第九話:琥珀色の世界4
「あ、ほら。今日は随分と紅い」
文化祭前夜。準備に追われて、いつもより帰りが遅くなった。
周りはもう暗くて、紅く光る車のライトが映える。
何故、車のライトは紅なんだろう。不吉な感じがする、この暗い紅。
この色を見ると、理科の教科書に載ってた、血液を含まない「新鮮じゃない血」を連想する。
そんな物思いにふけっている時、大樹の声で夜空を見れば、満月から裂け逝く月があった。
紅い血に塗れたような、それ。
私の隣で樹もまた、ぼんやりと月を見ていた。
……樹が、この先も私の隣にいてくれるなら。
大樹を愛しく思う時間よりも長く強く、私を憎んでくれるなら。
私はどんな嘘でも吐く。貴方を傷つけ続ける。
ほら、あの月も私達の心と同じように血塗れ。
私か吐いた嘘で血塗れ。
……紅月の、綺麗な夜だった。
時々。
本当に時々だけど、樹と二人きりでいる夢を見る。
私は白い部屋の中でひたすら眠っていて。
樹が私にひたすら話しかけてる。内容は聞き取れない。聞こえてるのに分からない。
私は何だか寂しい。
何でかな。大樹がいないからかな。あんなに樹と二人になりたかったのに。
そうだ。大樹はどうしていないのかな。
体が動かないし、口も開かないから樹に聞く事も出来ないけど。
……それに、樹ともう少し二人でいたいから。聞けない。
ぼんやりと、聞き取れない言葉を喋る樹を見つめる。
何喋ってるの?
何で大樹はいないの?
何でここにいるの?
ねぇ、樹。
何で泣いてるの……?
あ、何だか眠くなってきた。いや、今も寝てるはずなんだけど。
意識が遠くなる。樹が見えなくなる。
代わりに、樹の声が聞こえてくる。
「…は………………………………いよ」
何て言ってるの……?
暗闇の中で、眼を開く。
この夢は、何も不自然なところなどないのに、何も怖いところなどないのに、私を気持ち悪くさせる。あの不気味に白い部屋と、いつもとは違って饒舌な樹。
動かない自分の体。
私は暗闇の中で、自分の体を抱きしめた。
冷え切った手足。でも、ちゃんと動く。
自分の体なのだから、当然なのだけど。
すっかり眼が覚めてしまった私は、起き上がって電気をつける。
そして気を取り直そうと、机の前の椅子に座ってペンをとり。
そこで動きが止まってしまう。
今、何をしようとしたのだろう?
何で私はペンなんか持ったんだろう?
宿題は寝る前に終わらせているし、何でペン?
私は自分の行動に首をかしげながら、ペンを置いた。
何か暖かいものでも飲もうか。ココアでも飲めばまた眠くなるかもしれない。
眠くなくても、寝なくては体が持たないだろう。
何せ明日は……明日は、運動会なのだから。 |