微かに吹く風 灯夜編縦書き表示RDF


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微かに吹く風 灯夜編
作:灯夜


「側に居れたなら。」

耳に入ってきた小さな声。
一瞬、周囲の雑音が消えた気がした。
鳥の羽音、辺りを包んでいた蝉の声も。
けれど言葉は、小川のせせらぎと微かに吹く風の中に流されていった。

(今の呟いたのは、真子?)

隣を歩く真子の様子を窺う。
その横顔からは、何も分からない。
彼女は僕の幼馴染、僕達は受験勉強の息抜きに神社の裏山に散歩に来ていた。
高三の夏、違う大学を志望する二人。
二人がここで過ごす時間は残り少ない。
僕は真子が好きだけど・・・。
告白しようとすると袖にされていた為か、さっきの一言が凄く気になる。
過敏になっているのかな、少しパニック。

「どうかした、啓?」

「・・・別にぃ。」

「あ、感じ悪いなあ。
何よ言いたい事は、はっきり言いなよ。」

「言って良いのか?」

少しだけ真子の表情が強張る。

「言いなよ。」

ザザザザザ

空を見上げる。
少しだけ強い風が木々のこずえを揺らし、夏の激しい日差しが降りてきた。
目が眩む。

(この風が吹き抜けたら。)

「思い出せば何時も一緒だったよな。
かっこ悪い所も知られてるけど、だからこそ真子の前では本当の自分で居られたと思う。
二人で過ごす時間が何より嬉しくて、そして気付いた。
好きだよ真子、もうずっと前から。
本気で好き、近くに居たいんだ誰よりも。
付き合ってくれないか?」

真っ直ぐな視線がぶつかる。

「・・・駄目だよ。」

揺ぎ無い瞳、きっと真子の心は決まってたんだろうな。

「そっか。」

「今は・・・まだ。」

「え?」

「ここに帰ってきたら同じ事を言ってよ。
側に居られないのにずっと想っていける自信、私には無いわよ。」

「今は携帯だって。」

「機械で何が伝わるの?
変わらない想い、揺ぎ無い想い。
私はそんなのを信じきれない。
ただ好きな人に側に居て欲しい。」

さっきの風でほつれた真子の髪に手を伸ばし、梳く。

「真子、君の想いは・・・。」

「好きよ、当然じゃない。」

そっと胸の中に引き寄せる。
抵抗は無かった、真子も抱き返してくれる。
真子の温もりに更に募ってゆく愛しさ。

背中に回されていた彼女の腕が解かれた。
だから僕も、ゆっくりと抱擁を解く。

「ずるいんだ、啓は。
雰囲気で押し切って抱きしめるんだから。」

「真子。」

彼女の指が、僕の唇に触れる。

「駄目、情けない事言わないの。
・・・ここで中途半端に付き合ったとして、綺麗に別れる事が出来る?」

「何で別れる事なんか、今話すのさ。」

真子は水面を見詰めると、しゃがみ込んで流れに指先を浸した。
波紋が僅かに、水底の風景を揺らす。

「違う環境に行くんだから、見ている物はいつか変わってゆくよ。
そして気まずく別れれば、それっきりになっちゃう。
本気だったら、いつかもう一度ここに戻って来て同じ事を言って。」

「お前に彼氏居たらどうすんだよ。」

真子は、くすりと笑って答える。

「どうしよっか?
私に貴方を好きな気持ちを見つけたら、さらって。
貴方に彼女が居たら、奪い取るから。」

「・・・何だかなあ。」

「良いじゃない、愛の逃避行なんて。
もう一度ここで出会って二人は恋をするの、きっとロマンチックよ。」

「はいはい。」

「気の無い返事するな。」

パシャッ

「うわ、水掛けるなよ。」

確かに、本気だから側に居られないのは余計に辛い。
だから、どうか二人が・・・。


それでも季節は過ぎ去り、時と共に思い出は色あせてゆく。
それからの僕にとって、あの夏の抱擁とそれを包んだ優しい微かな風の感触が二人の全てだった。
電話が嬉しかった、それでも減ってゆく共通の話題。
楽しかった日々、彼女の輪郭がぼやけてゆく。
帰省の時期が上手く合わない、告白した頃の僕は甘かった。
離れて過ごす日々は、こんなにもたくさんのモノを奪うなんて。
それでも忘れなかった・・・この日まで。
そう、大人になった二人がもう一度この場所で抱き合えるこの日まで。
想いが変わらずに側にあった。

「側に居れたなら、この感覚を信じてゆける。
いつまでも、貴方が好きなんだって。」

小川は微かな風を絶やさずにあり、その中で真子はあの日呟いた言葉の続きを囁いた。


いかがでしたでしょうか?
『グループ小説』に初参加ですのでドキドキしながら投稿しました。
コメントは今後の作品に生かしていきますので、よろしくお願いします。













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