第4話:氷が語る真実
俺は今、真理絵と共にお料理教室に来ている。
「それじゃあ今日は、ケーキを作りたいと思います。」
と、小島 美幸と言うショートヘアの美人な女性が言った。
小島は、此処のお料理教室の先生であり、中学時代の俺の担任でもある。
因みに、彼女は誰にでも人気があり、本気で交際を求めたがる者がいるぐらいの美人だ。
が、実は既婚者で子持ちなのである。
「新一君、卵持って来た?」
「卵?」
「新一君、もしかして、忘れたの!?」
「ちょっと待って。
それは俺が言いたい。
昨日、真理絵が持ってくるって決めなかったか?」
「そだっけ?」
目を点にする真理絵。
「あらあら、どうしたのですか?」
と、小島が間に割って入った。
「真理絵が卵を忘れて困っているんだ。」
「そう。それなら、冷蔵庫から取って来るわ。」
そう言って、小島は教室を出て行った。
「全く・・・。毎回毎回、お前と言う奴は・・・。呆れてものも言えんわ。」
「ごめん・・・。」
俯く真理絵。
「はい、お待たせ。」
小島が卵を持ってやって来た。
小島は、卵を置くと、笑顔でこう言った。
「今度は忘れないでね。」
その時の笑顔は、とても美しかった。
が、それが小島の、最後の笑顔となるとは、この時はまだ知るよしも無かった。
バチン!
いきなり停電が起き、部屋中が真っ暗になった。
「俺、ブレーカー見てくる。」
そう言い残し、俺はブレーカーを見に行った。
「任せたわ。」
小島はそう言って、俺を見送った。
「あったあった。」
俺は呟きながらブレーカーのスイッチをあげた。
「キャアアアア!」
突然、教室の方から悲鳴が聞こえた。
俺は急いで教室に戻った。
「何があった!?」
教室に入ると、俺は叫んだ。
「せっ、先生が何者かに!」
と、一人の女性が言った。
俺は小島の下へ駆け寄った。
「せ、先生!?」
俺は小島を見て驚いた。
背中に包丁が刺さっている。息はしていない。
「誰か!救急車だ!」
と、傍にいた男性が叫んだ。
「いや、呼ぶのは、警察だけだ!」
教室にいる数人の顔が固まった。
皆、小島が亡くなった事に驚いている様だ。
「あ、私、警察呼んでくる。」
そう言い残し、真理絵は近くの交番まで駆けて行った。
さて、警察が来るまでに出来る事は、と・・・。
俺は、教室にいる数人に話を聞いて回る事にした。
一人目は、日系中国人の喜屋武 瑠璃。
学校は違うが、俺と同じ高校生だ。
喜屋武 瑠璃の証言では、停電直後、包丁が刺さる様な音が聞こえたらしい。
二人目は、会社員の山本 耕二。
山本 耕二もまた、喜屋武 瑠璃と同じ事を証言した。
三人目は、女子大生の九条 小百合。
九条 小百合も、他の二人と同じ事を証言した。
四人目は、ケーキ屋さんでアルバイトをしている香山 恭子。
香山 恭子は、何者かが小島を刺殺して逃げ去るのを目撃した、と証言した。
そして、最後に、警察を呼びに行った奥村 真理絵だ。
彼女の話は帰ってきてから聞く事にしよう。
因みに俺には、ブレーカーを入れに行った、と言う立派なアリバイがある。
「新一君、連れてきたよ。」
真理絵が、老警官の銀治郎さんを負ぶって教室に入って来た。
「彼だけ?」
真理絵は、頷くと、こう言った。
「駐在所には、このお爺さんしかいなくて、仕方ないから連れてきた。」
「これ、人を老人扱いするな!」
ポカッ!
老警官は、真理絵の頭を軽く叩いた。
「痛っ!」
真理絵は涙した。
「それより黒崎君、今度はどんな事件かね?
と、その前に、わしを降ろしてくれんかのう、おばさん?」
おばさん・・・銀さん、あんたの命、多分無いわ。
「お、おばさん?」
真理絵は、顔を引きつらせながら笑い、手をポキポキと鳴らした。
真理絵の全身から殺意が漂ってくる。
「どりゃー!」
真理絵が銀さんを投げ飛ばし、落ちる前に回し蹴りを放った。
「どわ!」
銀さんはボールの様に飛び、壁に当たって落下した。
「銀さん、大丈夫?」
俺は心配して声を掛けた。
「だ、大丈夫じゃ。」
銀さんは立ち上がって言った。
皆、夢じゃないかと、頬をつまみ出した。
「で、どんな事件だね?」
「見ての通り、女性が背中を刺されての死亡です。」
俺は銀さんに遺体を見せる。
「ほほ〜。」
銀さんは、遺体を見ると目を丸くした。
「背後から敵を襲ってますなぁ〜。」
「さっきから言っただろ!
