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ラズベリードラゴン
作:風海南都



「ピノコ男前」


 学校でボーっとしてた。ゆうべあんまり眠れなくて、午後の授業は居眠り。
 なんだかなあ。もう……。
 学校が終わったら龍ちゃんのプレゼントを買いに行こうと思ってたんだけど……どうしようか。でも青龍軒のバイトももうすぐ終わりだから、お疲れさんってことも含みでやっぱり用意しよう。
 シルバーアクセサリのショップでストラップを買う。キューブ型のパーツに色つきの石を入れて好きなように組んでもらうんだけど「BLUEDRAGON」って組んでもらった。8000円也。
 携帯電話が鳴る。

「あ、ベリちゃん? 私。あのね今日お店出られないかしら? 瑞樹のとこの子供が熱出しちゃって。七海は用事があってだめだし……」
 少し迷ったけどOKした。瑞樹さんは27歳で小学生の子の母でかっこいい。

「わっかりましたあ」
 龍ちゃんは月曜はバイトがないはずだから、メールしようかと思ったけどやめた。なんて言っていいかわからないから。
 用意したプレゼントだけはバックに忍ばせてバイト先に向かう。ここんとこおっちゃんとはすれ違いばかりだ。忙しいからなんだけど、仕事が面白くて仕方ない感じがよくわかる。

 お店に入ると、ママとバイトの由美さんと舞さんがいた。あたしと七海以外は皆先輩。ここはいい人ばかりで働きやすかった。ママの人柄かなあ。月曜日だけど忙しかった。

「こんばんわ〜。さっそく来ました」

 呉服屋の櫻井さんと花屋の紺野さん、そして西田さんの三人で来た。カウンターに座ったからあたしが付くことになった。

「こんばんわ。なんにします?」
 あたしはチャームを出しながら聞いた。

「ベリちゃんが来てくれたからボトル入れよう。なんにしようかな、じゃあ響で」
 櫻井さんがボトルをいれてくれた。

「はあい、アリガトウございます」

「もうさ、こいつがベリちゃん、ベリちゃんってうるさくってさ」
 西田さんがぶうぶう言ってる。

「西田さん、ごめんなさいね。ママじゃなくってチビべりで」
 あたしの軽いジャブに、紺野さんと櫻井さんがケラケラ笑った。

「俺とこいつは同級生で腐れ縁なの。こいつホント女好きだから気をつけてね」
 紺野さんが櫻井さんをどつきながら言う。
 二人は29歳で同級生なんだって。四人で野球大会の話で盛り上がって、あたしのガーゼ頭を気の毒そうに見つつも、酒のつまみにされていた。

「龍ちゃんに電話しようぜ」紺野さんが言う。ちょっとドキッとした。

「今日誕生日なんだろ?そんなの彼女と一緒でお邪魔じゃないの?」
 櫻井さんの言葉にますますドキドキした。いいから電話しろしろって西田親分に言われて紺野さんが電話をかける。

 龍ちゃんと話してるみたい。なんだか、ソワソワしちゃうな。

「来るってさあ」

「マジで? 意外に寂しいやつだなあ」
 あたしはなんだか落ち着かない。
 顔を見たいような、そうでないような……ええい、もうなるようになれだ。水割りをクイってあおった。なんだか時計ばっかり気になるなあ。

 ドアが開いた。あたしは咄嗟に顔を合わせないように、後ろを向いてしまった。なんで?!

「おお〜っ、来た来た。龍ちゃん待ってたぜ」
 三人の声がする。

「お邪魔しマース」

 ん? その声は……。

「あらら、どうしたの七海ちゃんまで……おおっ! さては二人……」
 あたしは急いで振り向いた。

「そんなんとちがいますよ」

 龍ちゃんがなんか言ってる。
 それよりもなんで七海がここにいるの? 二人で何してたの?

「いや、偶然ですわ」

 いつもの調子で言ってるけど明らかに七海は龍ちゃんにアピールしている! なんでそんなすごい胸強調した服着てんの! もともと七海はグラマラスな体型で、Fカップの胸がご自慢で……。商店街三人組もさすがに釘付け。

「なんかいつもよりセクシーだね、七ちゃん」

 西田プーの言葉に気をよくしたのか七海はやだーを連発。なんなの? も〜……って七海が悪いわけじゃないんだけど……。
 じゃあ皆でってことになって奥のボックス席に移った。
 七海は龍ちゃんにべったり。櫻井さんと紺野さんの間に座るあたし。

 西田さんはしばらくすると「じゃあ、あとはお若い皆さんで」とそそくさとカウンターのママのもとへ。わかり易すぎる。

 とにかくあたしは水割りをカパカパ飲んでしまう。櫻井さんが、おお、いい飲みっぷりだね〜と喜んでいる。
 全く顔とノリだけはいい男だよ、妻子持ちの櫻井さん。さすがに龍ちゃんが心配そうに見てる。
 七海が龍ちゃんを質問攻め&ボディタッチ攻撃。

 ついに七海は「龍君はあ、彼女いるの?」と爆弾を投下した。

 あわわ、核心をついてきた。聞くに聞けない、こ、ことを!

「おお〜どうなんだあ?」

 商店街組も身を乗り出す。
 あたしは何気ない素振りだけど耳はものすごくダンボに……さらに緊張感を加えて、意識を集中していたと思う。

「そんなん、どうでもいいやないですか」
 龍ちゃんは目をふせてグラスを口につけながらボソボソ言う。

「よくなあい。教えてっ!」
 七海が食い下がる。本当にあんたって奴は。

「ええーと……いてます。もう勘弁してください」
 ポソっと言った。

 えええええ〜七海ショック〜とか言いながらも龍ちゃんのそばはしっかりキープ。あたしも何気にショック。昨日の今日でそれはないだろ、あんた。もう、さらに水割りを流し込み、櫻井さんを喜ばせてしまった。もう飲んでやるう〜!

