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アヴェンジャー:世界が俺を拒絶するなら:現世編  作者: 藤谷和美
サイドストーリー第五話:続、魔法パッケージ論
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続、魔法パッケージ論【詠唱と詠唱短縮、そして詠唱破棄と無詠唱】

 和也がダイクーア教団に殴り込む前の話として、イオナと和也の会話文だけで書いてみました。


 異世界編の本編に掲載するには冗長過ぎる内容なので、暇つぶし程度に読んでいただければと思います。

「イオ爺、レイ婆が、これ持ってけって」

「おぉ、すまぬな和也。 食後はこれが欠かせぬでな」


「そんな小っさいカップでコーヒー飲んで美味いのか?」

「んふふ、子供にはエスプレッソの味は、まだ早いかの」


「てか、ぶっちゃけコーヒーとか真面目な話、どこが美味いんだよ。 超絶苦いだけじゃん」

「和也、エスプレッソとはな、お前が思っておるようなドリップコーヒーでは無いのじゃ。 そもそもだな…… 」


「つーか、今日は魔法について教えてくれるって言ってただろ。 コーヒーとか苦い飲み物の話はどうでも良いから、教えてくれよ。 魔法って何なんだ、何故俺は魔法が使えるんだ?」

「ふむ、お前もそろそろ苦味・酸味・辛味の大人の味が解る歳じゃと思っておったがのぉ、まだまだ子供じゃの」


「俺はもう子供じゃねーよ。 なあイオ爺、なんで俺は魔法が使えるようになったんだろうな。 ゲームに捕らわれるまでは何も使えなかったんだぞ!」

「まあ、そんなに急かすな。 先にこいつを少し飲ませい……ズズッ、ゴキュッ。 ふぅーむ、さすがレイナじゃ。 わしの好みの甘みを絶妙に判っておるの」


「いい歳して、何のろけてんだよ、まったく…… こんな人が元宮廷魔法使い筆頭だとか、信じらんねー」

「のぉ和也よ」

「なんだよ、イオ爺」


「魔法とはな、言ってみれば、魔力を使ったイメージの具現化じゃと前回教えたのを覚えて居るか?」

「ああ、一応は」


「では、今日は魔法に必要な詠唱と、その発展系である詠唱短縮、そしてその先にある詠唱破棄とお前の使っている無詠唱の違いを教えてやろう」

「違いって、詠唱時間の差だけじゃないのか?」


「違うようでいて突き詰めれば実は皆同じ物なのじゃが、それを説明するためにはまず詠唱とは何かを復習する必要があるかの」

「ちょっと待って、俺も座るから。 ――よし、良いぜ」


「さて、ここに一杯のエスプレッソコーヒーがあるな」

「ああ、見れば判るよ」


「これを魔法の結果だと仮定しよう」

「どういう事?」


「エスプレッソコーヒーと言うのが魔法の名称じゃ。 それだけを唱えたらエスプレッソコーヒーが出現するのを『詠唱破棄』による魔法の具現化と言うのじゃ」

「いきなり、全然判らないんだけど…… 」


「まだ判らぬでも良いから、聞かれた事にだけ答えれば良いぞ。 エスプレッソコーヒーとは何かと言われたら、どう説明するかの和也よ」

「え?…… 小さいコーヒーカップに入れられた濃いコーヒー、かな?」


「ちと間違ってはおるが、言ってみればそれが詠唱短縮の本質じゃ」

「は?」


「エスプレッソコーヒーとは、カップとコーヒー本体に分ける事ができるのは判るな?」

「ああ、一応は」


「カップとは材料と製法以外に、形状と大きさや色という要素が存在する。 そしてコーヒーも同じように、コーヒー豆と言う材料と加工する製法、そして抽出方法と抽出量と言う要素に分けられるのじゃ」

「うん、それは判る」


「何をどのように加工して、どんな形状と大きさの物を作るかという手順を誰にでも判るように事細かに説明した長大な説明書きが、実は詠唱なのじゃ」

「分厚いマニュアルのような物って事なのか?」


「まあ、似たような物だと思えば良いじゃろう。 誰にでも同じ結果をイメージさせる為に必要な説明は、冗長で長いものじゃ。 当然素人向けのマニュアルのように内容は長大になって、実用的では無い」

「そりゃそうだ。 いざって時にマニュアルを全ページ読む必要があったら、戦闘になんてなりゃしない」


「うむ、その通りじゃ。 そこで一定の知識がある者には、詳しく長い説明を簡単な言葉に置き換えて省くことができるのは判るかの?」

「ああ、例えば5番まであるような長い歌詞の全文を、歌の題名で置き換えるようなものだろ?」


「そうじゃ、それが詠唱短縮の本質じゃ。例えて言うならお前の言ったような歌詞と歌の題名のようなものだし、知らない者には全文を言い聞かせて内容を解説する必要もあるが、理解している者には名前だけで同じ物がイメージできるのじゃ」

