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奇妙な電話から一夜明け……
どうする?〜意外と近くの犯罪者〜
作:曲幸



I部 2「臆病+被害妄想=」



                           ―――I部 2「臆病+被害妄想=」

 「明日ノ午後1時ニ、一十七銀行T支店ヘ行ケ」

 「オモシロイモノガ見レルゾ。必ズ行ケ。間違エルナヨ」




 臆病という性質はどうやらその人に常につきまとう背後霊のようなものらしい。昨日から頭の中にずっと居座っている機械の声が僕を支配していた。
 別に脅されたわけでもなく、騙されたわけでもない。今日の午後1時に銀行へ行け、という命令だけだ。面白いものが見れるらしい。が、そんなことを面白くない声で言われても説得力はなかった。
 ラーメンの器を両手で持ち、スープを飲む。飲み終わるとドン、とテーブルに叩きつけた。周りの視線が一瞬僕にそそがれ、また元に戻った。
 「黒木、お前がレンゲ使わないでスープ飲むなんて珍しい」 高原がまじまじと見つめる。「もっと言えば芹沢以外の講義でお前が寝ないで起きてるのも珍しい」
 「あぁ」 と僕はつまらない返事を返す。今日学校に行くかどうか正直迷ったが、結局は行くことにした。普段どおりの生活をしようと決心し、普段どおりに講義を受けようと思った。無論睡眠学習でだ。しかし、できなかった。あの機械の気味悪い声が僕の脳内で眠気を邪魔していた。同時に僕の集中力も妨害していた。寝ることもできず、講義も聞き流す。労働はしないが、休みも取らない。公園に嘘出勤するサラリーマンと似ていた。それでも昼の食堂で昼飯は食べる。
 「そういえば、昨日のお姉さんの話だけどよ」
 「金貸しが人殺ししたり、脅したりしてるって話?」 僕はやけくそに言った。「それがどうしたの」
 「人殺しはいいとして、脅しは怖いなって思ってよ」
 「人殺しのほうが怖いと思うけど」 どう考えてもそうにしか思えない。
 「犯罪の手伝いさせられる、っても言ってたな」
 「あんなのどこまで本当かわからないって」
 「本当にお前はお姉さんのこと信用してねえな」 高原がラーメンをすすった。「一応元は刑事だったんだろ」
 「名前だけだよ、そんなの。1年ちょっとしか続かなかったし」
 「1年やってんじゃんか」
 「やったうちに入らないって」
 「何年やったら、やったうちに入るんだよ」 高原が笑いながら言った。
 「1ヶ月くらいかな」 適当に答える。
 「アルバイトじゃねえんだからよ」 しかも短くなってんじゃねえか、と高原が突っ込む。
 「本人はバイト気分でやってたんじゃないかな」
 「立派だな。刑事をバイト気分でこなせる、その精神力に俺は尊敬する」
 「『刑事失格』 なんていう本が書けたりして」 刑事はバイト気分でやってはいけない、なんて警句でも載るのだろうか。警句にするにしても、あまりに幼稚だ。幼稚園児でも理解できそうだ。
 「でもよ、俺らはこんなにいろいろ好き放題言ってるけど、案外凄い人だったりしてな」
 確かに姉の刑事時代の活躍は本人の話でしか聞いたことがないので何とも言えない。しかし、だからといって凄い人って……それはないだろう。ちょっとだけ変装が得意な、普通の女刑事だ。そうに決まってる。
 「知ってるつもりは知らないつもり」 高原が静かに呟いた。




