ようやく出会ったりして
不思議な夢を見た。
メントスはどこかで寝ていた。
夢の中でさらに寝ているというのは不思議に感じたが、ひどく安らいでいたので気にならなかった。
寝ている体に意識を向けると不思議と後頭部から首筋にかけてが暖かい。
柔らかな感触に誰かに膝枕してもらっているのだと感じた。
メントスは物心ついて以降誰かに膝枕などしてもらった覚えは無いが、それが膝枕してもらっている感触だと言うのはなぜかわかった。
一体誰が膝枕していてくれているのか。
メントスは膝枕の主の顔を確かめようと閉じていた目を開けようとした。
だが、なぜかひどくまぶたが重くて開かない。
確かめようとする意識と閉ざそうとする意識がメントスの中で鬩ぎ合う。
いくらかの鬩ぎ合いの後、ようやく、瞼が開く。
うっすら開いた視界に光が差し込み、闇になれた目に付き刺さる。
ぼんやりとした輪郭だけが浮かび上がる中、メントスはその膝枕の主の顔を見上げようとして…。
****
「いつまで寝とるかぁ!!」
ぱこぉん!
頭に強い衝撃を受けて、一気に頭が覚醒する。
「のぐわっ!」
あまりの強烈さに今度は脳浸透を起こしそうだ。
「きゃあっ!メントス!ちょっ…、あなた何を考えてますの!?」
「何って、気付け。」
珍しく慌てた様子のサシャの言葉の次に聞き慣れない声が、聞こえた。
「おーい。生きてるカイ?」
耳元でカールの声。そこで、メントスは自分の視界が暗いままだと気が付いた。
瞼を持ち上げようとしたが、そんな小さな行動ですら全身に、強烈な痛みが走りった。
もちろん目は開けられない。
「ぐっ!」
「あ。まだ、動かない方がいいよ。なんせ、攻撃魔法を真正面から扉ごと受けたから…。」
そこまで言って、カールは口ごもる。
カールを黙らせるとは、なかなかすごい状態になっているよいだが。
「…マーブルは?」
「残念ながら、遅刻してるんだ。アポロ同様。」
間の悪い。メントスは心の中だけで天を仰いだ。
リンディアラの双子は聖女の血を引くだけあって、回復魔法が得意だ。
誰かが怪我をした時、回復魔法を掛けてくれる。
気が向いたときだけだが。
だが、回復魔法なしに現状から回復するのはかなり時間が掛かるように思われる。
しかも回復魔法と言うのは怪我から時間が経てば経つほど効きにくくなるという特性を持っているため、このままいつ来るとも知れない双子を待つのは危ぶまれた。
「仕方ない。保健室に連れて行こう。おい、誰か手伝って…。」
「…何をしている?」
また知らない声が聞こえた。
「なにって、見てわかんない?保健室連れて行くんだよ。誰かさんの尻拭い。邪魔するならどいて。」
カールの声に珍しく明らかな不快の感情が混じっている。
その言葉にこの声の主が、自分に対して攻撃魔法をぶっ放した魔法使いだと言うことがわかった。
「なぜ保健室に連れて行く?ここで回復魔法かければいいだろう?」
「…今、クラスに回復魔法を使える人間がいないんだよ。わかった?」
なぜか息を呑む声が聞こえた。
「…これだけ人がいて、誰も?」
驚いたような声音。
「今、いないだけですわよ?リンディアナの双子がいればこのような傷ぐらい…。」
サシャの声が聞こえる。
「リンディアナ?リンティ…聖女の国か?」
「そうですわ。聖女の血を引く子達ですから、このくらいの傷でもものの数分で…。」
「数分!?数分も掛かるのか?!聖女の子孫が!」
「きゃあ!大声出さないでくださいまし!当たり前でしょう?それともあなた、メントスのこの怪我を見て軽傷だとでもおっしゃるつもり?」
サシャのイラついた声が聞こえた。
だが、どうやら相手は聞いていない雰囲気を感じた。
そして呟きが聞こえた。
「…まさか、これほどとは…。」
愕然とした声音。
一体何に驚いているのかわからないが、早く保健室に連れて行ってほしい。
「…とりあえず、こいつ連れて行くから。どいて。こいつ死なせたら流石にあんたが只じゃ済まないよ。」
軽薄な男の思ったよりずっと硬い声が魔法使いに向かう。
メントスは継承権は限りなくないに等しいが、王族である。
その王族に怪我をさせることだけでもおそらく担任教師であろうこの魔法使いはクビになること間違いないことであるのに、この上保健室に行かせない事で万が一のことがあれば、本当に首と胴が離れかねない。
それを言葉には出さないが言っているのだ。流石に邪魔しないかと思われたが…。
「……い。」
「え?」
魔法使いが何事か言う。
声が思った以上に小さく、思わず聞き返すと、盛大な溜息がもれ出た。
「はああ、まったく。必要ないって言っているんだ。」
「はあ?あんた、人の話きいて…。」
カールが非難の声を上げた時だった。
「治癒の風」
ぽわん。
声と共に体を温かい空気の様なものが包んだかと思うと、急速に体の痛みが引いた。
回復魔法だ。だが、その効果は。
「え?」
「あ…」
クラス中から驚きの声が上がるのが聞こえた。
一体何が起こっているのか、わからない。そんな驚嘆の声だ。
嘘のような気持ちのよい暖かさと柔らかな風がメントスを包み込み、そして。
ものの数秒で、あれだけ痛みのあった体が嘘のように軽くなっていた。
そうしてそっとメントスは目を開けた。
特設頁

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