#.07 運命
博士が起きると、台所では灰原が朝食の準備をしていた。
「おはよう、哀君」
「あぁ、おはよう博士。もう少しで出来るから、顔でも洗ってきて」
灰原はそう言うと、博士の方に向けていた顔をフライパンへと戻す。博士はその言葉に笑みを浮かべながら、灰原の足元を見て洗面所へ向かった。
台所には灰原が使いやすいようにと、博士が台を置いていたのだ。そして、去年から置いてあるその台は、確実に低くなっていた。それだけ灰原が順調に成長しているということだ。
博士はその成長を見守りながら、その台を低くするのがこの上なく嬉しかった。
「あぁ博士。ご飯出来たわよ」
リビングに戻ると、テーブルには二人分の食事が出来上がっていた。博士はその食事を見て、
「いつもありがとう、哀君」
博士がたまに言う言葉だ。灰原はそれに笑みを浮かべながら、住まわせてもらっているんだから当然でしょと言う。そうして二人は朝ごはんを食べる。
「本当に哀君の料理はおいしいのぅ!」
そう言って食べてくれる博士を見ながら灰原は思った。
(あと何回…こうしていられるのかしらね)
灰原はそう思いながら博士を見ていた。
「ん?どうかしたのか哀君。箸が進んでおらんようじゃが…」
博士が心配そうに言ってくるので、灰原は何でもないと箸を動かす。そして、
「ありがとう、博士」
哀の急な言葉に博士は首を傾げる。
「私を拾ってくれてありがとう」
博士はその言葉に驚いたが、すぐに優しい笑みを浮かべ、
「わしの方こそ。哀君が来てくれて感謝してるよ。ありがとう、哀君」
その言葉に灰原は胸が苦しくなった。そして、料理を美味しそうに食べている博士を見ながら、心の中でもう一度言った。
(本当にありがとう…博士)
◆◇◆◇
「そうそう、コナン君?」
「ん?なぁに?」
コナンは昨夜、灰原のあの一瞬の表情が忘れられず、早くに布団に入ったものの、なかなか眠ることが出来ずに寝不足気味だった。
「昨日和葉ちゃんから電話があってね?今日は開校記念日で休みだから、夕方頃に服部君と一緒に来て、家に泊まることになったの」
「へー、そうなんだ」
コナンの素っ気ない返事に蘭の表情が曇る。
「コナン君、最近元気ないね。大丈夫?」
「え?大丈夫だよ?」
「そう?昨日も早く寝ちゃったし…」
「大丈夫だよ!行ってきまーす!」
コナンはそう言うと、元気一杯と言わんばかりに家を飛び出した。だが蘭は、コナンの行動と表情に不安が募るばかりであった。
『あの日』に見せた新一の雰囲気を漂わせ…どこかに消えてしまいそうな感じがしていたのだ。
一方コナンは蘭に言われて、自分が気付かないうちに思い込んでいたことを知り、灰原のことを考えた。
(俺がここまで考えるってことは、あいつはいつも俺以上に思い詰めていたり、不安だったりしてたのか?)
コナンはそう思うと、自分が情けなく感じてきた。
(俺が何とかする…俺が助けてやる…調子の良いことばっかり言って、俺は何もしてないじゃねぇか…)
そればかりか、助けられているのは自分ばかりじゃないか。コナンはこれから自分は何をしてやれるのかを考えていた。
◆◇◆◇
「平次!いい加減起きぃ!」
和葉はそう言って服部の部屋を開ける。そこには、まだ布団の中で寝ている服部がいた。
「早ーせんと!今日は蘭ちゃんとこ行くんやから!」
和葉の叫び声に平次はようやく目を覚まし、時計を見る。
「うるさいやっちゃな〜。まだ十二時やないか…」
平次はそう言うと、また目を閉じた。
「アホー!いつまで寝とる気やねん!ほれ、早よう起きて!」
和葉のだんだん大きくなる叫び声に、平次はようやく起きた。
(そうか、今日は工藤んとこに行くんやったな。あいつとおると、しょっちゅう事件に遭うからな〜)
平次はそれも探偵の宿命なのかと思いながら、欠伸をしながら身仕度を始める。
◆◇◆◇
学校帰り……昨日の灰原の表情…コナンの焦り…朝の灰原と博士の会話…服部が今日来ること……全てが運命だった…そう思うような事件が起きた。
◆◇◆◇
いつものようにコナンと灰原は二人で歩く。するとコナンは、ずっと考えていたことを灰原に尋ねた。
「なぁ、俺になんかしてほしいこととかないか?」
コナンがあまりにも唐突に聞くので、灰原は一瞬呆気にとられたが、
「熱でもあるの?」
そう言ってコナンの顔をまじまじと見る。コナンは顔を赤くしながら、そんなんじゃねーよと言う。
「あなたには、十分過ぎる程いろんなことをしてもらったわ」
そう言う灰原にコナンは複雑そうな表情をする。そして、コナンが灰原に何か言おうとしたその時、
!!!
コナンな勢い良く振り返った。
(この特殊なエンジン音…まさか!!)
コナンの振り返った先には、『ポルシェ356A』がこちらに向かって走っていた。そして中に乗っているのは、長髪の男とサングラスの男。
(ジン!ウォッカ!)
コナンはすぐに脇道の逃げた方がいいと思い、灰原を見た。すると、そこには何もかも受け入れたような表情をした灰原がいた。
「灰原…お前…」
コナンが何も言えなく、何も出来ない間にポルシェは二人の横を通り、少し前で止まった。
「おい灰原!逃げるぞ!」
コナンは我に帰り、灰原の手を引くが、灰原はそこから動かなかった。
「灰原!」
灰原がその場から動かないまま、ポルシェからジンが降りてきた。
|