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ラージとショート
ばん!
突然大きく扉が勢いよく開かれる。
メントスは思わずびくりした。が、外に出さないようにあくまでも平然とした態度を貫く。
もともと秘めごとには向かない性質だと言う自覚はある。
秘め事と言うのは妙に人を妙に浮き足立たせるものだと感じる。
妙な態度にならないように、なるべく平然を装って扉に注目する。
扉のから入ってきたのは先ほどアッセにラージとショートと呼ばれ、男子生徒を取り押さえていた少年達がだった。
先ほど、かくまうように頼んできた男子生徒は彼らに追われてここに来たと話していた。とりあえず、メントスたちは事情がわからないまま、彼をかくまうことにした。
あの時錯乱しておかしな行動をとっていた男子生徒をかくまうのもどうかと感じたが、どう考えても、あのアッセにただ黙って従っていた彼らのほうがよりおかしいように感じたからだ。
とりあえず、メントスたちは彼を隠し、追っ手となる彼らの目から逃すべく、「見てないよ」的な振りをすることにしたのだった。
メントスは改めて彼らの容姿を観察する。
ショートもラージも同じような印象の無機質で感情の篭らない目をした人形のような少年だった。両方とも黒髪緑目の色白で綺麗といえる顔立ちだったが、まったく個性と言うものが見えない顔をしていた。よく似た面差しで、一瞬見ただけではどちらがどちらなのかわからない。わずかにショートと呼ばれる少年のほうが背が低く、それで判別できるくらいだ。
そんな少年達は無遠慮に応接室に入ってきたかと思うと、こちらを一瞥する。
それからショートと呼ばれたやや小柄な少年がぼそりとつぶやいた。

「…転校生の?ここで何をしている?」

無機質で冷たい視線にひやりと背中が冷えたが、だがそれよりもその口調の妙に見下した感が気に障り、メントスは半眼を返す。

「休んでんだよ。見りゃ、わかるだろ?」

だが、メントスの睨みもまったく意に介さずショートが冷ややかな視線のまま淡々と言葉を口にする。

「既に休み時間は終わっている。」
「だからどうした。それよりお前ら、突然なんだよ。ノックぐらいしろよ!…スモールとロング…だっけ?」

大真面目にボケるメントスにマーブルが小首をかしげる。

「え〜。スピアとソードじゃなかったっけ?」
「…遠くなってどうするの?ラージとショートでしょうが。」

カールが疲れたように、突っ込む。
だが、そんな彼らのやり取りを完全無視して、ショートが完結に聞いてきた。ラージは口を開かない。

「そんなことはどうでもいい。こっちに男子生徒が来なかったか?」
「……。それが人に物を聞く態度かよ。」

メントスは本気で憮然とした。
なんだか、非常に聞き方が気に食わない。だがそんな様子のメントスをさらに無視して再び聞いてくる。

「もう一度聞く。男子生徒が来なかったか?」
「見たよ?」

突然、横からカールが口を挟む。
え?と思うが、カールはなんでもないことを口にしたときのようにソファでくつろいだままだ。
メントスは訝しげな視線をカールに送った。たしか知らない振りを擦るのではなかっただろうか。
だが、カールのことだけに何か考えがあるのだろうと、あえて黙って成り行きを見守ることにする。
そうしているうちにもラージとショートの無機質な視線がカールに集中する。その横にいたマーブルが思わずびくりと顔を青くした。

