第六話 お勉強しましょう
テンポの関係で少し短めです
勉強は大事
オフィーリアの私室に移動してから授業が始まった。
俺はそもそもこの世界の文字がわからないので、初歩中の初歩からだ。幸いこの世界の文字はアルファベットによく似てたので覚えるのに然程苦労しなさそうだ。
とはいえ一日で覚えきるのは難しいな。ちゃんと詰まらず読み書き出来るようになるには反復練習しないとな。うっかり素のアルファベット書いちゃいそうだし。
俺が書き取りを繰り返して覚えている間、オリビアは算数の授業だった。
端で聞いていて、オリビアはお世辞にも優秀とは言い難かった。
「ええと、33×4は…145?」
「違うわ。落ち着いてやりなさい」
「うう」
頑張れ、お嬢様。
ちなみに言うまでもないが俺はこの程度の計算は楽勝だ。流石に小学生レベルの計算で躓いたりしないわ。
必然的にオフィーリアはオリビアにかかりっきりで俺は殆ど放置されるようになった。
さ、寂しくなんてないんだからねっ!
そんな授業が夕方まで続き、オフィーリアが夕食の準備のため部屋を出ると、オリビアは深い溜息を吐いて肩の力を抜いた。
「お疲れ様です、お嬢様」
俺が声を掛けると、オリビアは唇を尖らせて睨んできた。
「うう、何でナタリアはそんなにすらすら計算できるの? 創造られてまだそんなに経ってないのに」
「何でと言われましても」
中身が大人だからとは言えないしな。
「やはり創造主であるオフィーリア様が魔導師として卓越された方だからではないでしょうか」
「そっか、やっぱりお母様って凄いのね」
何とか納得してもらえたらしい。
外の世界を知らない俺だが、オフィーリアは魔導師として凄腕なんだというのはここ数日で察していた。だってこの家にある魔道具は全てオフィーリアが作ったもので、そのお陰でここの生活水準は元の世界と大差無いのだから。
「お母様は本当に凄い魔導師なのよ。昔はお父様と一緒に冒険者をしていたんだって」
「そうだったのですか?」
昔のオフィーリアか、その辺はまだ本人からも聞いてないな。
「お父様は剣士で、特殊な剣を使って誰も見た事の無い技を使っていたの。お母様は魔法だけじゃなくて錬金術にも詳しいのよ。『漆黒の魔女』っていう異名まであるんだから」
「お父様も凄い方だったのですね」
「うん、二人で龍を狩ってた事もあったって言ってたわ」
両親の話をするオリビアは本当に楽しそうだ。本当に両親が好きなんだろう。
そんなオリビアが、突然表情を曇らせた。
「でも、お父様が死んじゃってから、お母様はあまり冒険に行かなくなったの。私にもあまり魔法を教えてくれなくなったし、それより先に算数や科学の勉強をしなさいって言うの」
旦那さんが死んで、オフィーリアにも何か思うところがあったんだろうな。冒険者は簡単な仕事ってわけでもないし。
「ねぇ、ナタリア、私、お父様やお母様みたいな冒険者になれる?」
う、うん?
これは勉強に意味を見出せないって事か。
確かに魔物を倒したり素材を取ってきたりするのが仕事の冒険者に学校の勉強が必要なのか、オリビアくらいの歳の子だと理解出来ないだろうな。
でも知識って言うのはそれだけで武器なんだ。知識の無い人間は簡単に搾取される側になってしまう。
「例えば魔物の群れを駆る依頼を受けたとして、倒した数で報酬が決まるなら、自分で計算出来た方が良いと思いませんか?」
「それは……でもそういうのってギルドがしてくれるんじゃないの?」
「そうかもしれません。でもギルドの人が計算を間違えていたらどうします?ギルドに限らず街の買い物では? ありえないと言い切れますか?」
「ある、かもしれない……」
「そうですね。それでなくてもわざと割に合わない値段を付けて騙そうとする人も世の中にはいます。そういった手合いに引っ掛からないためにも、知識というのは必要です」
俺の言葉に、オリビアは神妙な顔をして頷いた。
「国語も、たとえ冒険者として優秀でも、話し方や言葉の意味を間違って使う人を立派だと思いますか?」
「思わない」
「科学も、薬草などの知識があれば冒険中のトラブルにも対応出来るようになるでしょう。今している勉強はそういったものです。先程ご主人様も『上級冒険者になるには勉強も大事』と言っておられました。お嬢様の思う、立派な冒険者からのお言葉ですよ」
「そっか、必要な事なんだ」
オリビアも納得してくれたらしい。
「うん、もっと頑張らなきゃ」
「その意気です、お嬢様」
拳を握り締めたオリビアは、とても良い笑顔だった。
可愛いな。
子供に対する一般的な感想です。
俺はロリコンではありません。