ってきた紙に機械内で印字したものを外に出す。
そう、紙を《外から入れて》印字したものを《外に出す》のだ。

《これって流れに身を任せれば、ここから出れるんじゃねえのか!?》

そうなのだ。日本の川は大海原に流れているのだ。



俺は紙(神)の川に全てを託した。






門倉麻里愛かどくら まりあは大学一年生だ。
心理学部で犯罪心理学をアイドルタレントを本業としながら学んでいる。

今回のレポートは、三日前に佐野勇気さの ゆうきという男性が首を切られて殺害された事件のプロファイリングだった。

レポートを仕上げ、買ったばかりのプリンターでプリントアウトする。

微妙に赤黒い染みが付いているところは気になるが、とにかく、性能の割に安かったのだ。
安い商品は貧乏学生の味方なのだ。

ウィーン……、ウイーン……。

レポートがプリントアウトされた紙が機械から吐き出される。

最後の一枚が出てきた。

だが………………。


プリンターは止まらない。

《?
何なの?》

プリンターは事前のセットを無視して新たな印刷物を吐き出す。
それには、血にまみれた右手がプリントされていた……。

「ぃいやぁあぁあ!!!」

麻里愛はうろたえた。
悪魔のプリンターはなおも紙を吐き出す。

ジジジジ、ウィーン、ウイーン。

新たなる悪夢。

そこには左手。

ウイーンウイーンウイーンウイーン……。

「た……、
たすけて、たすけて、祟られる!
殺されるぅ!!!」

彼女の悲鳴は、アパートを借りる際、不動産屋がアピールしていた完全防音に掻き消された。

「ひぃぃいぃえあぁぁあ!!!!」

最早発狂寸前まで追い込まれていた。






《なんだ、なに泣き喚いてんだ?
俺、そんな怖ぇ出かたしてるのか?》

折角出れるのに電源を切られたら堪らない。
下手すると壊される可能性もある。

《冗談じゃねえぞ》

何とか阻止する手はないか?






麻里愛はただ見つめるだけだった。

「ぁぁぁぁぁぁぁ……」

声も出ない。
だが、彼女の中の何かが、それを全て出させてはいけないと訴えかけている。

『壊す!!』

走った。
時折もつれ、時折転びながら。
そして、左手にハンマー。

『叩き壊してやる』

麻里愛は勇気を振り絞って悪魔を吐き出すプリンターを見据える。
そこには、プリントアウトされた紙が三枚増えていた。
見たくもなかったが、見えてしまった表側。
そこには血文字の様な柄で、こう書かれてある。

《僕は佐野勇気と言いますm(_ _)m
どういう経緯からかは解りかねますが、コノプリンターに閉じ込められてしまったようです(ToT)僕、ずっとこんなとこ居るの嫌なんです(┳◇┳)
ただ、出たいだけなんです(ToT)
約束します!
あなた、いや、他の誰にもなにもしません!
絶対に約束します!
だから、どうか電源を切らないで下さいm(_ _)m
プリンターを壊さないで下さいm(_ _)m
助けてくれれば、僕はあなたにこの身を捧げます!
だからお願いしますm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)m》

顔文字まで駆使して必死に彼女の恐怖心を和らげようとする努力が伺える文面だった。

くすくす……。

幽霊らしからぬ行いに思わず笑ってしまった。
血で書かれた顔文字。
これもまた、不気味ではあったが笑えた。
そして麻里愛獄長は、勇気の脱獄を見逃す覚悟をきめる。






「あっ、どうも。
佐野勇気さの ゆうきっす。
出してくれてありがとうございます。
いや、ホント助かりました。プリンターの中ときたら狭いの暗いの……」
「あの、あたし門倉麻里愛」

長くなりそうだったため、割って自己紹介する。

「約束通り、私のために働いてもらうわね」

勇気はあんな約束しなきゃ良かったと、今更後悔した。


酷評、辛評、随時受付中です。

皆さん、このド素人を鍛えてやって下さいm(_ _)m













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