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過去と未来は隣り合わせ
作:SAI



#.13 灰原の想い


 茨城県の人並み離れたとある場所。そこには、完全なセキュリティと見張りで固められた大きな研究所があった。FBIやCIAといった、『世界』を敵にしている組織の本部である。



「ご苦労様です」



 そこに一台のポルシェが入った。そしてセキュリティが解除され、中の三人はこの組織の創立者、『ボス』の部屋の前まで来ていた。



「ご苦労様です。ここから先は『シェリー』だけです」



 部屋の前にいた男はそう言うと、セキュリティを解除して扉を開けた。



「行け…シェリー。ボスがお待ちかねだ」



 ジンにそう言われると、灰原は震える足で中に入って行った。

 中へ入ると、さらに厳重なセキュリティを抜けた。そしてそこに居る人物と目が逢うと全身が硬直した。



(ボス…)





◆◇◆◇





 目の前の人物を前に灰原は体が震えた。ボスと呼ばれる人物は、体のほとんどが皮と骨で生きていた。顔面蒼白で髪の毛も全て抜け落ちている。生きているのが不思議だ。



「良く来たなシェリー…いや…宮野志保」



 その声は外見とは裏腹に強くしっかりとしたものだった。



「まさかお前がこれほどまでに薬の研究を進めていたとは思わなかったよ」



 灰原はまだボスから目が離せないで、声も出ない状態だった。そしてボスは続けた。 



「そう身構えるな。これからお前の無事は保障されているんだ」



 その言葉に灰原はようやく声を出した。



「私が…私に関わった人達は…」


「保障しよう。『姉』の時のようなことになっては困るからな」



 その言葉に灰原は泣きそうになるのを必死で堪えた。



「お前はこれから忠実な部下として組織に戻り、お前がいなくなって滞っている『APTX4869』の研究を完成させること。これだけが我々の条件だ」



 そしてボスは、何か望みはあるかと灰原に尋ねた。すると灰原は、



「ある人に薬を送りたいの…できれば手紙も一緒に…」



 灰原はあえて薬と言ったが、そんなことはムダだろうと気付いた。その言葉にボスは少し考えたが、



「工藤新一か…いいだろう。解毒剤を送るといい。手紙も許可する。ただし内容は確認させてもらう」


「…ありがとうございます」



 するとボスはジンを呼び出した。



「ジン。シェリーの監視はお前に任せる。話は聞いていた通りだ。シェリーを研究室に通せ」


「わかりました」



 ジンがそう言うと二人は一礼をしてその部屋を後にした。





◆◇◆◇





「さすがの貴様もあの方の前だと素直だな」



 ジンの言葉に何も答えず、灰原は黙々と歩き、『最も厳重に宝庫』されている部屋に着いた。



「入れ。ここが貴様の部屋だ」



 灰原は部屋を見渡した。完璧に整えてある設備と、壁を覆い隠してしまうほどの薬品を見て、灰原は少し落ち着いていた。



「貴様にとってはこれほどの場所はないだろう?」


「えぇ。随分落ち着くわ」



 そう言うと灰原はパソコンの前に座り、データの確認をした。そこにはAPTX4869のデータが確かにあった。



「じゃあ私は早速作業に取り掛かるわ」 



 そう言って灰原は子供用の白衣に身を包ませ、それから数時間後に解毒剤を完成させた。それから灰原は、四枚の手紙を書き、解毒剤と一緒に封筒に入れてジンに渡した。



「シェリー、貴様はもとには戻らないのか?」



 ジンがそう聞いてきた。



「わからないわ…とにかく今は薬の開発に専念するわ」



 そう言うと灰原は、仮眠を取ると言ってソファーに横になった。 



「フン…もとに戻れば俺の部屋に入れてやるんだがな」



 その言葉に灰原は、昔…ジンとは肌を重ねる仲にあったのを思い出した。お互いに不器用な性格をしていが、言葉に表さなくても心は通じていると思っていた…。

 そしてジンに裏切られた灰原は今、ジンを殺したいほどに怨んでいた…。だが、ジンとの会話で自分が組織に戻ってきたという感じがし、決して居心地が悪いものとは思わなかった。 



「…誰が貴方なんかと」


「フ…その性格は変わっちゃいねーな」



 そう言うとジンは研究室を出ていこうとした。



「中身は確認しなくていいの?」


「貴様は奴らに我らの本拠地を教えるようなバカじゃない。それくらいわかっているさ」



 ジンはそう言うと封筒を持って出ていった。灰原は扉の閉まる音を聞いて、昔のようにジンを想えない理由を考えた。それは姉が殺されただけではなく…



(…らしくないわよね。こんな風に思い出すなんて…)



 そう思うが、消しても消しても現れるのはある少年の笑顔…。



(もともと私に恋愛なんて向いていなかったのよ。それにこれは叶わない恋…するだけ無駄よ……でも…)



 灰原の瞳から一筋の涙が流れた。



(らしくないのはわかっているわ…わかっているけど…)



 必ずこの一年のことは忘れる。そう思えば思うほど、今までの楽しかった思い出が蘇ってくる。今まで迷惑かけた博士…十歳以上年の離れている友達…そして…



(必ず忘れるから…だからお願い…今だけは…)



 そして灰原は最後に、自分が心から大切だと言える眼鏡の少年を思い出した。



(あなたのことを想わせて…)



 そう思いながら灰原は深い暗闇に落ちていった。












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