幽霊なんてそうお目にかかるものでもない
まさか、幽霊が本当に出るのか?
俺は固まったまま見ていた。
棺桶の中は影になっていて、よく見えない。
ズズズと棺桶は縦方向に開く。
半分くらいまで開くと、中で何かが動いた。
中から何かが出てくる……。
一体何が……。
銀色の髪。
外国人の少女。
フリルの付いたドレスを着ている。
年は小学高学年ぐらいか。
それは上半身を起こした。
?「ふぁ~あ」
少女は大きなあくびをした。
幽霊はあくびをするものだろうか。
?「良く寝た~」
俺は、起こしてはいけないものを起こしてしまった……とでもいうのだろうか。
少女がこちらを向く。
?「そなたは新入りの使用人かえ?」
瞼を擦りながら話しかけてくる。
俺「は?」
?「そなた、名は?」
俺「俺は飛鳥井陸。君は?」
ミラ「そなたは使用人ではないのか。妾はミラ・フラナガン」
ミラは再びあくびをしながら、棺桶から出ようとする。
俺「あ、こけた」
ミラは棺桶に足をひっかけて倒れた。
ミ「いたぁ~い」
と言いながら立ち上がり、奥の方に歩き出す。
うん、幽霊じゃないな。
ミラは洗面台の前に立つ。
ミ「陸とやら、うちの使用人を見なかったかえ?」
俺「いや、誰も見なかったが」
ミラが蛇口を捻ると、汚い水が流れた。
しばらく水道を使っていなかったようだ。
綺麗な水になった後、ミラは口をすすぎ、顔を洗う。
ミラは埃っぽいタオルを手に取って、使おうか迷っている。
俺は鞄からタオルを取り出す。
俺「未使用だし使うか?」
ミ「気が利く男じゃな。礼を言う」
タオルを渡す時にミラの手が触れる。
それなりに暖かい。
やはり幽霊ではないようだ。
とすると、重度の中二病を患った家出少女といったところか。
ぐぅううう~
お腹が鳴った。
俺のではなくミラの。
ミ「お腹が減ったのう。全く、うちの使用人は何をしておるのじゃ。陸、なにか食べ物を持っておらぬか?」
俺「食べ物……。トマトジュースならあるが」
ミ「おお、妾の好物じゃ。くりゃれ」
ミラはトマトジュースを一気に飲み干した。
ミ「うむ、美味であった」
ミラは満足そうだ。
ミ「うむ、気に入った。何かひとつ褒美を取らそうではないか。何でもとはいかぬがな」
家出少女にたかるのは気が引けるな。
俺「いいよ、礼なんて」
ミ「そう、遠慮をするな。言うだけ言うてみよ」
俺「じゃあ、何か思いついたら言うよ」
一応、柑奈たちを呼んだ方がいいか。
携帯で柑奈たちを呼び出した。
しばらくして柑奈たちが走って来た。
柑「わっ、本物だ!」
柑奈は目を輝かせてミラを見つめている。
幸「噂通りの美少女……って、ちょっと幼すぎじゃないか」
幸太はビデオカメラの録画を止めた。
俺「どうやら幽霊じゃなさそうだぞ」
柑「な、何だって~」
柑奈はミラをべたべたと触る。
柑「そんな~」
酷く落ち込んでいる。
俺「まぁ噂なんてそんなもんさ。で、この子どうする?」
空翠でも吸えば気が収まるだろうか。