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ある日〜森の中〜♪
「あるぅ日〜森の中〜」

薄暗い不気味な木の生える森の中に舌足らずな歌声が響く。
不気味に折れ曲がった木々の隙間から得体の知れない甲高い声が聞こえる森だ。
密集した木のせいで視界が悪く、いつ何が出てきてもおかしくない雰囲気が漂っていた。

「熊さんにぃ〜であぁた〜。」

もちろん熊も出そうである。

「…マーブル。やめて。しゃれになりませんわ。」

楽しそうに歌うマーブルの横でサシャが嫌そうに顔を顰めた。
二人とも、先ほどとは違い、制服姿だった。
森の中を歩くと言うことで、大賢者が少しは慈悲を出して彼女たちの制服を森の中へ転送してくれたのだ。わざわざ転送先を近くにある中で一番高い木の天辺という小沢しい嫌がらせも忘れなかったが。
うきゅ?と小動物のような声を出し、マーブルが首をかしげた。

「なんでぇ〜?全然景色変わんないし、歩き疲れたし、つまんないんだもん。歌でも歌わなきゃやってられないよぉ〜。」
「ですけど、歌う歌にも内容を考えて…。」
「まあ、確かに退屈だよね。」

そのすぐ前を歩いていたカールが後ろを振り返りながら、会話に入ってくる。

「木には特徴がありすぎて逆に目印がない状況だし、みんな形が歪だからぱっと見、さっきから同じところをぐるぐると回っているような感覚。さすがにちょっと飽きるよね。はは。」

どこか乾いた笑い声をもらすカールに、サシャが疑惑の目を向けた。

「ちょっと!道案内役の貴方がそんなこと言うなんて!非常識ですわよ?それとも、まさか道に迷ったとでも言いますの!?」
「………そのまさかだったりして。」
「え?…えええーーーーー!」

賢者の嫌がらせで森に飛ばされて一刻ほど。
メントスたち五人は今だ森の中にいた。
理不尽かつ子供染みた賢者の要求を五人が突っぱねたためだ。

「まったく。どうしてこんな目にあいますのよ!」

サシャの独り言めいた言葉にアポロがゆっくり答えた。

「……それは、メントスが…」
「…………。」

全員が賢者の要求を聞いて、それぞれの判断を考えようとした際、真っ先に空中に向かってメントスが吼えたのだ。

「『誰がお前の要求なんか呑むか!ボケ賢者!』って…。」
「ああ、そうだったねぇ〜。」

にこにこ弟の横で相槌を打つ姉。
一見ほのぼの風景だが、背景が不気味な森なのであまり和まない。

「で、その後に、言わなきゃいいのに『俺達(・・)を見縊るなよ!』とか言うから。私達の意見も何もなく五人全員の意見がそれにされちゃったんだよねぇ〜。」

笑い顔のままのマーブルだが、顔とは裏腹に、その言葉には鋭いとげが感じられる。

「そのおかげでぇ〜、みんなまとめて森を彷徨うことになっちゃったんだよねぇ〜。」
「おいおい、あんまりメントスをいじめるなよ。」
「あら、カールはメントスの肩を持ちますの?」
「まあ、意見を全然聞かなかったのは腹が立つけど、結局同じことを言うことになっていたと思うしね。」
「……あの噂は本当だったのかしら?」
「本当なんじゃないかなぁ〜。」
「…何がだい。」
「…メントスと、カールが、付き合ってる。噂。」
「な!何だよ!それ。んなわけあるか!!!」
「だぁってぇ、なんかカールってメントスに妙に優しいしぃ〜。」
「断じて、違う!って言うか、今回のことは全面的にメントスが悪い!!」
「あ、あっさり意見を翻しましたわね。友達がいのありませんこと。」
「白状だねぇ〜。」
「どっちにしろと…?っていうか『薄情』だし…。」

