第六話:琥珀色の世界1
「私はただあの人が好きなだけなのです。これ以上ない程にあの人が好きなのです。……他の誰かの者になど、けしてなって欲しくないのです。例え、その相手が無二の親友なのだとしても」
そこまで真新しい日記帳に書いて、私は溜め息をつく。
机の上に置いてある鏡には、すこし青褪めた顔色の私が映っている。
それも当然。私は自分のみにくい恋情のために、幼馴染み二人を裏切っているのだから。
私の幼馴染みは、私の自慢だ。
大樹は、その神懸かった美しさの顔が一番に目を引くけれど、本当に凄いのはその性格だ。神懸かった、じゃなくて神様みたいな人だ。「隣人を愛せ」を地でいく人。
大樹みたいな人を好きになるのは、とても大変だと思う。きっと、自分の幸福より周囲を優先する人について行くのはすごく大変だ。
樹は、少し冷淡で言葉も少ないけれど、本当は誰よりも周りに気を配っている。そして、どんな事にも愚直といえる程熱心に、真剣に考えている。すごく理想の高い人で、ままならない現実を変えようとしている。
樹みたいな人を好きになるのは、報われないと思う。
私は去年から大樹と付き合っている。
好きだったから、誰かの者になって欲しくなかった。
勝手な言い分かもしれないけど、私を見て欲しかった。どんな感情でもいいから、私が彼を好きなのと同じぐらい激しい感情を向けて欲しかった。
私の幼馴染みは鈍感で、周囲が向ける感情にまるで気付いていなかったから。
………………。
この日記帳は大樹からもらった物だ。毎年の事だけど、大樹は人に物をあげるとき、相手に今一番必要だと思った物を渡す。それを相手が望まなくてもだ。
適わないなぁ、と思う。やはり大樹は神様だ。次元が違う。
樹は毎年私に何を渡すかで至極苦労している。「若い女に何をあげたらいいかなんて、わからん」と、彼は渋い顔で、私に何が欲しいかを聞く。でも、樹は大樹には言わない。
私は絶対に教えない。日付が近くなって、あたふたしている樹はすごく可愛いから。
結局、樹は硝子細工のように透明な写真立てをくれた。樹らしい、涼しげな小さな華が一房だけついた物だった。
後で「何故これにしたの」と聞いたら「琉樹は手作りの物が好きだろう」と、言われた。
どうやら悩んだ末に手作りにしたらしい。「見掛けによらず樹は手先が器用だからなぁ」と、おっとりと大樹は言っていた。
……回想をやめて、私は眼を閉じた。頭が痛い気がする。日記なんて柄にもない事をしているからかな。
……分かってる。そんな理由じゃない。
私は日記帳を閉じて鍵をかける。
明日も私は、にぶい二人に会う。もう考えるのはやめよう。この暗い感情を引きずって、不審な表情を見せる訳にはいかない。
私は、騙し続けるって決めたんだから。
……他の誰かの者になど、なって欲しくない。例え、その相手が無二の親友なのだとしても。
そのためなら、私は。
私は自分の感情ごと、周りを潰せるよ。
ねぇ、樹。 |