「なんか、判ってきた。 それがイメージの具現化って奴か?」


「そうじゃ。 正確にはイメージの具現化プロセスと呼ぶのが正しいのじゃが、術者によって同じエスプレッソコーヒーをイメージするために必要な手順の説明は異なるのじゃ。 それが何故なのかは判るかのぉ和也よ」

「え、でもエスプレッソコーヒーの作り方は、みんな同じじゃないのか?」


「本質としては同じでもあるが、出来上がる結果は同じでは無いとも言えるのじゃ。 それは、お前がエスプレッソコーヒーの本質を理解しておらぬからで、製法の大元は同じでも、実は淹れ方は人によって微妙に異なる」

「製法が同じなら、同じ結果だろ」


「基本のコーヒー豆を挽いて粉にして、圧力を掛けて抽出液を得るという本質は同じじゃが、豆の種類やローストのやり方や掛ける時間、粉を挽くときの方法や粒の大きさ、そして一回に使用する粉の量、粉を押し固める圧力と回数、そして抽出に掛ける気圧の違いなど、個人によってやり方は様々なのじゃ」

「出来上がった物は、ただ苦い汁なだけじゃん」


「それは、魔法によって出現した炎が素人には同じように見えるだけで、温度や燃焼時間他、様々な違いがあるのを理解できぬのと、同じ事じゃ」

「うっ! 確かに、魔法のレベルや最大MPの違いとか、ステータスでINTに割り振ったポイントの違いによる効果時間とか破壊力とかは、魔法の見た目じゃ区別は付かないかも…… 」


「それらの細かな違いを事細かに説明してマニュアル通りに正確に実行すれば、原理的には同じ結果を得られる事になる。 これが詠唱じゃ」

「うん、なんとなく判る気はする」


「それに対して、細かな違いと製法の概略を、ローストやグラインドとか抽出時間とか言う言葉に置き換えて説明を短くする事が出来るのは、解るかのぉ和也よ」

「ああ、確かにそう言われれば、こっちの理解度によって説明の省ける部分が人によって違うのは判るな」


「そうじゃ、自分自身が意味と結果の本質を理解している事柄は、その長い手順を短い名称に置き換えることが出来る。 これが詠唱短縮じゃ」

「ああ、なるほど! と言う事は、通常俺たちが詠唱と言っている物は詠唱短縮の事なんだな」


「そうじゃ、一々長ったらしい実用的では無い詠唱の全文を習うのは、魔法学校の初級クラスだけじゃ。 すぐに、個々人の理解度と魔法イメージの具現化度合いによって、詠唱は短縮されることになる」

「そうなると理解レベルの低い魔法使い程、詠唱が長いって理屈になるよね」


「その通りじゃ。 魔法が学問たり得るのは、根本原理を追求し理解する事によって、言葉の意味を正確に理解し応用できる者にとっては、詠唱時間を限りなく短縮できる事を意味するからなのじゃ」

「詠唱短縮は、なんとなく解ったけど、詠唱破棄ってのと無詠唱はどうなるんだ?」


「すべての原理と法則を理解して詠唱を限りなく短縮して行けば、魔法の名称を唱えるだけで、魔法の結果をイメージできるようになる。 これが詠唱破棄じゃな」

「ファイアーボルト!って唱えれば、ファイアーボルトが出るようなものなのかな?」


「そうじゃ。 『世に遍く存在する炎の精を集めて燃えさかる矢と為し、我が敵に突き立てよ』と唱えるのも相当に高度な詠唱短縮じゃが、それを『ファイアーボルト』と名付けて一言で済ませるのも、同じ詠唱短縮じゃ。 全ての魔法は突き詰めると、ここに行き着く。 全ての魔法使いが思い描く理想の姿が、詠唱破棄を使えるようになる事じゃろうな」

「そう言うイオ爺は、どうなんだよ」


「わしとて、使えるすべての魔法を詠唱破棄する事は、いまだに出来ぬ。 しかし、使える魔法の9割は詠唱破棄または、それに準ずる程に短縮はできるぞ」

「それって、凄いの?」


「ぐぬぬ、お前は無詠唱が出来るが故に、そう思うのじゃろう。 だがな、詠唱破棄を使える魔法使いは、わしの知る限りこの世界にはそうそうおらぬ。 これは凄い事なのだぞ」

「俺の無詠唱って、詠唱破棄とどう違うんだ? そういう解釈なら俺も時々は魔法を使ってるって雰囲気が出るから、魔法名を言って使ってるけど」


「無詠唱については、元居た世界でも使える者が存在せぬが故に、まったく研究は進んでおらぬ。 理論上は存在の可能性が否定できぬというだけで、わしが居た世界では伝説のようなものじゃった」

