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ついにこの連載も終了です。
最初から読み通していただいたかた、ありがとうございました。
アニメのお仕事
作:高遠和茂



エピローグ


 だんだんだん……!
 だんだんだん……!
 市川は夢中になってドアをたたいていた。
 アニメ制作会社「タップ」の演出部屋である。今日中に「パックの冒険」の第一話の打ち合わせを済ませなければならないのだが、監督の木戸がこの部屋にこもったきり出てこないのである。
「木戸さん! なにやってんすかぁ? 打ち合わせはどうなってんの?」
 がちゃ……、とドアがかすかに開いた。市川ははっとばかりに飛び下がった。
 ドアが細めに開いて、そこから木戸監督の憔悴した顔がのぞく。
「市川くんか……」
 がらっ、と市川はドアを引き開いた。なかからむっとばかりに数日分のこもったにおいがはなたれた。市川はうっ、とひるんだ。
「木戸さん、コンテはどうしたんです?」
 山田は木戸につめよった。
 山田はあいまいにうなずいた。
「ああ、できているよ……」
 洋子は反応した。
「できてる……? 本当に?」
「ああ、そこに積んである」
「え?」
 市川は一歩、部屋に歩み寄ると木戸の動画机のそばに積まれている紙の束に気がついた。そのひとつを手にとるとぱらぱらとめくっていく。
「本当だ……、しかも二十六話ぶん、できてら……!」
 意外な成り行きに全員顔を見合わせた。
 
 そして半年後……
 都内某所の居酒屋で「タップ」のスタッフ全員が集合していた。
「乾杯!」
 木戸監督の音頭で全員コップをささげもち乾杯をかわす。
 アニメシリーズ「パックの冒険」の終了打ち上げ会であった。なんとかかんとか無事シリーズが終了したので慰労会をしようということになったのである。こういう慰労会はあまりやらないのが普通だが、今回は特別だった。
 やあやあやあ、とおたがいコップにビールを注ぎおのおののペースで飲み始めた。
「やあ、それにしても市川くんと洋子ちゃんが結婚するなんてなあ……」
 山田は顔をまっかにしてにこにこと笑み崩れていた。この慰労会はふたりの結婚披露宴のかわりでもあった。
 山田の正面にはその市川と洋子のふたりが仲良く肩をならべてすわっている。そのふたりにスタッフがいれかわり、たちかわりやってきてつぎつぎと献杯していった。ふたりはそれをつぎつぎと受け、はやくもゆだったような顔色になっていた。
「山田さんも一杯……」
 言われて山田は顔をあげた。このシリーズの担当制作進行がビールをささげていた。山田はうなずいてコップをあげた。
「ああ、ありがとう。三村くんも飲んだらどうだい」
 言われて制作進行は妙な顔になった。
「また三村ですか? ぼく、木村ですよ」
 あれっ、と山田は首をすくめた。
「ああ、そうか……。すまん、すまん。つい間違えた……」
「山田さん!」
 となりの木戸監督が山田の肩をたたいた。
「あんた、よく木村くんを三村くんと言い間違えるなあ。いったい、その三村という苗字になにかあるのかい?」
 さあ、と山田は首をひねった。
 まあいいさ。山田はひとりうなずいた。とにかく「パックの冒険」はシリーズを終了したのだ。
 山田は木戸にむきなおった。
「しかし木戸さん。あんときはびっくりしたなあ」
 ん? と、木戸は鎌首をあげた。
「なにしろ数日、演出部屋にこもっていたと思ったら、全二十六話ぶんのコンテ、ぜんぶ描きあげていたんだから。あのせいで、このシリーズは順調に終わったようなものだ」
 その山田の言葉にそうそうそう、と市川は同調した。
「おれもそう思った。おれたち、てっきり木戸さんが部屋から出てこないんで、コンテ一枚もできてないんじゃないか、なんて思ってたんだぜ」
 木戸はうわはははは……、と高笑いをあげた。その木戸に、番組プロデューサーが近づいてきた。
「木戸さん、半年間おつかれさまでした」
 うん、と木戸はうなずいた。プロデューサーは木戸の隣にむりやり尻を落ち着けると、話しかけてきた。
「木戸さん。いい話があるんですよ」
「なに?」
「番組のスポンサーがシリーズのできに大変満足してましてね、それでぜひ続編をやりたい、と言っているんです」
 へえ……、と木戸は目をきらめかせた。
「そりゃいいですねえ。ぼくも、あのシリーズの続編は考えていたんですよ」
 ぞくり、となぜか山田はふたりの会話を聞いて寒気を感じていた。ふと前の市川と洋子のふたりを見ると、ふたりともいっぺんに酔いがさめたような表情になっている。
 なんか、とてもヤバイことになっているんじゃないか……? この状況にはなんだか覚えがありそうな……。
 プロデューサーは続けた。
「こんども監督が全話数のコンテ、描いてくれるってことで……」
「ああ、もちろん!」
 木戸はおおきくうなずく。
 山田は顔をあげた。
 なんだかどこかで”声”が聞こえたような気がしたからだ。
「堪忍や……」
 そんな”声”がどこからか聞こえたようだった。


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