                       *****




 「話変わるけどさ、今日銀行で何かあるのかな」 電話のことを話すのも気が引けたので、こう聞いてみる。
 高原が考え込んだ。 「さぁ。何かあるのか?」
 「あ、いや、多分何もないよ」 何も知らないようなので、そう勝手に決め付けた。
 「多分ってことはお前もわかってないんだろ。いいか、知ってるつもりは」
 「知らないつもり」 高原の代わりに言った。「というか僕が知らないから質問したんだけど」
 「はじめからそう言えばいいのによ」 高原がおちょくる。
 「質問って知らないからするものじゃないの?」
 「自分の不安を掻き消すためにもするんじゃねえか」
 高原のこの答えはまさに今の僕を言っているようで、少しドキッとした。
 二人とも昼の食堂を後にした。腕時計を見る。あと40分で1時だ。



 「掲示板見に行こうぜ」 食堂を出た後、高原が言った。僕はうなずく。学校の掲示板には休講情報や緊急連絡などが張り出されていて、それらを見逃さないようにちょくちょく見なくてはならない。
 掲示板に行く途中、僕はこれからのことを考えた。1時に銀行へ行くか否か。答えはNOだ。行かない。なぜなら、胡散臭いから。なぜなら、面倒臭いから。なぜなら、これから1時またぎの芹沢教授の講義があるから。これらの理由が銀行に行かないことの言い訳になってくれるだろうか。あの電話の主は納得してくれるだろうか。
 掲示板まで来た。ガラスのショーケースのようなものの中に画鋲で連絡のプリントが貼られている簡素なものだ。
 僕と高原は真っ先に休講情報の掲示板へ向かう。そこにはいつも誰先生、何コマ目休講というプリントが数え切れないほど貼られている。よくこんなんで学校が成り立っているな、と思わずにはいられない。
 ぼんやりと眺めていると、自分の目に見慣れた名前が映った。最初は見間違いかと思った。しかし、見間違いだと感じたときは大抵が見間違いではないことにすぐに気づいた。




           芹沢孝明 12:40〜17:30 休講




 「休講になってるな」 高原がショーケースを指差す。
 目をこすり、もう一度見る。変わりはなかった。おそらく、学生である僕の立場から見ると、これは喜ぶべきことなのだろう。しかし、今は素直に喜べない。何だ、これは。これは一体誰の陰謀なんだ?





                 *****





 置き時計を見る。12時40分。掲示板を見た後、僕はふわふわとした感覚でいつの間にか自分のアパートの部屋に戻ってきていた。高原にも結局昨日の電話のことは話さず、銀行に行くか否かの論争も振り出しに戻っていた。
 銀行に行った場合のことを想像してみた。自転車に乗る。10分くらいで着くだろう。駐輪場に置く。中に入る。入る前に何か起こる可能性もあるが、とりあえず入っておく。することもないので多分、椅子にでも座るのだろう。そこで何か面白いことが起こる。かもしれない。その後自転車にまたがる。アパートの駐輪場に置く。部屋に戻る。寝る。
 銀行に行かなかった場合を想像してみる。とりあえず寝る。1時を過ぎる。寝る。携帯に電話が来る。 「テメエ何デ行カナカッタ」
 「大学の講義があったんです」 おそらく嘘をつくだろう。
 「モウイイ、オマエニ用ハナイ」 ブツっと電話が切れる。次の瞬間、部屋のドアが壊され、男が侵入してくる。おびえる僕に拳銃を向ける。弾が発射。僕の人生終了。
 ブルブルッと僕は身震いをする。被害妄想も特技だということをすっかり忘れていた。これ以上変なことを想像したらその恐怖だけで死んでしまうかもしれない。
 何気なく目を逸らすような感じで本棚を見ると一冊の本が目に止まった。タイトルだけを見れば、今の僕にピッタリだ。まるでこの時の為に今まで息を潜めていたような、そんな地味なタイトルだった。
 時計を見る。まだ時間があることを確認すると、本棚に手を伸ばした。


初めましてが遅れましてすみません。曲幸です。「きょっこう」 ではありません。「まがりみゆき」 でもありません。読み方は作者紹介ページをご参照ください。訳のわからん話、文章ですが、何卒よろしくお願いします。











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