あんたが来る前に、事情聴取とか終わらせたから、あんたは犯人逮捕するだけで良いよ。」
「つまらんの〜。」
銀さんは落ち込んだ。
「新一君、落ち込んじゃったよ?」
「気にするな。
それより真理絵、今トイレに行った香山さんに、目をどうしたのか聞いて来てくれないか?」
「解った、聞いて来る。」
そう言って、真理絵は香山さんの後を追った。
さて、その間に俺は、ブレーカーを見に行くか。
大体見当の付いている俺は、ブレーカーを見に行った。
ブレーカーのある部屋は、洗面台があり、その上にブレーカーが設置されている。
他にも、温水器やお風呂、その他色々。
つまり、この教室は、小島の自宅を兼ねているのである。
「何も無いか・・・。」
俺はブレーカーを見て呟いた。
ブレーカーに仕掛けがしてあったんじゃないかと思ったんだが、見当ハズレだったか。
待てよ?あれを使えば。
俺は閃き、洗面台の物入れを開け、中から工具を取りだした。
よし、此処を回せば外れる!
俺は排水孔のネジを回し、鉄のパイプを外した。
思った通り、中にゴム付きの重りが入ってやがる。
間違いない、犯人はあの人だ。
俺は中の物を出し、パイプを戻して現場へと戻った。
「新一君、何処行ってたの?」
真理絵が声を掛けた。
「ちょっとな。それより、香山さんの目は何だった?」
「物貰いだって。」
成る程、だから香山さんは目にアイマスクを。
「ありがとな真理絵。おかげで犯人が解ったぜ。」
そう言うと、現場にいる全員を、俺に注目させた。
「黒崎さん、犯人が解ったんですか!?」
と、喜屋武 瑠璃が驚いた。
他にも、山本 耕二や九条 小百合も同じ様に驚いた。
「それで、犯人は誰よ?」
香山 恭子が聞いて来た。
「その前に、停電のトリックからお話しましょう。」
「停電のトリック?」
銀さんが疑問の表情を浮かべて聞いた。
「先ず、最初に、こういう物を用意しておきます。」
俺は例のゴム付きの重りを取りだした。
「えっと、これはゴムの先端に輪っかを作り、反対側に重りを付けた物です。
これを、ブレーカーのスイッチに吊り下げて、第一段階は終了です。
次に、洗面台の排水孔に氷でフタをし、重りを乗せます。
洗面台はブレーカーからほぼ一直線の為、氷が溶ければ自動的に重りが排水孔に落ち、重さに耐えきれなくなってブレーカーが落ちると言う寸法です。」
「待って、それじゃあゴムはどうするの?」
真理絵がそう言った。
「それは簡単だ。ゴムの弾力により、輪っかがブレーカーから外れ、そのまま排水孔に入り込む。」
香山 恭子は、納得すると、こう言った。
「それなら内部にいる人にも犯行は可能だわ!」
「香山さん、その目、どうしました?」
「あ、これ?
ちょっと、物貰いが出来ちゃって。」
香山 恭子はそう言った。
その発言に対し、俺はニヤリと笑った。
「わ、私が物貰いになった事がそんなに可笑しい訳!?」
キレる香山 恭子。
「違うんですよ、香山さん。」
「じゃあ何よ!?」
「いやね、目の前にいる犯人を追いつめるのが楽しくてね・・・。
そう、香山さん、犯人は貴方です!」
俺が格好良く人差し指で香山 恭子を差すと、周囲の人が驚いた。
「そ、そんな!?」
「香山さんが!?」
「う、嘘だよね、新一君?」
「嘘じゃない。
香山さん、貴方、本当は物貰いになんかなってないんじゃないんですか?
貴方は、暗闇でも微かに目が見える様にと、わざと片目にアイマスクをしているんじゃないんですか?」
一時の沈黙が終わると、香山 恭子がゲラゲラと笑い出した。
「面白い推理だわ。でもね、犯人は私じゃないわ。
それに、言ったでしょ、犯人が逃げる所を見た、と。」
「おかしいですね。
貴方が犯人で無いのなら、見える筈が無いんですよ。
犯行当時、現場は暗闇だった。よほど目が慣れていない限り、犯人が刺殺して逃げるのは、暗闇では見ることが出来ないんですよ。」
「ぐっ!」
香山 恭子は、その場にしゃがみ込む様にして泣き出した。
「あ、あいつが悪いのよ。あいつが、私の彼を奪って、結婚なんかするから。
昨日、彼女にその事を聞かされたわ。それで、私、私。
うわあああん!私、先生殺しちゃったよー!うわあああああん!」
香山 恭子は、犯行を認めると、喉が枯れるまで泣き続けた。
「ぐすんっ!」
「香山さん、もう泣かない。
後は警察で、ゆっくり罪を償って、やり直しましょうよ。貴方にはまだ先があるんですから。」
俺がそう言うと、銀さんは手錠を掛けて連行した。
男女関係のトラブル。それだけの事で殺人とは・・・。
やるせないな。
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