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メイド人形はじめました  作者: 静紅
漆黒の魔女
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番外編 ときめきの導火線(危険物)

獣人:全身毛皮、獣顔。要するにケモノ。作者的に大好物。

半獣人:部分的に獣。耳とか尻尾とか鼻先とか。獣人と人間のハーフ。

 長期休みが終わり、街の一般学校の新学期が始まった。

休みの間に勉強の重要性を理解したオリビアは心機一転し、熱心に勉学に励んでいた。


「はぁ」


 などという事は無かった。

 授業中も休み時間も、憂い顔で窓の外を眺めているのだ。今まで決して真面目では無かったオリビアだが、この様子は明らかに異常だった。


「ねぇ、オリビア、ずっと元気無いけど、どうしたの?」


 休み時間、心配した友人達を代表して、猫の獣人のエイミーが声を掛ける。

 彼女はオリビアとは幼馴染であり、親友とも言える間柄である。


「うん、ちょっとね……」


 窓の外から視線を動かさずに応えるオリビア。こんな反応は今まで無かっただけに、付き合いの長いエイミーをして困惑させる。


「休みの間に、何かあったの?」


 エイミーは親友とはいえ不躾かとも思ったが、聞かなければ何も出来ない、ここで尻込みしてはそれこそ親友らしくないと、思い切って尋ねた。

 返ってきた答えは、彼女の小さな勇気を蹴散らしてしまったのだが。


「……私ね」


「うん」


「好きな人が出来た」


「うん、そっか、オリビアに好きな人が……」


「……」


「……」

 エイミーは無言で自分の頬を抓った。確かな痛みが、これは現実だから認めろと諦め顔で首を横に振る。

 それでも言わずにはいられなかった。


「嘘でしょ!?」


「なんでよ!?」


 漸くオリビアは窓の外から視線を動かし、不満そうに親友を睨んだ。


「だってオリビアよ!? 恋バナよりも冒険の話が好きで、男子にとケンカしても圧勝しちゃう、うちの学校の番長のオリビアに好きな人が出来た!? あぁ、世界の終わりって本当に来るのね」


「エイミー、私を何だと思ってるのよ」


「勉強ダメダメでケンカ大好きな脳筋少女」


「ぐっ」


 親友の容赦ない酷評に歯噛みするオリビアだったが、否定する材料が皆無な自覚はあるので反論出来なかった。


「それで、どんな人? 格好いい? 年上?」


 歳相応に恋愛に興味のあるエイミーは掌を返すように喰い付いてきた。オリビアはその切り替えの早さに若干呆れつつも、そこは付き合いの長い幼馴染、気にせず話を進める事にした。


「ええと、家事が得意で、料理は食べたの一回だけだけど凄く美味しかった」


「家事が出来るのはポイント高いね」


「普段は丁寧な話し方なんだけど、戦うときは荒っぽい口調になってたわ」


「あら、意外性があって面白いじゃない」


「歳は私より下なんだけど、頭も良くて勉強のコツなんか教えてくれたのよ」


「ほうほう、纏めると家事万能で頭も良くて物腰丁寧、だけどワイルドな面もある年下の子なのね?」


「う、うん」


「これは、うーん」


 エイミーは目を閉じて腕を組み、唸りながら首を傾げる。

 オリビアは何か違和感を覚えたが、自分の説明もエイミーの総括も何も間違っていない筈だと思い、口には出さなかった。


「ねぇ、オリビア」


「な、何?」


 考えが纏まったのか、目を開けたエイミーは神妙な顔でオリビアの両肩を掴んだ。


「その人、絶対モテるわ。強引に迫って関係を進めないと、すぐに誰かのものになっちゃうわよ」


 ナタリアはまだ家の敷地内だけで生活しているが、母はいずれ冒険の手伝いをさせると言っていた。他の人の目に触れる機会も増えるだろう。そうなれば、他の人がナタリアを放っておくとは考えにくい。確かにナタリアは魔導人形であり人間ではないが、そんな事が瑣末に思えるほど素敵な女性である事は良く解っている。自分と同じようにナタリアに恋をする人も現れるかもしれない。ナタリアがその人を好きになるかもしれない。


「そんなの嫌!」


 ナタリアが他の誰かのものになる。考えただけで目の前が真っ暗になりそうだ。


「でも強引にってどうするの?一緒にお風呂入ったりほっぺたにキスしたりしても、こっちの気持ちに気付いてもらえなかったんだけど」


「し、親友の予想外の積極性にちょっとビックリだよ」


 普段は花よりケンカといった感じで、色恋沙汰など無関心だった筈のオリビアが大人の階段に足を掛けていたとは思わず、エイミーは冷たい汗を滲ませた。


「しかしそこまでやって気付かないって事はとんでもない鈍感か。いや、年下って事はまだ恋愛に興味無いお子様か。しかも家に帰ったときにしか会えないならチャンスが無い」


 エイミーは一人で思考の海に入ろうとしているので、オリビアも再び視線を窓の外に向ける。考えるのは勿論恋しいナタリアの事だ。

 今頃どうしているだろうか。

 もう魔法は教わっただろうか。

 あれからまた外に出る機会はあっただろうか。

 ナタリアの事を想うと胸が苦しくも温かくなる。


「おい、オリビア!」


 そんな切なさと幸福感に浸ろうとしていたところを、無粋な大声に引き上げられる。

 顔を向けると、犬の獣人であるジョシュアが立っていた。

 彼は隣のクラスの生徒で、オリビアとは顔を合わせるたびにケンカしていた。ちなみに結果は常にオリビアの完勝だった。

 しかし長期休み入る一週間前から、ジョシュアの態度が軟化したのだ。


「元気無いって聞いたけど、どうしたんだ?」


 ジョシュアは心底心配しているようだが、オリビアにしてみれば今まで仇敵のように思っていた相手に心配されても困るだけだ。

 と、そこで休みの間に母から聞いた話を思い出した。


「ああ、そういえばあなたに謝らなきゃいけなかったんだわ」


「何かあったっけ?」


「私、耳を触るのがプロポーズになるなんて知らなかったのよ」


「え、じゃあ……」


 ジョシュアの顔色が悪くなる。しかしオリビアは無慈悲に続けた。


「うん、あなたの耳を触ったのにそんな意味なんて無いから。勘違いさせたみたいでごめん」


「……」


「…ジョシュア?」


「オリビアの馬鹿! 悪女! 女豹!」


「最近自分が同じような事言った気がするけど、ジョシュア!」


 ジョシュアは泣きながら教室を飛び出し、入れ替わるように男性教師が入って来た。


「授業始めるぞー、ってどうした?」


「オリビアちゃんが隣のクラスのジョシュアくんを泣かせましたー」


「何だ、いつもの事か」


 教師ですら気にしない程度には、日常茶飯事だった。

 エイミーは自分の席に戻る前に、オリビアにそっと耳打ちした。


「好きな人をオトす方法とか色々調べておくね。応援してるよ」


「うん、ありがとう、エイミー」


 少なくともオリビアよりは色恋への耳が大きいエイミーは、親友の恋が叶うように情報を仕入れようと決めた。


「うーん、既成事実作っちゃうのが一番早いかな」


 もっとも、彼女もまだ子供で、その意味を正しく理解しているとは言い難いのだが。







 ゾクリ


「どうかしたの?」


「い、いえ。何でもありません」


 自分の知らないところで特大の爆弾が作られているのを、ナタリアはまだ知らない。

初回より話数は少ないですが切りがいいので今回はここまでとさせて頂きます。

今後も一回の投稿はこれくらいになると思います。

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