どう考えても屋上のドアに鍵がかかっていないのはおかしい
撫「雲母さん。教科書とかなかったら飛鳥井くんに見せてもらってね~」
凛「……はい」
凜は、少し嫌そうな顔をした。
撫「それじゃHR始めるよ~」
ほどなくHRが終了し、授業が始まった。
俺「凛」
凛「いきなり呼び捨て?馴れ馴れしい」
俺「雲母凛様におかれましてはご機嫌麗しく祝着至極に存じます」
凛「……呼び捨てでいい」
凜は呆れてしまった。
凛「で、何」
俺「教科書ないんだろ?俺は左を持つから、凛は右側を持ってくれ」
お互いの机をくっつけて、俺は凛にできるだけ近づいた。
凛「ちょっと近すぎ」
俺「近くないと見えないだろ」
凛の顔がすぐそばにある。
うむ、実に萌えるシーンだ。
凛は教科書に集中している。
凛からはかすかに花のような香りがする。
シャンプーの香りだろうか。
もしかしたら香水の類かもしれない。
俺は香水などは苦手なのだが、凛には良く合っているような気がした。
ニヤニヤしながら凛の整った顔を眺めていると、凛がこっち見るなという顔で睨んできた。
俺は慌てて教科書に目を移した。
そんなシーンも飽きてきた頃、お昼の時間になった。
俺が教科書などを机に押し込んで、売店に行こうとすると、凛がクラスのモブどもに囲まれている。
モブA「雲母さん、一緒にお昼食べよう」
モブB「雲母さんってアイドルの~だよね?」
モブC「なんで転校してきたの?」
答えを聞く気があるのだろうかと思うほど、モブ達は矢継ぎ早に質問を繰り返す。
凛は物凄く嫌そうな顔をしているが、黙って聞いている。
俺はため息をつくと凛に話しかけた。
俺「さ、行こうぜ」
凛「え?」
凛は打って変わって、きょとんとしている。
俺「昼になったら、学校案内するって言ったろ?」
凛「……。うん、そうだった、飛鳥井くんに案内してもらうんだった、皆ごめんね」
そんな約束はしていなかったが、凛は察したようだ。
幸「俺も――」
俺も一緒に行くと言いたかったのだろう幸太とモブ達の隙をついて、俺と凜は教室を後にした。
俺「まずは売店だな。弁当用意してないんじゃないか?」
凛「え、なんでわかったの?」
俺「パンをくわえて、慌てて登校するぐらいだからな」
凛「……」
凛は今朝の事を思い出したのか、少し赤くなって黙っている。
俺達は売店で、さっと買い物を済ませた。
俺「さてと教室に……」
と言い終わる前に、凛が俺の制服の袖を引っ張る。
凛「教室はイヤ」
俺「あのモブ達か」
モブ達もそうだが、売店でもチラチラと見られてたな。
どうしたものか。
そうだ、あそこに行くか。
俺は教室とは違う方向に歩き出した。
凛「飛鳥井、どこ行くの?」
俺「まぁ、黙って付いてきな」
1階の売店からひたすら階段を昇って行った。
凛「屋上?」
屋上のドアの前に着いた。
凛「屋上って普通、鍵がしてあるんじゃないの?」
俺「そう思うなら、確かめてみな」
凛はドアのノブを回す。
ガチャガチャ
開く気配はない。
凛「やっぱり、鍵がかかってるじゃない」
俺「見てな」
ドアが開いた。
俺「ドアが歪んでるだけで鍵がかかってるわけじゃないんだ」
俺は、屋上のドアの開け方をわかりやすく凛に教えた。
凛「なるほど」
凛は、嬉しそうにドアを開け閉めしている。