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メイド人形はじめました  作者: 静紅
漆黒の魔女
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第五話 銃の試射とお嬢様の帰省

 魔銃ブラックホーク。

 オフィーリアの亡き夫が考案しオフィーリアが開発した魔道具。

 使用者の魔力を物理攻撃に変換して発射する。

 消費魔力は使用者が発射時に込める以外に、マガジンと呼ばれる部位にあらかじめ貯蔵しておく事が可能。

 通常弾と炸裂弾が発射可能。

 通常弾の消費魔力効率はかなり優秀。

 炸裂弾は高威力だが消費魔力効率は悪く射程距離も短い。

 オフィーリアも亡き夫も上手く使えず、物置に仕舞われていた。







 翌日からは仕事の合間に裏の練習場を自由に使う許可が出た。

 俺はまだ魔力が使えないのでオフィーリアに込めてもらったマガジン三本分だけだが、早速試してみる。

 石盤は手を翳した人のイメージした場所に的が出るようになってるんだな。俺でも簡単に出来た。

 まずは肩慣らしに十メートル先に出して、通常弾で撃ち抜く。

 簡単だな。

 十五メートル。

 クリア。

 二十メートル。

 クリア。

 二十五メートル。

 クリア。

 ……

 ………

 この体、銃に適性あるわ。

 人間と違って脈から来る手ブレも無いし、動作の精度も高いし、疲労しないから反動制御の負担が軽い。

 何よりこのブラックホークが凄い。

 精度がハンパ無い。落ち着いて撃てば狙撃の真似事くらいは出来るな。そういう使い方するものじゃないけど、一応覚えておこう。

 それと通常弾は弾持ちがいいな。一マガジンが二十五発相当だ。

 けれど炸裂弾は扱いが難しい。事前に聞いてた通り、消費効率が悪い。最低でも通常弾五発分は消費する。

 俺の魔力量がどれくらいかわからないけど、それによっては封印しなきゃいけないな。

 さて、そろそろメイドの仕事に戻るかね。

 今日の夕食は何が良いかな?







 家事と銃の練習を繰り返して数日、その日はオフィーリアが朝食後から出掛けており、帰ってきたのは昼過ぎだった。


「ふ~ふふ~ふふ~ん」


 帰ってきたオフィーリアは上機嫌に鼻歌を歌っている。


「ご主人様、何か良い事でもあったのですか?」


「ふふ、これよ」


 オフィーリアが見せたのは封筒のようだった。

 そう言えば前に、この森の中まで郵便は届かないから、町にある冒険者ギルドで預かってもらっていると言っていたな。


「離れた街の学校に通っている娘からの手紙でね、学校が長期休みに入るから帰省するって」


 新情報が出たぞ。


「ご主人様、お子様がいらしたのですか?」


「言ってなかったかしら?」


「初耳ですよ」


「え、こほん、娘が帰って来たら食事は私が作るわね」


 あ、流した。いいけど。

 娘に手料理を食べさせたいなんて母親らしい一面を意外だと思う程度には、俺はオフィーリアに関して知らない事は多い。


「それでお嬢様はいつ帰ってくるのですか?」


「ええと、この手紙を書いたのが四日前でその翌々日が終業式。学校がある街から家の近くの町まで馬車で四日だから早くても明後日ね」


 なるほど。

 うーん、まだ時間があるのに少し緊張してきたな。


「ぉぉ」


 気に入られなかったらどうしよう?

 廃棄処分されたりとかしないよな?


「ぉぉぉぉ」


 せめて挨拶はしっかりしないとな。第一印象は大事だ。


「ぉぉぉぉぉぉ」


 ところでさっきから聞こえる地鳴りに似た声は何?


「かあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁさぁぁぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 それは前触れこそあったが、こちらの予想を上回るスピードでやって来た。


「ただいまっ! お母様っ!」


 扉をブチ破るの勢いで飛び込んで来たのは、オフィーリアと同じ綺麗な黒髪の女の子だった。


「オリビア!」


「会いたかったわ、お母様!」


「私もよ、オリビア!」


 女の子は勢いよくオフィーリアに抱き着き、オフィーリアもそれを受け止める。


「元気そうね」


「ええ、私はいつも元気よ!」


 その言葉通り、落ち着いた雰囲気のオフィーリアと違い、女の子は子供特有のエネルギー以上に活発且つ快活だった。


「そうだ、オリビアに紹介したい娘がいるの」


 オフィーリアが目配せするので、俺は姿勢を正して構える。


「紹介したい娘?」


 女の子は首を傾げ、そこで漸く俺の存在に気付いた。


「はじめまして、お嬢様。オフィーリア様に創造られました魔導人形のナタリアと申します。どうか見知り置きくださいませ」


 俺は従順なメイドと印象付けようとカーテシーで挨拶する。スカートの裾を摘んで礼をするやつだ。


「……」


 あれ、返事が無い?

 何か変だったか?


「オリビア、貴女も自己紹介しないとナタリアが困っているわよ」


「あっ、はい、お母様」


 女の子はオフィーリアから離れると俺に向き直り、背筋を伸ばして俺をまっすぐ見た。


「オリビア・エトー・ガーデランド、今年で十二歳、です。よろしくお願いします。ナタリア…さん」


 緊張しているのか、顔が赤くなっている。


「私に敬語など必要ありません。どうかナタリアとお呼びください」


 俺はしゃがんでお嬢様に視線の高さを近付ける。お嬢様の身長はこの年では少し高いくらいだった。


「うん、よろしく。ナタリア」


「はい、お嬢様」


 お嬢様は漸く俺と目を合わせて笑ってくれた。

 オフィーリアが可愛がるのも頷ける。

 ご主人の娘じゃなかったら頭を撫で撫でしたい衝動に襲われるところだった。


「ところでオリビア、成績表を見せてもらえるかしら」


 オリビアがまるで油の差してないロボットのように固まって、顔からは脂汗を流してる。

 この顔知ってるわぁ。


「お母様、この間友達とかけっこして一番だったのよ!」


「そう、すごいわね。学校の成績はどうなの?」


「男子とケンカしても全戦全勝よ。大きくなったらお父様やお母様みたいな上級冒険者になるんだから!」


「あらあら、オリビアったらとっても強いのね。でも上級冒険者になるには勉強も大事よ。成績表を見せなさい」


「え、えーと、えーと」


「成績表を見せなさい」


「……はい」


 オリビアは震えながら成績表を差し出した。

 こういうときの母親ってスッポンよりしつこいんだぜ。でもお嬢様、よく足掻いたよ。

 俺は心の中で黙祷した。


「オリビア」


「はい、お母様」


 成績表から顔を上げたオフィーリア。

 この顔知ってるわぁ。


「帰省中は私がしっかり補習授業をしてあげるわ。大丈夫、もう慣れてるでしょ?」


 恒例行事なのかよ。


「ちょうどいいわ、ナタリア、貴女も準備なさい」


「え、私もですか?」


 巻き添えだと?


「一般教養に関するものだから近いうちに貴女にも教える予定だったし、一緒にしてしまうわ」


「わかりました」


 魔法とかそういう類かと思ったが、違うのか。

 しかし異世界に来て人形になってまで授業を受ける羽目になるとは。


「「はぁ」」


 俺とオリビアは同時に溜息を吐いた。

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