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南からの風
作:松谷ソウイチロウ



第2話:日常への移行


午前2時半頃に、これから2週間を過ごすことになる宿泊場所に着いた。
平屋だった。想像していたよりも、ずっときれいな家屋で正直僕らは拍子抜けしてしまった。
サバイバルのような生活を恐れながらも、心の隅でどこか今までの都会の世界では決して味わうことのなかった「ひどい」生活をするのだとそわそわしていたからだ。
トイレがあり、水が流れた。明日の分の食事が既に用意されていた、天井からは未熟なバナナが吊るされていた。自分の家との違いを上げろ、と言われたら壁が無いことくらいだろうか。
うん、いや何かもっとあるはずと思案するが、大して思いつかない。プレイステーションは2が出て頃からもうすることは無くなったし、洗濯だって近所のコインランドリーに週に2回通う。電気もある。水道もある。シャワーも使える。パソコンは無いが、あれは住まいには直接結びつかない。
ううーん、再度頭をひねるがどうやらそんなに違いはないようだ。
「なんか、ちょっとがっかりだな。」
1年生の小山が口をすぼめた。「もっとジャングルみたいなとこかと思ったよ。」
僕は黙ってうなずき、左手奥にあるドアを開ける。中には掃除用具がびっしりつまっていた。掃除機はないが、ふにゃふにゃした木の枝を集めて作ったほうきが3本、ちりとりのようなものが2個、何に使うのか良くわからないダンボールの空箱が5,6個置いてあった。それもきれいに重ねられていて、自分の部屋の物置よりもずっと整っている。
「何、そこ?」小山が訊いた。
「掃除用具入れみたい。すごい狭いよ。」
「どれ、俺も見たい?」
そう言って駆けてきた小山は、中を見て、ちぇっと舌打ちした。
どうやら、何かもっと珍しいものを見たいらしい。
初めて動物園に連れて来られた子供のように、目の前にある全てのことに驚きたいのだ。
せっかく16時間もかけてはるばるやってきたのだ。その気持ちがわからないでもない。

「さー、今日はさっさと寝るわよ。」
僕達を送ってきてくれた村人はいつの間にかどこかに行ってしまった。家に帰ったのだろうか。それにしても挨拶くらいしてくれても良いのでは無いだろうか。
一瞬、僕らは招かれざる客なのではないかという思いが頭をよぎったが、小山が家の中をちょこまかしてる様子を見ていたら、そのうちわかることだとどうでも良くなった。

朝は6時に目が覚めた。
寝袋にくるまり芋虫のようになり、縮こまる。朝が来れば太陽が昇り、夕方になれば夕陽が昇る。そして、太陽が消える。そんな生活を今から2週間行うのだ。
寝袋から上半身だけ起こし、両手で体重を支える。右隣にですやすやと寝息を立てている小山の寝顔をまじまじと見つめてみる。
「こんなとこにほくろがあったんだ。」と、右眉の下に漆黒の無きぼくろを見つける。
どれどれと触ってみようとするその行為は、明らかに恋人同士のそれだと気づいて、伸ばした手を引っ込める。他の人達もぞくぞくと芋虫から脱皮して体を起こす。

長方形の1部屋に男女が混合で16人寝るという経験は、冷静になって考えてみれば少し危険な匂いがする。それが2週間も続くのである。性欲の処理はどうするのか、男だけの会議を開くべきかもしれない、とぼんやり思う。一応リーダーだ。性欲がたまりすぎて南の島が楽しめませんでした。という反省文が出たら一体誰が責任を負うべきなのだろう。きっと、僕だ。先生ではない。なぜなら先生は女だからだ。女の先生が、男子学生のそれについてのアドバイスを与えることは絶対に無いはずだ。というよりもあれば不自然だ。そっとしておいて欲しいと思う。ここまで考え、ふと小学校の高学年、女の子だけが視聴覚教室に集まり、男の子は校庭で体育をしていたあの頃を思い出す。おそらく、あの時が多くの子供にとって性差を感じた端緒だったのでは無いだろうか。男は、突然外で遊ぶように命令されるのだ。邪魔な男は外に出してれば良いだろうというやり方は、実は大人になっても大して変わっていないように思う。デパートまで送り迎えするお父さんは何故かデパートの買い物には参加させてもらえない。デパートの入り口で妻と子供が買い物を終えるのを待っているのみ。フェミニストの人間は、男と女の扱いに少しでも差があればそれは問題である、と考えるそうだ。給料も昇進も家事、育児も全てが対等でなければそれは女性の権利を侵害していると憤慨するらしい。全く馬鹿げた話だ。
男と女は別の生き物だ。山猿とメガネザルくらい違う。あるいはゴールデンレトリバーと秋田犬くらい違う。
そのことを考慮しないことはただ、現実を直視していないに過ぎないのだ。
だから、女の先生は男の学生の気持ちをわかりっこないし、逆もまた然りである。

就職活動の説明会からの帰り、三鷹に向かう地下鉄の中で同じサークルの友達が言った。
「やっぱりさー、会社の女の子がかわいいかどうかって重要だよねー。」いかにも間抜けな声だった。
「おまえ、そんなこと言うと女性人権の会から非難されるよ。」
「えー、だって本当のことじゃん。しょうがなくね。」
そうだ、しょうがない。事実だ。

朝飯は火を起こすところから始まる。
普段料理を全くしない自分は全く貢献できる自信が無かったが、働いているフリだけはしようと思う。下手にうろうろすると邪魔くさいので、火元でずっと手を動かす。
その動作におそらく生産的な効果は何も無いのだけれど、使えないやつと思われるよりは
よっぽどましだ。
















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