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ラズベリードラゴン
作:風海南都



「婚約祝」


 年末年始、とにかく働きまくった。
 お金をためておかないとインターンが始まってからが大変だし、あんまり親には頼りたくない。年末は毎日ティアラに出勤したし、冬休みに入ってからは昼もバイトした。
 31日〜4日までは、神社でバイト。これが殺人的に忙しかった。初詣での混雑は半端じゃない。人の波でうなされそうな新年の幕開けだった。
 神社のバイトを理由に実家には帰らなかった。ママ、ごめんね。

 龍ちゃんとは相変わらずメールのやりとりだけ。
 でも腹巻を見せながらVサインをした写メを送ってきてくれた。
 もちろんあたしの待ちうけ画像。
 龍ちゃんは年末年始も返上で仕事してるみたい。工期が間に合わないとか書いてたな。
 もう少し、あと一ヶ月はきったもん。もうすぐ会える。
 本当はあたしの誕生日には一緒にいてほしかったんだけどな。
 わがままは言えないし、仕事だからしょうがないよね。
 
 学校も始ったし、ティアラのバイトも始ってまたいつもの日常に戻った。
 今日はお店で七海と紺野さんの婚約おめでとうパーティーをすることになってる。
 七海はお花屋さんの奥さんになることを決めた。
 そのことがなんだかとっても嬉しい。七海と紺野さんが幸せそうなのが嬉しい。
 
 お店につくとママと瑞樹さんが準備していた。
 今日は由美さんと舞さんも早く来て皆で御祝をする予定。
 7時半ころ、西田さんや櫻井さんの先発隊が4,5人到着。
 8時になると商店街の皆が揃い始め、にぎやかになってきた。 
 30人も入れば満杯。
 今日の幹事は同級生の櫻井さん。

「では、紺野隆文と木下七海さんの婚約を祝して、くっそーこんな若くて可愛い子を!」

 櫻井さんの一言に皆がどっと沸く。

「おめでとう! 乾杯!」

 皆が口々におめでとうを言い、乾杯して拍手がおきる。
 紺野さんは気遣うように七海を見つめていて、七海は恥ずかしそうだったけど嬉しそう。
 にぎやかな恒例の宴会が始った。
 あたしたちも大忙し。ボックスに座れない人はカウンターに座ってる。
 皆は二人をからかったり、冷やかしたりしてたけど、嬉しそうな顔ばかり。
 なんかいいなあ……あたしはふっと浸ってしまった。
 この皆が喜んでるかけがえのない時間は一瞬かもしれないけど、心に残る大切な時間なんだなあって思う。ちょっと胸が熱くなる。そして龍ちゃんがこの場所にいないことが少し寂しくなる。
 あたしはなんとなくせつない気持ちで皆を見てた。一瞬の時間がこぼれていくのを見てた。
 ママや瑞樹さんが皆の間にはいり、絶妙なコンビネーションでお客さんの動きを見てるし、由美さんや舞さんもタイミングをあわせて皆を盛り上げている。
 櫻井さんや西田さんも今日は幹事だから、紺野さんのためにさりげなく気を遣ってる。
 なんだかいい人たちの集まりだなあってしみじみ感じる。
 皆それぞれ毎日が大変で、悩みもあって、苦しかったりしてるけど支えあっているのがわかる。いいなあ、こういうの。その中にあたしも入れてもらってるんだなあ。
 あたしもみんなのために自然に何かしたくなる。
 一人じゃないんだな。こんな風に思えるなんてあたしは変わったんだな。
 しばらくすると紺野さんがカウンターにきてあたしの前に座った。