「…どこにいった?」
「…メントスの言葉聞いてた?それが人にものを聞く態度?メントスに言われるようじゃ君たち、人間として終わっているよ?」

顔は微笑みながら、毒を吐くカールにどういう意味だとメントスが半眼を送るが、誰も相手にしなかった。

「……………。」

感情の見えない四つの視線が、観察するように向かってくる。
だが、カールは臆することなく笑みを崩さない。
暫く、無言の応酬のあと、先に根負けしたのはカールだった。

「…ま、いいよ。礼儀を知らない野郎とどれだけ見詰め合っても時間の無駄だしね。あの人なら来たけど、僕達の顔を確認するなり、そこの窓から出て行ったけど。」

カールが部屋の南側に位置する窓を指差す。そこは少し開かれ、吹いてくる風にカーテンがわずかに揺れていた。

「…ぶつかって謝りもしないででていっちゃったよね。」

赤くなった鼻の頭を押さえて、嫌そうにマーブルが相槌をうつ。
だが、二人の少年の視線はカールからそれることは無かった。

「…なにかな?」

カールが頬杖をつきながら聞くと、ショートが視線をそらすことなく完結に答えた。

「…嘘をつくな。」
「うそ?…嘘を言う必要性は感じないけど。それとも彼がここにいるとでも言うのかい?僕の言葉が信じられない?」
「信用に値しない。」

きっぱり言い切られ流石に、気分の悪いカールにメントスがちょっとにやけた視線を向ける。

「信用無いな。カール。」
「うるさいよ。メントス。…はあ。やれやれ。僕ほど絶対的に信頼できる男はいないと思うのだけどね。悲しいよ。」

盛大に嘆いてみせるカールに少年達は取り合わない。

「この部屋を探させてもらう。」
「…別にいいけどさ。ここ僕達のものじゃないしね。」
「お前達はここから出ろ。」
「え?」

突然の少年達の命令にマーブルが驚いて声を上げる。

「…なんでお前らの指示に従わなきゃいけないんだよ。」

流石にイラついたようにメントスが睨むが、少年達の表情は変わらない。

「すでに、講義は始まっている。お前達は教室に戻らなければならない。」
「だったら、あんた達は?あんた達だって、塾生でしょ?」

マーブルが言うと、ショートは冷たい視線を向ける。

「俺達は、講師の命で動いている。お前達とは違う。」
「なんだよ。その理屈は。」

憮然とするメントスの前で、カールがソファから立ち上がる。

「ま、いいじゃない。出て行くくらい。」
「カール?」
「教室に戻る戻らないは別として、僕はこんな礼儀知らずと一緒の空間にいたくないよ。」

そう言いおいてとっとと扉に向かって、歩き出す。

「っちょ!待てよ!カール。」

慌ててメントスとマーブルも追う。
扉を開いて外に出ようとする瞬間、カールは振り返って、中の少年達に声をかける。

「人の言葉は素直に信じるものだよ。ここにあの生徒はいない。」
「……お前のような男は信用できない。」
「あっそ。じゃあ、存分にそこにいて探していたら。」

カールはにこやかに笑った。
次の瞬間、何かを悟ったようなショートが目を見開いたかと思うと、突然こちらに駆け出そうとするのが見えたが、それよりカールが扉を閉めるほうが早い。
カールは扉を閉めると、素早く、呪文を唱えた。


暗き血の楔よ。
地獄の亡者を絡めとる鎖よ
我が血の盟約にのっとり
この扉を封じよ


血封印(ブラッド・シールド)!」

力ある言葉とともに、小さな放電の後、突然カールの手のひらに五亡星状の亀裂が刻まれ、血が噴出する。
痛みに顔をしかめるカールだが、そのまま扉に向かってその手を翳すと、放射状に傷と同じ形に血が扉に向かって飛んだかと思うと、血で赤い五亡星が扉に描かれる。赤い光がその周りを取り巻き、ばちんと言う音とともに魔法の効果が完成する。

「っっつぅ!。」

瞬間、カールが傷の走った手を押さえたまま、顔をしかめた。
その声で呆然としていたメントスたちが、我に返った。

「わきゃわ!カールぅ!大丈夫!?」

マーブルが慌てて駆け寄る。
傷を押さえたカールの手の隙間からはたはたと血が流れ落ち、床を汚す。
それを見たメントスが、慌てるマーブルを叱咤した。

「慌てる前に、マーブル!早く、回復魔法!」
「あ、そうだった!今…。」

慌てて呪文を唱えようとするマーブルに、カールが手を振ってそれをやめさせた。

「…いや、いい。」
「何でだよ!痛くないのか?」
「痛い!痛いけど、だめ。直したら、魔法の効果が無くなる。」

ちょっと情けない顔をしているカールだが、その目は真剣でマーブルから怪我を遠ざけるように後ろへ引いた。

「…どういうことぉ?」
「黒魔法は何かを代償に力を行使する術だから。今の魔法は血を媒体にして扉を封じるものだから、血が流れている状態のときにしか効果がない。傷を塞いだりして血を止めちゃうと効果がなくなるんだよ。」
「黒魔法!?お前使えたのか!?」

メントスは驚いた。
黒魔法は魔法の中でも扱いが一番難しい。自己の属性しか使えないが一番扱いやすいのが、精霊魔法で、その上が白魔法、そして黒魔法が一番扱いにくい魔法となる。
非常に高度で、白魔法さえ苦労しているZクラスの人間が扱える魔法では決して無いのだ。

「う〜ん。初めて使ったけど、もう出来れば使いたくないな〜。」

少し涙目の少し情けない様子のカールが、おどけたように微笑む。
その顔を呆然と見つめる。

「それよりさ、放っておいても、血って止まっちゃうんだよね。だから、効果が続いている間にここを離れたほうがいい。」
「……そうだな。おい。」

そう言ってメントスは壁際の廊下においてあった巨大な飾りつぼをこつんと叩く。
すると、なんとその口から先ほどの男子生徒がのそりと出てきた。
メントスたちはとりあえず、ここに入ってきた時点では姿の見えなかった追っ手の目をごまかすため、男子生徒が入ってきてここにかくまっている風を装って、実は廊下のつぼの中に彼をかくまっていた。
そして追っ手が部屋の中に来て彼を探している間に、カールが扉を閉じる方法を知っているというので、扉を封じてその隙に逃げるように作戦を立てたのだった。
まさかその扉を閉じる方法が黒魔法だとは思わなかったが。

「…………………………。」

つぼから出てきた男子生徒はこちらをうかがう様にどこか怯えた風に見える。
だが、とりあえず今はそれを構っている場合ではない。

「ともかくあの二人に会わないようべつに場所を移そう。」

メントスたちと男子生徒は頷いてその場を後にした。
特設頁

大賢者の教室入り口





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