「俺は魔法の理論とか原理とか知らないけど、詠唱無しに魔法が使えるのは何故なんだ?」


「お前が詠唱をせずとも魔法が使えるのも、使いたい魔法の名称だけを唱えて魔法を使えるのも、同じように見えても詠唱破棄とは全く別の理由じゃ。 恐らく根本原理が違うと、わしは思っておる」

「どういう事? 俺は原理を知らなくてもコーヒーを淹れられるって事だよね…… って、実際にコーヒーメーカーとか使えば淹れられるな」


「コーヒーと言うものを知らぬ者にコーヒーを理解させるには、コーヒーについての詳しい説明が必要なのじゃが、お前は生まれたときからコーヒーという出来上がった結果だけを見て知っておるから、それがイメージと強固に結びついておるな」

「まあ、そういう事だよな」


「コーヒーメーカーという物も、それ自体は詠唱短縮に使う言葉の置き換えに過ぎないのじゃ。 コーヒーメーカーという言葉に、コーヒーの粉を入れる、お湯を沸かす、時間を掛けて蒸らす、抽出をするという複数の工程や説明を含む、短縮された言葉が1つにパッケージされておるに過ぎぬ」

「詠唱短縮に使う言葉の置き換えは、複数の言葉を纏めて別の言葉にする事が出来るって事?」


「そうじゃ、それが詠唱破棄に繋がるのじゃ」

「ああ、魔法名そのものに、工程の全てが含まれているって事か」


「すべての工程を理解できれおれば、詠唱を魔法名に置き換えて破棄する事は可能なのじゃ。 しかし、魔法名を破棄する事はできぬ。 これが無詠唱と詠唱破棄の違いなのじゃ」

「魔法名が、最小の言葉に圧縮した詠唱って事なのかな?」


「詠唱とは、術者の魔法に対する理解度を示す物じゃ。 これを短くすることは出来ても、最後に残る魔法名と言う詠唱を破棄する事は出来ぬ。 無詠唱とは、わしが考えるに初めから魔法という結果だけが存在していて、手順としての詠唱が存在しないのじゃろう」

「なんか、いきなり解らなくなったけど…… 」


「検証もできぬが故に、これは想像でしか無い。 お前が幼少の頃より慣れ親しんで来たオンラインゲームの世界で、魔法という物は原理の理解とは関係無しに使える、目に見える結果でしか無かったのじゃろう」

「ああ、確かに魔法って言うとゲーム内での派手なエフェクトが、真っ先にイメージできちゃうな」


「それがVR技術と共により具体的かつ鮮明に、ゲームにのめり込んだお前の脳に刻み込まれたとしか思えぬ」

「アーニャが言っていたシンクロ率ってのも、俺は他人よりも高かったみたいだからな。 廃人って揶揄されるぐらいに、ゲームにのめり込みすぎたってのは否定できないかも」


「お前にとって、魔法とは具体的な結果イメージとして脳の中で直結しておるのじゃろう。 そして、それを確定的にしたのは、約半年以上にも及ぶVRオンラインゲームの世界に閉じ込められた、あの事件じゃ。 あれによって恐らくお前の脳は、誰よりも魔法という物を現実の物として焼き付けてしまったのじゃと思う」

「そして、俺には爺ちゃんたちから遺伝で引き継いだ、魔力が元からあったって事か?」


「そうじゃろうな。 魔力だけではイメージを具現化することは出来ぬが、あの事件でお前の脳は魔法を具現化するだけの固定イメージを得たと言う事じゃ」

「なる程…… それで頭でゲームの中で使っていた魔法のイメージを思い浮かべるだけで、実際に魔法が使えたのか」


「確証は無いが、恐らく間違っては居らぬであろうよ。 間違い無くお前が魔法を現実に使えるようになった原因は、あのVR技術と結びついたオンラインゲームに閉じ込められたせいじゃ」

「得た物に比べて、俺が失った物は大きすぎたなぁ…… 」


「うむ、あれは残念じゃったのぉ。 魔法のクラスであるとか継承やプロパティなどの、オブジェクト論は、次の機会にしても良いぞ」

「それって、更に頭が痛くなりそうな予感がするよ」


「ふふふ、こちらの世界に来てから知った知識で、わしが組み上げた理論じゃが、魔法学の大いなる進歩に繋がる理論じゃよ」

「うえー…… 俺はもう、お腹がいっぱいだよ」


「コーヒーという大元になるクラスと言うパッケージを1つ定義すればじゃな、そこから派生させてドリップコーヒーやエスプレッソコーヒーという新たなクラスを簡単な付け加えだけで造り出すことがじゃな…… 」

「俺、魔法制御の練習の時間だから、ちょっとやってくる!」


「あーこら、まて和也。 わしの話を最後まで聞いてゆかぬか!」


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