#.06 一瞬の…
コナンは阿笠宅から帰る途中、いろいろなことを考えていた。
自分はこのまま探偵事務所にいてもいいのか。このことをジョディー先生に話すべきか。いつ奴らが現れるのか。それともう一つ…。
(あいつは家にいた方が安全かもしれない。けど奴らなら博士の家くらい調べているはず…)
探偵事務所は下手に今出るよりは、なるべく普段通りの方がいい。ジョディー先生には、もっと確かな証拠を集めてからの方がいい。それに奴らはどこから来るかわからない。そんなことを考えてもしょうがない…。だがコナンは、灰原のことだけは答えが見つからなかった。
(あんまり言うと、またあなたには関係ないって言われるだろうし…)
コナンは頭の中で灰原の真似をしなが自問自答していた。
「ただいま〜」
コナンはたいした答えも出ないまま、いつも通り探偵事務所の扉を開いた。
「コナン君!またこんな時間まで!もう夕食の時間よ!」
扉を開けると同時にコナンは蘭に怒られた。
(蘭…)
このままじゃ、蘭までも奴らの標的になりかねない。しかも蘭はずっと新一の帰りを待っている。辛い思いをたくさんさせている。コナンはそう思うと心が沈んだ。
(いや…誰も死なない。灰原だって蘭だって…みんな死なせてたまるかよ)
コナンはそう心に決めた。蘭はコナンの態度が何か変な感じがしていた。そして最近のコナンを見ていると、なぜか不安な気持ちになる。
(なんだろう…この感じ…)
◆◇◆◇
翌日、コナンは歩美と一緒に歩いている灰原を見て驚いた。
「あ、コナン君おはよう!」
歩美はコナンに気がつき、コナンに挨拶をした。そして三人が並ぶと、自然と灰原と目が合う。
「…おはよ」
「あ、あぁ」
歩美がいることもあり、それ以上会話はしなかった。
教室に入り、三人で光彦と元太を待っていると、時間ギリギリに息を切らして教室に駆け込んできた。
「あ〜危なかった」
「もぉ、元太君のせいじゃありませんか!」
そんな二人は灰原に気がつくと、笑顔で歩み寄ってきた。
「灰原さん、おはようございます。もう大丈夫なんですか?」
「お前ちゃんと飯食ってんのか?」
「本当に良かったよね!哀ちゃん!」
「えぇ、もう大丈夫。心配してくれてありがとう」
灰原がそう言うと三人は嬉しそうに笑い、灰原も優しい笑みを浮かべていた。
◆◇◆◇
帰り道、いつもの場所で別れたコナンと灰原は、肩を並べて歩く。
「良かったよ」
「え?」
「お前が学校に来てくれて」
コナンはそう言って笑うと、灰原は何か物思いにふけるように立ち止まった。
「ん?どうした?また組織の奴らか?」
コナンがあまりに普通に言うものだから、灰原はフッと笑う。
「違うわよ。ただ思い出していただけ」
灰原はそういうと歩きながら話を続けた。
「覚えてる?去年バスジャックの時にあなたが私に言ったこと」
「あぁ。運命から逃げんなよだろ?」
「えぇ。だから学校に来たのよ。運命から逃げないためにも」
灰原がそう言うとコナンは嬉しそうに笑った。それに気付いて灰原がコナンを見る。コナンはそれに気づき、
「覚えててくれて嬉しいだけだよ」
そう言ったコナンに灰原も笑う。
「あんな気障な台詞、忘れたくても忘れられないわよ」
「おい…」
そう言われたコナンは嫌そうな顔をした。それに灰原はクスッと笑った。
「あなたといると、いつも事件ばかりだったわね」
「それは俺の性じゃないぞ!」
「サッカーを見に行っても、キャンプに行っても、ただみんなで歩いていても、いつも事件に巻き込まれて」
「だから俺の性じゃないぞ!」
コナンがそう強く否定すると、灰原は突然立ち止まり、夕日によって赤く染められている空を眺めながら話した。
「でも楽しかったわ…」
その表情は、夕日の光が当たり、今にも消えてしまいそうな哀しい表情に見えた。
「それももう終わり…」
「灰原?」
コナンが灰原を呼ぶと、一瞬…ほんの一瞬だけど、灰原はコナンの瞳を真剣に見つめていた。しかしすぐに、
「なぁーんてね」
と、いつもの灰原に戻っていた。そして灰原は、それじゃあと言って帰ろうとしたが、
ギュッ
コナンに後ろから抱きしめられた。
「ちょっ…工藤君!?」
灰原もさすがに慌てていたが、本人は正気に戻ったのか、一番驚いていた。
その後ろ姿が、今にも夕日に飲み込まれてしまいそうだと思ったのだ。
「わ、悪い…お前がどこかに消えてしまいそうでつい…」
そう謝るコナンに灰原は呼吸を整え、
「つい、で人に抱き着かないでくれる?」
そう言ってジト目でコナンを見るが、
「でも、ありがとう」
「え?」
「私が消えないように助けてくれたんでしょう?」
「あ、あぁ…」
灰原の言葉にコナンは何て言っていいのかわからなかった。
「もう消えたりしないから、いきなり抱き着いたりしないでよ?」
「もうしねーよ!」
コナンは顔を赤らめながら言った。
「フフ、それじゃあね。探偵さん?」
「あぁ。じゃーな」
コナンは灰原と別れた後、あの一瞬の灰原の表情を思い出していた。
まるで、これから始まる戦いの序章を表しているかのように。
|