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×××があらわれた。
「とりあえずここから脱出してからチェルシーを探すといった方法のほうが正しいですかね。」

ここがどこなのか、一体何がこの塾で起こっているのかまったくわからない状況だ。
それに先ほどのチェルシーと男の会話で気になる点もある。
断片的にしか聞こえなかったが、男は確実に口にしていた。
組織。異端。禁忌。
これらの単語が示すもの、そしてアッセの存在。
なんとなく嫌な予感がした。

「…それにしてもさっきの声、どこかで聞いた気がしたのですけど…。」

男の正体が気になったが、どうにも思い出せない。ただ最近聞いたばかりのような気がするのだが、思い出せず唸る。

「サシャ、どうかした?」

唸るサシャの様子が気にかかったのかアポロが声をかけてくる。そう言えば、アポロも一緒に聞いていたのだ。でもサシャの耳にもかすかにしか聞こえなかった声だ。
サシャよりも壁際、奥のほうにいたアポロに聞こえたかどうかわからない。
だが、もしかしたらわかるかもしれないと思い、聞いてみる。

「あ、アポロ。さっき、チェルシーと話をしていた男のことなんですけどね…。」
「塾長?」
「そうそう、塾長…て、あ!」

そうだ。思い出した。あの声は確かに数時間前に会ったあの塾長の声だった。だが言葉を交わしたのは数分のことだったのですっかり忘れていた。

「アポロ、良くわかりましたわね。」
「…でも、なんだかよくない話、してた。」
「会話も聞き取れましたの?」

聞くとそれには首を振った。

「断片。声小さすぎて。」
「そう。」

それならばサシャも同じであるのであまり当てには出来ない。
とりあえず、サシャは辺りを見回した。
そこには簡易のベットだけで、人の姿は自分たち以外にいない。
そっと、外に通じるであろう扉に近づく。
外に人の気配がしないのを確かめて、そのノブを回してみるが。

「…やっぱり開きませんわよね。」

塾長はチェルシーを連れ出した後、律儀にも牢屋の鍵を閉めていったらしい。
鉄の扉は既に閉じられている。
唯一の出入り口がふさがれている以上、最初から復讐はつまずいてしまった。

「…一体どこに連れて行かれたのでしょう。」

扉の隙間から外が見えないかと思って、隙間に目をやるがぴったりと閉じていてまったく開く気配はない。
仕方なく扉から身を引き、牢屋の中央まで戻る。
それから牢屋全体を見渡した。
石作りの手狭な牢屋だ。大分古いらしく壁の所々が苔むしている。
そこに置かれているベットもお世辞にも快適とは言いがたく、硬い表面に申し訳程度の毛布が掛けられているだけだ。
チェルシーに最後に出会ったのは一昨日だ。
どう言う経緯でここに閉じ込められるに至ったかはわからないが、閉じ込められて長く考えても一日くらい。あまり長い間閉じ込められていなかったことにほっとする。
こんな空間にいくら庶民の出とはいえパールディー魔法学園に通うほどのお金持ちである彼女が長くいれば、普通の人間より早く参ってしまったに違いない。
それでも、いる時間が短くても陰鬱な気分にさせてくれる空間である。
サシャはチェルシーのことを考えた。
牢屋に閉じ込めるほどだ。一体何のために彼女を牢屋に閉じ込めていたのかはわからない。だが、先ほどの会話を見るに何か勘違いで捕らえられているような気がしないでもない。

(チェルシー大丈夫かしら。)

先ほどの様子を思い出し、少し落ち込む。
チェルシーはわざわざ見つからないように壁の奥へ隠れるように示して、塾長の目をごまかす為に自分から扉に近寄ってくれた。
それなのにサシャは先ほど彼女が連れて行かれたのを黙って見送ってしまった。それどころかどうでもいいなどと思ってしまった。

(無事でいてくれるとよろしいのですけど。)

思わず考え込んでしまうが、考えても何も変わらない。
とりあえず、ここを出るのが先決と、出口を探すために壁を調べようとしたときだった。

べしょり。

突然肩に何か振ってきてサシャは水滴でも落ちてきたのかと、何気なく肩を見て硬直した。

「………っ!!!!!!」

悲鳴を上げなかったのが僥倖としか言いようがない。
サシャは肩に乗る緑色の液体とも固体とも付かないゲル上の何かを見て硬直した。
瞬きも忘れてそいつを見やると、中央に何か玉のようなものを持っているその身体の表面がこぽこぼと蠢いている。細かな触手が伸びたり縮んだり。生きているらしい。サシャは気が遠くなるのを感じた。