「ああ〜もうやめとき。タンコブ大きくなりますよ」

 龍ちゃんがあたしのグラスを取ろうとする。
 うっさいわ、ボケエ。今日は飲むんじゃ。お前のせいじゃボケ。危なく声にでそうだったけど辛うじて理性ちゃんが働いてくれた。 

「ピヨピヨピヨ〜ンタララン♪」

 櫻井さんの電話が鳴った。お子様向けアニメの主題歌が少しまぬけ。
 なんか急に、ハイハイと気をつけの姿勢で話してる。奥さんからみたい。かなり尻にしかれてる。姉さん女房なんだって紺野さんが耳打ちしてくる。
 時計をみると0時だった。お会計をしてあたしもあがることに。西田さんはまだ飲んでるんだって。
 皆で外に出てとにかく櫻井さんはあわてて走り去った。一体どんな会話がかわされたんだろう。七海が龍ちゃんに送ってくれませんか? って聞いてきた。

「ボク、ベリちゃんとちょっと約束あんの。ごめんね」

 だって! いつ約束したんだあ?

 紺野さんが僕が送ってやるよと言ってるのに耳も貸さない七海。

「それって、あやしくない? ベリちゃんは結婚の約束してるセレブな彼氏もいるのに……」

 急に声を荒げて、あきらかにライバル心をむき出しにしてる。

「ベリちゃん、そうだよねえ!」

 七海のダメ押しの言葉が胸に突き刺さる。ドーンッ! ブスッて感じ。

 あたしは七海に返事をせずに、おやすみなさいって頭をさげて、ポテポテと歩き出す。
 あ〜メンドクサイ。七海ウルサイ、マジウザイ。韻を踏んでるからラップになりそうだわ。酔っ払ってるんだからほっといてくれ。バカ女。
 紺野さんに無理矢理引っ張られて七海は帰って行った。

 龍ちゃんは追いかけて来て今日こそは蕎麦や! とか言ってあたしを誘導してる。はあ。酔っ払ったまんま蕎麦屋へ連行された。ざる蕎麦を二人分注文した。

「七海いいの? ほっといて」
 あたしはビールを飲みながら聞いてみた。

「ボク、あの子ようわからんからええわ」
 シレっとしてる。

「なんで、一緒だったの?」
 だらーんと頬杖つきながら……かなりお行儀の悪いあたし。

「なんか、ティアラに行く途中、青龍軒の前にいたんよ」
 ははあ、待ってたわけだ。龍ちゃんのシフト知らなかったんだな。

「ふーん、メールとかしてないの?」

「名刺もらったけどしてないよ。ああ、だからボクの連絡先わからんかったんやな」

 あんたはアホか。それはおかしいだろ。天然なのか計算なのかわかんない。
 二人でざる蕎麦をずるずる食べる。ずるずる向かい合って……なんなのかな。

「頭にボールぶつけてごめんやで。ボク昨日謝ったと思うけど酔っ払ってどやって帰ったか覚えてないんや。だからもっぺん言っとくわ。ごめん」

 ええ〜っ? てことは昨日のことは覚えてないってことなんだ……。
 なんなんだよボケエ! あたしはほっとしたような残念なような複雑な気持ちだった。でもなんか少し腹が立つ。
 ほっぺたを膨らましてぷうぷう文句を言う。女の子の頭にボールをぶつけるなんて……とブツブツ言う。ほんとはそっちで怒ってるんじゃないんだけどさあ。

「そうやってふくれてるとピノコそっくりやわ」
 はあ? ピノコって誰それ?

「漫画に出てくる女の子やで。幼稚園くらいの……」
 くう……ムカつくう〜。

 まあとにかく昨日の事は忘れてるってことだな。食べ終わって外に出る。あたしの家の方向へ向かって歩く。月がでてる。

「彼女ってどんな人?」
 聞いてみた。

「ああ、あれか。嘘や。おらんわ」
 へーそうなんだ。

「ああ言っとくほうがええような気がして」
 うん、なんかわかる。よし七海のFカップは眼中にないんだな。それでこそ龍ちゃん。

「はい、これ。プレゼント」
 あたしは小さい包みを渡す。

「ええ、ありがとう。ほほ〜おしゃれさんなストラップやな。ボクにはもったいない」
 龍ちゃんは笑いながらさっそくつけてくれた。

「これ、高そうやな……べりちゃんは誕生日いつ?」

「あたしは早生まれ。1月17日」

「へえ! へえ……そうなんや」
 なんか考えてる顔してる。どうかした? って聞いた。

「ううん、何お返ししたらええかなあって」

「へえ〜、楽しみにしてるね」

「そいえば、試合に勝ったらチューしてくれるんやなかったっけ?」
 悪戯っ子のように笑いながら覗き込む。
 ……ほんとにマジで言ってるの? 天然? 計算? 勘弁して欲しい。

「却下」
 あたしはそれだけ言ってマンションに向かって行く。

「やっぱり! ……残念やなあ」
 どこまでが本気なのかわかんない。またムカついてきた。

 あたしはツカツカと龍ちゃんの前に行き、思いっきり背伸びしてホッペにブッチューとしてやった。どうだといわんばかりに。このヤロ。

「約束は果たした。じゃ、おやすみ」
 そういい残して酔っ払い星人のあたしは去る。

「ベリちゃん、男前やな」
 わけわかんないことをつぶやく人を残して。
 ぽっかりと浮かんだ月が笑ってる。







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