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最終奥義
「サシャ。実はね、私も最近まで白魔法使えなかったんだ。」
「え?」

一瞬何の話なのかわからず、呆然とするがチェルシーはサシャの様子を気にせず、にっこりと笑った。

「パディ先生に特訓してもらってたんだよ。」
「ええ!?大賢者に?」

あの傲慢な大賢者が、個人授業などするのかと驚いて声を上げる。

「…よくあの大賢者がそんなことをしてくれましたわね。」
「うん。私が治療者ヒーラーになりたいって言ったら、特別にって。」
「治療者?貴女、そんな夢があったんですの?」

治癒者とは魔法によって病気や怪我を治す職業のことである。
だが、魔法の知識と同様に医療関係の知識も必要であり、国家資格もとらなくてはならない人気だが、かなり勉強が出来ないと難しい職業だ。

「親が経済学者になれって言ってたのは前に話したっけ?」
「ええ。聞きましたけど。でも治療者というのは…。」
「うん。すっごくおこがましいと思うよ。自分でもなりたいなんて。でもさ、言ってもパディ先生だけが笑わなかったんだよ。」
「え?」

あの万年人を馬鹿にしたような態度の大賢者がこの大それた夢について笑わなかった。

「意外だよね。私の思ったけど。でもさ、同時に怒られもしたんだ。なんで早くに言わないって。」
「…それは。」

仕方がないことではないだろうか。
だって普通クラス、場合によってはAクラスの人間だとてなるのが難しいのが治療者というものだ。Zクラスの人間がそれを言えば、笑われるのは必死で誰も相手になどしない。だから口にするのはかなり勇気のいることだ。

「私もね。本当は言うつもりもなかったんだよ。でも、ここでは状況は端折るけどなんか言ったら、それならなるための対策を練らなくてはって。」

サシャは絶句した。
本当に意外だ。というより何を考えているのだろうか。みんなに見放された人間のたまり場たるZクラスの人間を治療者にしようなど。それならば、彼女を経済学者にしようとした彼女の両親のほうがまだまともだといえる。

「でねサシャ。そのときにパディ先生に言われたんだよ。『どんな者にもなれない人間はいない。特別な才能なんて最初からない。だから使えない魔法なんてないし、使えない人間なんてないんだって。』って。」

それは知っている。常々何度も大賢者の授業で言われる言葉だ。
だが実際にはそうならない。サシャには白魔法は使えない。

「でね、そのときに特別に教えてくれたことがあるのよ。魔法を使うための最終奥義。」
「え?」

そんなものがあるとは初耳だ。
そんなものがあるなら最初から言えばいいのにと思わず、サシャは大賢者を恨んだ。

(そうすれば、こんな風に悩む必要もアポロの前で過去暴露するなどという恥ずかしい経験もしないですんだのに。)
「知りたい?」

悪戯っぽくチェルシーが微笑む。サシャは何度も頷いた。

「そ、じゃあ教えるけど、あのね…。」

そっと、チェルシーが内緒話をするように耳に口を寄せてくる。
取りこぼさないように耳をそば立たせるが、チェルシーが口を開く前に、突然人の足音が聞こえてきた。

「あっやば!もしかして巡回?」

ぱっと慌てて唯一の出入り口である鉄扉にチェルシーが振り返るのを、慌ててサシャはその手首を掴んで止めた。

「チェルシー、教えてくださいまし!」
「今はそれどころじゃ…。見つかったら君達も何されるかわかんないんだよ?隠れて!」
「そんなことはどうでもいいんですわ!それより魔法を使える方法を!」

サシャは食い下がった。
今聞かなければ、一生白魔法が使えなくなりそうな気がしたからだ。
勿論そんなわけはないだろうし、この状況で食い下がる意味のなさはわかっていたけど。

「どうしても使えるようになりたいんですのよ!」

もうこれ以上誰かが傷ついているのに何も出来ない悔しさを味わいたくなかった。
必死の形相のサシャに困惑気味にチェルシーが見返す。
と、突然サシャの後ろから腕が伸びてきて、チェルシーを捕まえていたサシャの腕を無理やり引き剥がした。

「……。」
「アポロ!何を…もがっ!」

サシャの腕を捕らえたアポロが無言でサシャの首付近に腕を回して、ついでに手で口を塞ぐ。突然羽交い絞めにされて口を塞がれたサシャは目を白黒させた。
だが、そんな様子のサシャを気に求めず、アポロはチェルシーを見た。

「ごめん。チェルシー。…行って、お願い。」
「…うん。ごまかすから、そこの壁の影に隠れていたら扉からは見えないから。絶対に動かないで。」

チェルシーの指示にアポロはサシャへの拘束を解かず頷いた。
それを確認して離れようとするチェルシーに慌ててサシャは状況も忘れて暴れた。

「ももがっむが!」
「っ!サシャ!」

アポロの小さいが鋭い名前を呼ぶ声を耳元で聞こえたが、サシャの耳には入らない。
その様子に一度行きかけたチェルシーが、振り向いた。

「ももがっむっむー!」

教えて欲しい。無力な自分が一番嫌だ。
何も出来ないことを、何の力もないことを認めるのが嫌だった。
アポロに押さえられながらも暴れるサシャとどんどん近づいてくる足音に逡巡していたが、意を決したように、サシャに素早く近づくと、その耳元で何事かささやいた。
「……。」
サシャはチェルシーの姿に一瞬目を輝かせたが、言葉を聞くと同時に落胆した。
ささやかれた言葉は予想とは違うもので。そのことでサシャは脱力したように暴れるのをやめた。
それを確認したチェルシーが今度こそ二人のそばから離れる。
アポロは突然動かなくなったサシャを心配そうに覗き込んだが、時間がないことがわかっていたので、その身体をそのまま引き摺るようにして、壁の影に隠れた。
その間サシャは何も言わず動かずになすがままになっていた。
それから鉄の扉に錠が差し込まれる音が高く響いて、鉄の扉が内側に開く。
扉の影で開けた人物の顔は見えない。だが、扉の前で何事もなかったかのように待ち構えていたチェルシーとその人物は二、三言話しているのが見えた。
ひどく声を潜めているようで、相手の声は聞こえない。それに応じるチェルシーの声も相手の声が聞こえない分、要領を得ない。何とか踏み込ませないようにとの配慮してくれているようで、相手の言葉に慎重に答えているのを、まるで他人事のようにサシャは見ていた。
すみません。
前回のあとがきはどこへやら、一月近く空きました。
他のを書いたり何なり、で。
せめて切りのいいとろこまでかけって、ねえ。
それでもまだまだ、続きますよ。次回こそはさほど間を空けないようにします!では!
特設頁

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