「ベリちゃん、いろいろありがとう」

 にぎやかな声にかき消されそうだけどなんとか聞こえる。

「いいえ、あたしは特に何も……」

「俺、あの後神戸に行って龍ちゃんといろいろ話したんだ」

「そうですか、よかったですね。誤解もとけて」

 カラオケの音がうるさかったけど紺野さんは気にせず続けた。

「びっくりしてたよ。忙しいところに行って迷惑かけちゃったけど、いろいろ話せてよかったよ」
 紺野さんは落ち着いた笑顔で水割りを口にする。

「聞いたよ、べりちゃんの事いろいろ」

「え? やだなあ。そんなの知りませんよお」

 あたしは他の人の手前言葉を濁したけど、一体何を話したか気になる。

「ベリちゃんの誕生日に帰ってこれないのが残念だって」

「あはは、そんなこと言ってました? よーし、あとでなんか買ってもらおう」

 ウーロンハイを飲みながら笑ってみせた。

「ベリちゃんに話したいことがあるんだ。明日にでも時間ある?」
 
「はい、いいですよ。バイトの前か後になりますけど」

「学校何時まで?」

「5時頃半ころなら大丈夫です」

「じゃあ、こないだの喫茶店で待ってる」

 いったいなんの話なんだろう。あたしは皆の輪にもどっていく紺野さんを見ていた。
 七海のお腹を気遣って、そろそろお開きにしようと櫻井さんが言った。

「あたしは先に帰りますけど、紺野さんは皆とゆっくり飲んでください」

 七海の言葉を聞いて、あたしは七海の変わりぶりに驚いた。
 物凄い甘えん坊で、子供っぽい天然娘の七海とは違ってる。なんかお母さんの顔? だよね。
 タクシーを呼んで、先に帰っていった。結婚式は七海が出産してからすることにし、その前に入籍や引越しをするっていってたから忙しそう。でも幸せそうだけどね。
 それにやっぱり美咲ママってすごいな。七海も帰る前にママの前ではまた泣いてたし。
 ママが七海の背中を押してくれたんだと思う。
 あたしはパニクって訳がわからなかったもん。
 あんなふうになりたいなあ。 
 その日はみんなが遅くまで紺野さんを囲んで騒いでいた。
 龍ちゃんと紺野さん、何話してたんだろう。
 すごく気になる。明日、明日紺野さんの口から何を言われるんだろ……。

 アパートに帰って携帯でメールを打った。
 今日の宴会のことや、七海と紺野さんと野球チームでぎゅうぎゅうにくっついて写した写真を貼って送った。
 たぶん龍ちゃんも喜ぶだろう。
 ホッとしたら急に疲れて眠気が襲ってきた。明日の紺野さんの話が気になる……。
 早く明日が来ないかな……。

 いつのまにか携帯を握ったまま眠ってしまった。龍ちゃんのVサインの画面のまま……。


 次の日、約束の喫茶店に急ぐと紺野さんは先に来て待っていてくれた。

「すいません、待ちました?」

「ううん、今来たところ」

 紺野さんは相変わらずトボケた感じでメガネを押し上げていた。
 お花屋さんも今は一段落で時間をとりやすいんだとか。

「クリスマスに店をほっぽって神戸に行ったら親父とお袋、エライ剣幕だったよハハハ」
 
 のん気に笑ってる。大丈夫なのかな、若旦那……。

「龍ちゃんとあんなにいろいろ話したなんてはじめてだ。あんまり自分から話してこないし、自分の事も人に言わないしなあ」

 うん、そうかも。あたしもよく知らないな。ココアを注文してマフラーをはずす。
 今日の東京は気温が低くて風が強い。

「そんな龍ちゃんの事、ベリちゃんは好きなんだろ?」

「へ? あ? なんですか急に」

「七海から聞いたんだ」

 紺野さんは楽しそうに笑ってる。なんだか面と向かって言われると恥ずかしいなあ。

「龍ちゃん、ベリちゃんにすごく会いたがってた」

「ほ、ほんとですか?」

 思わず早口になっちゃう。ひゃあ……。

「僕は二人はイイと思うよ。そのお……なんていうか松岡先生よりもベリちゃんには龍次郎みたいなのが必要なんじゃないかなって思うよ」

 あたしは頷きながら紺野さんの話を聞いていた。ちょっと顔が赤くなりそうだった。

「龍ちゃんね……ああ、僕が話したってことは内緒にしてね。別に口が軽いわけじゃないんだけど、龍ちゃんってあの通り口が下手糞だろ? だからベリちゃんに肝心な事は伝えられないんだと思ってさ」

 全くその通りだと思った。龍ちゃんはブキッチョだ。あたしもだけど……。

「龍ちゃんって親が亡くなってるんだ。それから兄弟も」

「え?」

 あたしは驚いた。そんなこと一回も聞いたことがない。

「阪神淡路大震災でもろ震災に遭ってるんだよ、彼」

 あたしはよくわからなかった。そんなこと聞いたこともなかったしっていうか話題に上ったことが無かった。
 心臓がドキドキしてきた。

「1995年の1月17日。今からだと11年前だね」

 1月17日って……あたしの誕生日だ……。

 あたしは9歳だ。9歳になったその日……。
 その日にまだ中学生だった龍ちゃんに何があったんだろう……。

 紺野さんはゆっくり話し始めた。
 龍ちゃんから聞いたというあの日の話を。







**8月31日を持ってこの小説は削除になりますので、ご了承下さい。引き続きお読みくださる方、HPで御知らせしますので、そちらでご確認くださいませ** 風海南都のHP ◆◆風海堂◆◆






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