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コーヒーブレイク  如月茜の困惑
 如月茜。

 ご存じでない方のために紹介致します。

 彼女は東京都文京区にある水無月探偵事務所の経理担当であります。

 水無月探偵事務所は、実は忍びの一族で、史上最強と言われています。

 茜はその中でもとりわけ腕の立つ所謂「くのいち」なのです。



 そんな茜が、とても困っている事がありました。

 所長である水無月葵が契約した会計事務所の担当職員が茜に惚れたらしく、月に一度の会計監査であるはずなのに、様々な理由をつけて何度も事務所にやって来るのです。

「どうしたらいいですかねェ?」

 いつも明るい茜が、非常に暗い顔で先輩所員の神無月美咲に尋ねました。

 ちなみに神無月美咲も同じく「くのいち」です。

「別に放っておけば? 何かして来た訳じゃないんでしょ?」

 美咲は、パソコンを操作しながら、片手間に答えました。

「もう、美咲さん、真剣に考えて下さいよォ。私、ホントに困ってるんですからァ」

 茜は膨れっ面で言いました。しかし美咲はそんな茜の困惑を本気にしていないようで、

「少しも困ってるように見えないんだけど? 嬉しそうに見えるわよ」

「何でですかァ? 私、ホントに困ってるんですよォ」

 茜はひょっとこのように口を尖らせて言いました。

「会計事務所の彼、結構イケメンだって、以前言ってたじゃない、茜ちゃん」

「そ、それはァ、彼がまだ私にアプローチする前でェ。でも、今はイケメンだけに自信満々なので、それがウザいと言うかァ…」

 茜はしつこく食い下がりました。美咲は手を休めて、

「大原さんに対して、まずいって事?」

 大原とは、警察庁のキャリアで、ここのところ茜と「いい感じ」な関係の人です。

「大原さんは、関係ないですよォ。とにかく、会計事務所君が困ったちゃんなんですゥ。美咲さん、一緒に対策考えて下さいよォ」

「じゃ、所長にお願いして、会計事務所を変えてもらったら?」

 美咲は悪戯っぽく笑って言いました。茜はビクッとして、

「ダメですよ、そんなの。所長に知れたら、もっとややこしくなりますよォ。面白がって何かされちゃいます」

「そうかも知れないわね」

 美咲が同意してしまう程、水無月所長は「人が嫌がるのを見るのが大好き」な性格なのです。

「じゃ、大原さんに相談して、警察から圧力かけてもらう?」

 美咲も面白がっているとしか思えないような提案をします。

「それもダメですよォ。大原さんを巻き込めませんし、そんな事させられませんたらァ」

「それなら、篠原さんに頼んで…」

「ダメです! 所長以上に面白がり屋なんですから!」

 茜が美咲の話を途中で遮るのも仕方がないのです。

 篠原とは、水無月所長の幼馴染み。彼は水無月所長と恋人同士と主張していますが、所長は全然そうではないと言い張っています。でも性格は似ていて、人の不幸が好きなようです。

 端から見ると、夫婦の痴話喧嘩のような事を繰り広げている2人なのです。

「もう、真剣に考えて下さいよォ、美咲さん」

 茜の口が更に尖った時、彼女の携帯が鳴りました。

 茜はまさに光の速さで携帯に出ます。

「大原さん? どうしたんですか?」

 彼女の暗い顔が嘘のように明るくなりました。

「いえ、大丈夫です。渋谷ですね。はい、必ず」

 ニコニコ顔で携帯をしまう茜。美咲は呆れ顔で、

「もう悩み事相談はいいの、茜ちゃん?」

「はーい。これから大原さんとお食事でーす。お先でーす」

 茜はショルダーバッグを掴むと、あっと言う間に事務所を出て行ってしまいました。

「ホントに悩んでたのかしら、あの子?」

 美咲は首を傾げてからパソコンに向かいました。



 そして翌日、再び茜の悩み事相談を受ける事になる美咲でした。
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