カールはいろいろな意味で絶望的に肩を落とした。

「…………。」
「それにしても。メントスは静かですわね。」
「流石にぃ〜、たっかい木の天辺と地面の往復十回は堪えたんじゃない?」

女性二人が後ろを振り向くと一行の最後尾に幽鬼のような姿のメントスが危なげな足元でゆらゆら歩いてくるのが見えた。
賢者の要求を突っぱねると言うのは確かに皆の意見の一致することだったが、何の意見も聞くことなく勝手に返事をしたことで、メントスはみんなから罰として、賢者が森歩きに必要なものとして送って来たものの回収をさせられていた。
サシャやマーブルの制服など。それらは小さな包みの形で十個ほどにわざわざ小分けされ、それがいちいち届けられる先が最も高い木の天辺なのだ。
しかも一度地面に降りないと新しい包みを送ってこないと言う徹底振りである。
無駄なことに苦労を惜しまない大賢者だった。

「それもあるかもしれませんけど、結局一番の原因はあれじゃなくて?」

そう言ってサシャはメントスの背中にある物体を指差す。
それはメントスの身の丈ほどもある大剣である。
大賢者が中途半端な優しさで制服以外に持たせてくれたものだ。
一応魔物が出るかもしれないということで、武器をそれぞれに一つ持たせてくれたのだ。
そんな心遣いをするなら、魔物がでそうにない場所を狙って飛ばしてくれればいいのにと、サシャは溜息を付く。
カールはショートスピア、サシャはショートボウ、アポロは鋼の剣、マーブルは棘つきメイス、そしてメントスはあの重そうな大剣である。
一応、武器を渡す段階で大賢者がそれぞれの希望の武器を聞いて、送ってくれたものだ。木の上に。

「背負って歩くだけで、あれでは使えませんでしょうに。大賢者も人が悪いですわね。メントスなんて見ただけであんな大物使えないことわかるでしょうに。それにしてもなぜ、メントスはあれにしたのでしょう?」
「剣聖オーリード。」
「ん?アポロ?何か言ったぁ?」
「オーリード…大剣の使い手、メントス、ご先祖。」

途切れ途切れの弟の言葉にマーブルがぽんと手を打った。

「なぁ〜るぅ。憧れのご先祖様の影響かぁ。」

剣聖オーリードは大剣の使い手と伝説では語られている。
そして、メントスはそのご先祖に憧れているのは、本人は隠したがっているが、周りには周知の事実だった。

「でも、ご先祖様はご先祖様。私も弓匠には敬意を抱いていますが、今の私達が伝説の英雄と同じ武器を使うのはいくらなんでも無茶ではなくて?十五になってもわからないのかしら?」
「それは、流石にメントスが一番感じていることなんじゃないかな?」
「カール。」

いつの間にか、復活していたカールが苦笑する。

「だって、ご先祖様は軽々扱ったって伝承なのに、自分は持って歩くだけで精一杯じゃ、情けないじゃない。」
「…カール。」
「なんだい、サシャ。」
「やっぱりカールはメントスのこと…。」
「だから!ちがうって!!俺はちゃんと女性が好きで…!?」
「またまたぁ〜♪」
「って、マーブル!『またまたぁ〜♪』ってなに?!」
「…お前ら。」

地獄の底から響くような声が聞こえた。
見ると地獄の幽鬼のような表情でこちらを向いているメントスと目が合った。

「あ、メントス。復活しましたの?」
「さっきから黙って聞いていれば…好き勝手いいやがってぇぇ〜。」

ぶるぶる震えるメントスにマーブルがとてとて近づいていく。
それから震えるメントスの横に立つと指を一本突きつけた。

「えいっ!」
「!ぐわっ!」

マーブルがわき腹を突くとメントスはバランスを崩してひっくり返った。
マーブルは見た目より力はあるほうだが、それでも指一つでつつく力など高が知れている。
どうやら、まだ先ほどの木登りと大剣のダメージが回復していないようで、今しゃべったのもなけなしの力だったらしい。