「っ!サシャ!」

アポロの声が聞こえたかと思うと、彼の手が固まって動けないサシャの肩からゲル状の生き物をひっぺがえした。

「っ!」

ゲル状の生き物を掴んだ瞬間顔を歪ませて、アポロはそれを力いっぱい地面に叩き付けた。

「っ!かまれた…。」

掴んだ手を痛そうに振るアポロ。
確かにその手にはくっきりと何かの歯形のようなものが見え、血が滲んでいる。
一体あの物体にどうやったら噛む要素的な何かがあるのかはわからないが、それをやられたのが自分でないことをサシャはアポロには悪いが、心底誰かに感謝した。
アポロが地面に叩きつけたことで緑色の何かは一度はでろりと地面に広がった。
死んだかと思ったが、突然再び動き出し、何度か収縮を繰り返し、中央に固まる。
それがちょっと中央だけがこんもりとした形に固まったのでまるで割って更に載せた生卵のようだとなんとなくサシャは思って、瞬間嫌な気分に陥った。暫く卵が食べられないような気がした。

「な、何ですの?あれは!?」

あまりの気持ち悪さに近づくことすら怖くて、思わずアポロの後ろにサシャは隠れた。
幸いさほど俊敏な属性はなく、緑色の物体は地面に蠢き続けている。

「…スライム。」

ポツリとアポロがもらす。
その言葉にサシャはあまりない頭の引き出しをフルに引き出し、目的の知識を引き出した。
スライムは超初級の魔物だ。キラートスより劣るほど弱い魔物で、かの聖戦の際もあまりの弱さに封印の対象とならなかったという噂すら持つほどの地上最弱の魔物である。
あらゆる魔法に弱く、またゲル状の身体だが、剣や弓の攻撃も有効。
場合によっては踏むだけで殺せる。
生息地は水辺やじめじめした森、沼、地下。人のあまりいない古城などに生息する。
だが、その外見によってコッカローチと並び称されるほど女性受けの悪い生き物である。
とはいえスライムはその弱さからわざわざ人前に姿を現すことは少ない。人里には決して現れないし、襲ってくることも稀だ。襲ってきたとしても単体ではあまり脅威ではない。
半ばその存在自体伝説と化すほど人の前に姿を現さない。

「…はじめてみた。」

アポロの言葉に、サシャは出来れば一生見たくなかったし、触りたくもなかったと思った。
だが、そこにある以上現実を無視するわけにはいかない。

「…どうしますの?これ。」

サシャはできるだけスライムとは間を取りつつ、だが、いつ襲われてもいいようにアポロを盾にする形でそれを見ていた。
アポロは盾にされているのがわかっていてもあまり気にせず首を傾げた。

「倒すのは簡単だけど。」

なんせ踏むだけで倒せる魔物だ。動きも見ているとまったく機敏ではない。

「ふ、踏みますの?まさか。」
「そのつもり、だけど?…なんでサシャ、遠くに、いくの?」
「いえ、いいえ。気にされないで。」

スライムを踏み倒すのは簡単だが、その死体の飛沫が服に付いたりする。
スライムの緑は一度服に付くとなかなか落ちないという話を聞いたことがあった。
それにスライムは踏んだりして倒すと非常にその死体が臭いことが有名な魔物だ。
この狭い空間で踏んで倒すのは避けたいが、それ以外に方法はないので、とりあえず隅に避難するだけにサシャは妥協点を見つけた。

「…で、できれば何もせずに置いておきたいのですが。」

いつまでこの牢にいるのかわからない状況で噛まれる可能性のある魔物と一緒だというのは流石に臭いや汚い以上に危険、な気がする。
本当はスライムを倒す一番の方法は火にかけることだ。この狭い空間で火を燃やすのは危険だが、スライム一匹程度を燃やすのならばなんでもない。
だが、火気の装備は何もない。スライムはよく燃えるのでライターなどの小さい火でも十分殺せるのだが。
あまりに踏み殺すのを嫌がる様子のサシャに流石にアポロも何事か考えていた。
一瞬どこか遠くを見つめたかと思うと、徐に溜息を付いた。
ほいほい!
更新!
スライム。一度は出しておかないとファンタジーの名折れです。
と思っているのは私だけでしょうか。
さ〜て。次。
特設頁

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