「ぐ、ぐぞ……。」
「…少しは重さに慣れたかと思いましたけど、やっぱりまだ、やせ我慢ですのね。使えませんわ。」
「まだまだだねぇ〜。」

女性二人は倒れて痙攣しているメントスを見下ろしながら冷たく言い放つ。
鬼である。
カールは心ひそかに女性陣に逆らうのは自重しようと心に決めた。

「そんなことより、早く帰らないと。退学。」

今まで、いつもだが、静かなアポロが脱線しすぎる会話をさえぎった。
そこで、はたっとみんな、この森の中の行軍の目的を思い出す。

「そう言えば、私達迷っていたんじゃ…。」
「カールぅ〜。ここどこ?」
「今更、聞く?それ。」

女性陣の変わり身の早さに思わず、冷や汗を流してしまうカールだったが、気を取り直す。

「簡単に説明すると…。」

近く落ちている枯れ枝を拾うと、森の一部地面がむき出しになった部分に小さな円を書き、それを囲むようにもう一つ大きい円を書き足す。

「オームの森って構造事態は簡単なんだ。中央の魔物のいた原生林を囲むみたいに迷いの森が広がっている。中央の原生林は別の名前で呼ばれているし、ちょうどドーナッツ型にオームの森があると思って。」

それから小さな円の中心から外側の円に向かって矢印を書き足す。

「オームの森の最大の機能は中央の魔物の住む領域を封じることだから、外側から中央に向かうにつれて迷いの効果も高くなっている。言い換えれば、森の木々の密度も中心に向かうにつれて濃くなっているはずなんだ。」
「だから?」
「つまり普通に考えれば、木の密度が薄いほう、明るい方向に行けばとりあえず、森を抜けられる。オームの森の周りには集落が多いし、そこで聞けば学園に帰る方法もわかるかと思っていたんだけど。」
「………。」
「やっぱり、魔族を封じるくらいの森だ。そんなに単純じゃないよね。はは。」

そう言って、カールは枯れ枝を放り出しながら、空を仰ぐ。

「役立たず。」
「…ぐっ!」

ずばり、アポロがカールを突き刺す一言。

「…散々、薀蓄たれて、解説図までつけてそんなですの?」
「結局、知識だけあっても結果がついてこなきゃ意味ないよねぇ〜」
「ぐぐぐっ!」

さらに女性陣二人の追尾がかかる。
そして最後に三人がそろって。

「「「ふ〜。」」」

首を振りながら溜息を付いた。

「なんなんだよ!お前らは!お前らだってわかんないだろうが!」

とうとう泣きの入ったカールを無視して、サシャが困ったように頬に手を当てた。

「まあ、ここでカールを責めたところで、何の解決もされませんしね。」
「それより、だんだん日が暮れてきたよぉ〜!やだよぉ〜、こんなところで野宿なんて!」
「無視かよ…。」

脱力気味のカールに肩を落とす。
空が青から紅に変わろうとしていた。

「さて。これから、どうしましょ…。」
「しっ!」

鋭い声がサシャの声をさえぎる。
見ると、さっきまで地べたに這い蹲っていたメントスが、起き上がり、口の前に人差し指を立てていた。

「メントス!?どうし…。」
「…ひめい。恐怖。狂気。流れてる。」

今度はアポロの声がさえぎる。
精霊使いとも言われた狂戦士ラーガの血を引き継ぐアポロは人より、周囲の気を読むことに長けている。
周囲に何か起こった場合、一番に気付くのは彼だ。
そのアポロがある森の一点をゆっくり指差した。

「聞こえる。むこう。」
「メントス!」

カールの声に目を向けると、メントスが今までへばっていたとは思えないスピードでアポロの指差す方向に走っていくのが見えた。

「一体何ぃ〜!」
「ともかくメントスを追いかけない!」

カールも慌ててメントスの後を追う。
こんな森で仲間とはぐれるのは命取りになりかねない。

「ああ!もう!世話の焼けますクラスメイトですこと!」
「…同意。」

サシャもアポロもマーブルも慌てて二人の後を追った。
今回、大賢者は出てきません。
期待したかた申し訳ないです。
そしてさらにこれから何話か出てきません。

森から聞こえた悲鳴。
一体何が起こったのでしょう。
メントスたちは無事学園に戻ることができるのか〜!
では次回。
特設頁

大賢者の教室入り口





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